20 ハッピーエンドと、幸せヒロインと、あとがき的なもの


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 ここまで付き合ってくれた素敵な読者の皆さんに、その後の顛末について語ろうと思う。


 まず、何やかんやあって、私も情けない姿や、色んな無様を晒してしまった訳だが、終わり良ければ全て良し、という言葉がある。

 つまりは、そういうことだ。


 王子くんはまた私の王子さまになってくれたし、それだけで私は幸せである。

 恋愛脳バカだとか、恋に恋して他のことが何も見えなくなっている愚か者だとか言われるかもしれないが、何とでも言うがいい。

 今の私は無敵だ。

 もう幸せで幸せで仕方ない。ハッピーがエブリデイだ。


 王子くんとのキスは本当にもう体がとろけてしまいそうだったし、世界にはこんなにも幸せなことが存在していいのか、と思ったくらいだった。

 王子くんは「ごめんな」と言いながら私を強く抱きしめてくれたし、耳元で「大好きだよ」とも囁いてくれた。

 私がやって欲しいと言ってくれたことを全部してくれた。

「愛してる」とも言ってくれたし、お姫様抱っこもしてくれたし、頭も撫でてくれたし、何度も何度も抱きしめてくれた。

 キスも捨てがたいが、私は彼に強く抱きしめてもらうのが一番好きな気がする。


 もう本当にカッコ良すぎる。思い出すだけでも体がジンジンと痺れてしまう。

 彼は私だけの王子さまだ。


 ~~~~~~~~っっ! 


 王子くんと結ばれることができた日の深夜、私はベッドの上で眠れないまま枕を抱きしめて転がっていた。

 あぁ、こんなに幸せでいいんだろうか。

 今の私なら、何でも許せそうな気がする。

 そうだ、今後他の子がちょっとくらい王子くんと仲良さそうにしていても、余裕をもって対応しよう。


 あんまり束縛し過ぎるのも良くないって聞くし。

 うん、そうしよう。……我慢できるかな。

 でも、ちょっとくらい嫉妬しても、彼なら許してくれそうな気がする。

 なんたって、私たちは相思相愛なのだ。やばいにやける。


「えへ、えへへへへへへへ、うぇへへへへ……っ」


 もう夜も遅いけど、今、電話してもいいかな……。

 ついさっき別れたばかりな気がするけど、また声が聞きたい。

 い、いいよね……。


 結ばれた最初の記念日の夜なんだし。今夜は眠れそうにない。きっと彼もそうだろう。

 そこでふと私はあることに気付いた。元の女の子の体に戻ることができた自分を改めて見下ろす。


 これ、学校に行く時、どうしよう。



 ●



 セアちゃん曰く、私の体にかかった魔法は解けたが、光希だった私という存在が無くなる訳ではないらしい。


 つまりどういうことかと言うと、学校の皆から、私は男と認識されたままである訳だ。


 騒ぎにならないよう色々対策を考えたが、とりあえずしばらくの間は男装して学校に通うことになった。


 私が急に縮んだと、学校では大騒ぎになった。

 


 ●



 私が王子くんと結ばれてから一か月ほどが過ぎた。


 季節は梅雨が明けたばかりというくらいで、夏の匂いがし始めている。もうすぐ夏休みだ。

 そう、夏休み。夏休みである。

 毎日が休みだ。一日中王子くんとイチャイチャできる。

 もう最高だ。


 彼との甘く熱い夏に思いを馳せてニヤニヤしていると、私の隣にいた千花ちゃんが呆れたようにため息を吐いた。


 私たちがいるのは新校舎の屋上で、今はお昼休みだ。

 昼食中の生徒たちが周りにたくさんいる。付き合いたてのカップルみたいな二人もいた。

 うんうん、恋はいいよね。


 ちなみになぜ私と千花ちゃんと昼食を取っているかと言うと、今日は王子くんが風邪を引いて学校を休んでいるからだ。

 最近疲れた顔を見せていることが多かったし、心配だ。

 放課後お見舞いに行ってあげなくちゃ。


「あの、光姫先輩」


「なに? 千花ちゃん」


「……最近、王子先輩とはどうなんです?」


「え? どうって?」


「いや、なんというか、まぁわたしが言うことでもないかもですけど、流石にもうちょっと控えた方がいいかと。見かける度にくっついてますし、流石に学校でああいうのは」


「そ、そんなに、くっついてるかな……? 普通だと、思うんだけど……」


「…………」


 変な表情になる千花ちゃん。


「いや、まぁいいんですけどね」


千花ちゃんとは、この一か月の間も色々あった。

 私はまだ学校で男装を続けていて、どうにかこうにかバレないようにし続けている訳だが、実は千花ちゃんには正体を知られてしまっている。


 卑怯な私が彼女と王子くんのことを邪魔してしまったり、他にも色々あったというのに、私のことを許してくれたし、その上でまだ私と仲良くしてくれているし、本当に良い子で、可愛い子だと思う。


「光姫先輩って、ほんとに王子先輩のこと好きですよね」


「な、なーに、もう、千花ちゃんってばいきなり」


 面と向かってそんなことを言われると照れてしまう。


「光姫先輩、あんまり重すぎるのも、男の子的にはキツいらしいですよ」


「うん、知ってる。だから私も最近はちゃんと気を付けてるよ」


「…………ならいいんですけど、まぁ」


「……?」


「いや、ぶっちゃけ心配なんですよね。もし仮にの話ですけど、別に変な他意がある訳じゃないんですけど、光姫先輩、王子先輩にフラれたらどうします?」


「やだなぁもう千花ちゃん、私と王子くんが別れる訳ないじゃん」


「……初めはみんなそう言うんですよね」


 千花ちゃんはどこか悟ったような顔をしながら呟く。


「ま、わたしは先輩があの時の選択を後悔してたとしても、知ったこっちゃないですけど」


「なんの話?」


「わたしは確かに男好きですし、軽い女かもしれませんけど、都合のいい女ではないので、今更先輩が何を言おうとも付き合ってあげる気はないということです。女の子は気まぐれなんです。まったく、先輩もバカですよね」


「え? え? な、なんの話!? う、う、浮気、じゃないよね!? どういうこと!?」


 すると千花ちゃんはくすりと小悪魔っぽく笑って、「見解の相違ですね」と言った。

 い、いや、その顔可愛いけど、本当にどういうこと……?


「いやマジで先輩とは何もないので安心してください。少なくともわたしは、ですけど」


「ち、千花ちゃんなんでそんなイジワルなこと言うのっ!? そんなこと言われたら不安になるじゃん!」


「うーん、なんか光姫先輩ってイジメたくなるんですよね。女の子だと分かってからは特に。あ、そういえば、わたしのクラスにずっと王子先輩のこと気にしてるかわいい子がいてですね、カナタちゃんって言うんですけど」


「あーっ、やめてやめて!」


 ――とまぁ、今の私の学園生活と言えば、そんな感じである。


 何はともあれ、私は王子くんと結ばれて、幸せな日々を送っている。これはもう、めでたしめでたし、と言ってもいいんじゃないだろうか。


 私は恋の試練を乗り越えて、真実の愛を勝ち取ったのだ。ハッピーエンドである。



 〇



 特に他意はないが、セナとの会話について一部抜粋する。


「なぁ少年、おとぎ話や、どんな物語もそうだが、ハッピーエンドで終わる話ってあるだろう?」


「急に何の話ですか?」


「オレはたまに考えるんだよね。めでたしめでたしで終わったお話のそのあとについて。だって、そのあとにも彼らの物語は続いていく訳だろ? ただ、文字や絵にはされないというだけで」


「まぁ、そうですね」


「この世に運命はあるし、奇跡も起こるけど、絶対だけはないんだよ。完全無欠のハッピーエンドが、登場人物の一生の幸せを保証するわけじゃない」


「結局セナさんは何が言いたいんですか」


「ま、要するに、そういうハッピーエンドのあとに起こり得る困難やすれ違いも、結局青春には違いなくて、最後の最後の最後にはまた幸せに辿り着いて欲しいな、っていう、お願いの話さ」


「もう訳が分からん」



 ●



 一つ、この物語を締める上で、あとがき的なものを挟んでおこうと思う。 


 あくまでこれは、私と〝彼〟の、ありふれているようで、不思議に弄ばれた恋愛にまつわる、騒がしさとすれ違いに満ちた日々の記録だった、ということである。


 私と彼と他の皆の日常はこれからも続いていく訳で、このあとの騒がしさとすれ違いに満ちた日々については、素敵な読者の皆さんのご想像にお任せしよう。


 まぁ、大体そんな感じである。


 ただ私は、この先何があったとしても、結局最後に辿り着くのは私と彼の幸せであると信じている、絶対!

                  

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プリンス×プリンス(プリンセス)~俺の親友(男、イケメン)が、かつて愛を誓い合った幼なじみ(女、美少女)であることに俺は気付いていない~ 青井かいか @aoshitake

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