第8話 最強執事の弱点

 追いつけない。追いつけない。

 お嬢様から命じられ取引したルビーの入ったリングケースを追いかけている。【神速】を使っているとはいえ、はじめに指輪をとられた時のタイムロスが響いている。

 路地の分けれ道に来てしまった。どの方向へ言ったか目視できていない。【神速】含め私の能力の持続時間は5分。もたもたしている暇はない。仕方がない、3つ目を使うしかないようだ。

 

【神眼】・・・①地形を俯瞰した図を頭の中に受かべる能力

       ②???

 

 俯瞰つまり上から見た図を描くことできる。いわゆる神視点というやつだ。この狭い路地裏を俯瞰して……走っている男がいる。なにやら、抱えているようだ。この男がルビーの宝石を奪ったにちがいない。

 こいつに追いつくためのルートは……

 こっちだ。【神速】+【神眼】で必ず追いついて見せる。


 なかなか追いつかない。おそらく見失わせるようにホイッスルが頭の中で道順を指示しているのかもしれない。クソ・・・・・



 しばらく走る。

 なんとか追いついた。あっちはこちらを、少し一瞥してぎょっとした顔をしている。まさか、追いつかれるとは思ってなかったよな。貧民街の少し開けたような場所に出た。  

 ここだ。【神力】はもう切れてしまったが、【神速】の勢いで相手にタックルをかける


―――ドン


 という音がしてリングケースを奪った相手が壁に激突した。そろそろ神速も切れそうだ。これで、リングケースをこいつがもってなかったらおわりだ。衣服をまさぐってみると、ルビーが入ったリングケースに間違いなかった。こいつが囮だったらいよいよお手上げだった。

 建物の上から誰かが、落ちてくるのを感じた。


★ホイッスル★

 右、左、右。僕は、家の屋根を乗り移るながら

【吸引】の能力を持つバギーに【号令】で指示していた。


吸引バキューム

・・・一度、目視したことのある物質を200目メートルの範囲内から引き寄せるこ  

   とのできる力。


 僕が、リングケースをパスしてもらって逃げてもいいが、その場合、追われる対象が僕になるだけだろう。ジングウの身体能力なら、簡単につかまってしまう。


 ジングウには弱点がある。能力を使い切った後は、へろへろになって動けないのだ。【神力】【神速】【神眼】の3つを使い切った後なら、疲労感もすさまじく動くことができないだろう。

 貧民街の広場でジングウがタックルした。バギーがやられたのだ。

 6年前、盗賊団『義』の一斉検挙の際は命からがら逃げだした。そのあと、ジングウの行方は分からなくなっていた。てっきり、捕まってシーフ爺と同じ西部の牢屋に入れられてると思っていたが、まさか執事になってるとは。貴族嫌いで有名だったお前が逆に、貴族に仕えているとはな、なんの冗談かと思ったよ。そろそろ、決着をつけよう。

 僕は屋根の上から飛び降り、真下のジングウへ短剣を振り下ろす……


☆ジングウ☆

 【神力】【神速】は時間切れ。もう間もなく、【神眼】も時間切れを迎えようとしていた。ただ、ホイッスルの位置は、意識の外にならぬようしっかり補足していた。

 頭上からの攻撃をかわす。ホイッスルは少し驚いた顔をしたが、ひるまず第二、第三撃目の攻撃を短剣で振るってくる。

 それをかわして、こちらも帯刀している短刀を抜き反撃をする。ホイッスルが距離をとる。


「なあ、ジングウ、僕たちの仲間に戻らないか。シーフ爺が出所して、また『義』のトップになってくれたんだ。成長したお前なら即戦力になれるよ」

 シーフ爺は、かつて『義』を統率していた男で、盗賊団のトップのじじいということでシーフ爺という呼称で呼ばれていた。冷酷で抜け目のない男だった。シーフ爺はブルドン家とパラディアム家により、共同管理されてある、ヘルディアン王国で一番堅牢な監獄に収容されていたはず。あの大罪人なら出所どころか死刑になっていてもおかしくない。嘘を伝えて、私を動揺させてミスを誘おうとしているのか。

「あの、じじいは、能力ある貧民街の若者を犯罪に手を染めさせることで、中間搾取をしている、ただの人間の屑野郎ですよ」

 【神眼】も切れるのを感じる。

「どうやら、お前とは、もう分かり合えないみたいだ」

 ホイッスルが突っ込んでくる。


 早い!それをなんとか、はじき返す。こいつ私の能力がすべて切れるのを待っていたのか。


★ホイッスル★

 これでおわりだ。さらに、何撃も加えていく。すべての能力が切れた後のこいつなら僕でも対処可能だ。


――キン


――キン


――ヒュン


 短剣が短剣にはじかれるか、かわされて空を切る。大丈夫、あいつはもう限界だ。勝てる。勝てるぞ。


――キン


――ヒュン


――ヒュン


 なぜだ、なぜ当たらない。僕は貴族側に寝返ったお前を絶対に認めな……

え!?嘘だろ。


「ああ、があっ」



☆ジングウ☆

 隙ができたのを感じた。それを見逃さず、相手の腹にけりを入れる。

「ああ、があっ」

 相手からうめき声が聞こえる。反撃される前に距離をとる。

「なぜ、そんなに動くことができる!?能力は使い切ったんじゃないのか」

「弱点を突かれることが分かっているのに対策しないわけないでしょう。特に、6年前の一斉検挙の日、能力が切れた直後に殺されるところだったんですから。日々訓練して、能力を使い切った後でも多少動けるようになったんです」

 

 半分はったりだ。多少は動けるようになったの事実だが、ホイッスルとの攻防で限界は近い。これで、諦めて逃げてくれないか。

 


 走ってこちらにくる音が聴こえてきた。ホイッスル今日は私の勝ちだ。少し派手に騒ぎすぎたな。

「いたぞ!!ジングウさんの前にいるのが盗賊団だ。」

 城下町検非使じょうかまちけんびしの3人が槍を構える。城下町検非使とは、ヘルディアン王国警察省の組織の一つで城下町の治安を守る任務が割り当てられている。

「覚えていろよ、ジングウ。この借りは必ず返すからな!!!」

 ホイッスルが屋根に飛び乗り再び逃げていく。2人の検非使が追うが、あの2人ではおそらく捕まえることはできないだろう。

「大丈夫でしたか。ジングウさん」

 残った検非使が声をかけてくれる。

「あっちで、オリビアが戦っているんです。増援……がは、がは」

 言葉に詰まる。私ももう限界みたいだ。

「オリビアさんならすでに保護しました。傷だらけでしたので、町の医者に運んでいます」

「ありがとうございます。私もそこ向かいます」

 オリビアごめん。あんな偉そうなこと言って、戻って助けることができなかった。私はふらふらした足取りで、歩き始めた……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最強執事と最恐王女 へいあん @Heiankizoku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ