第7話 最強メイドの矜持
ボーグが、また殴ろうとしてくる。それに合わせて、【神力】を発動し、拳に拳を受けようとする。
「バカが!その腕、折れちまうぞ!」
なんか言っているがどうでもよい。
―――ゴン!!
「痛えええええええええええ!!!」
どうやら拳が砕けたのは、相手のほうだった。相手がひるんでいるすきに、もう一発相手の腹にたたきこむ。
「がは……!」
馬鹿でかい図体をしたボーグとかいう男はその場に倒れこんだ。残りは雑魚が7体。【神力】の発動継続時間は3分だ。そのあいだに倒してしまいたい。
一人がこん棒で殴りかかってくる、それを避け顔に一発。その間に、鉄パイプで殴ろうとしてきたやつにも、カウンターで一発入れる。残り5人。
【神力】を使っているあいだは、普段の力の2倍出すことができるので、攻撃受けた相手は大体一発KOすることができる。
続いて殴りかかろうとする、2人の攻撃をかわし、両腕を左右に開く形で2人にクリーンヒットさせる。残り3人。
その時だった。自分の内ポケットから、シャツの襟をぬけて、リングケースが飛び出ていった。嘘だろ。手を伸ばすがオリビア、ナイフ使いのよくわからない盗賊を飛び越えて、路地の向こう側に吸い寄せられる。何が起こったか一瞬分からなった。
その刹那、盗賊の残りの一人がメリケンサックをはめ私を殴った。なんとか、ガードできたが腕が痛む。
「何をやっているんですか、ジングウさん!!!対象を引き寄せる系統の能力者です。はやく追いかけてください!!!」
理解はすでにしている、しかし……
「私のことはいいですから早く、お嬢様に殺されたいんですか!!」
オリビアを見捨てても、殺されそうだが……
「私が、セレーネお嬢様のメイドの中で一番強いのを忘れたんですか?」
そう語りかける、背中は震えている。
【神力】+【神速】。今、発動している【神力】に【神速】を加える。残り三人の後頭部を高速で殴って気絶させる。これで少なくとも、オリビアが後ろから襲われる心配はない。
「おいおい、勝手に盛り上がっているここは通さねえぞ!!」
ジャック使いのサンがしゃべる。私はそれを、無視し、人力で路地の高いところの壁を蹴り、その勢いでオリビアとサンを側の盗賊団全員を飛び越して、リングケースが消えていった暗闇のほうまでたどり着いた。
「なんて脚力だ……」
サンはぽかんとしている。
正直、【神力】+【神速】で盗賊団を瞬殺できるだろう。ただし、今は1秒でも惜しい。私は、後ろ髪をひかれながら、
「オリビアさん、必ず戻ってくるのでそれまで耐えてください!!」
と言い残して、リングケースを取った犯人を追う選択を取った。
☆オリビア☆
「待ってます、約束ですよ……」
彼はもう、路地の闇の中に消えてしまい、この言葉が聴こえるわけもないのだけれど……
というか、本当に行ってしまうんだな。行けと焚き付けたけれど、私よりやはりお嬢様優先なのだ。さっきは、セレーネお嬢様のことは別に何とも思ってないみたいな素振りをしていたくせに……嫉妬してしまう。
「あの執事なしでかてると思ってんのか?ああん?いいぜ、お嬢ちゃん胸もでかいし、俺の奴隷になってくれるなら生かしてやるよ」
陳腐なセリフを吐くなあ。すでに、こっちは3体は雑魚を倒しているのに。このナイフ使いのサンを含めてあと、4人だ。
そのうちの、一人が無策に殴りかかってくる。【反撃】発動。
【
能力。
相手の腹を思いっきり殴る。これで4人倒した。流石に疲れてくる。
今度は2人同時にこっちに向かってくる。同時攻撃は【反撃】の対象外だ。なんとか攻撃をかわす。一人が連続して、殴りを入れてくる。チャンス!【反撃】発動。それをよけて重いっきり顎に打ち込んでやった。よし、あと2人
それが、終わるか終わらないかのうちに、木の棒でもう一人が思いっきり横腹を叩いた。
「いっつううう……」
思わず声が漏れてしまった。もう、一撃入れようと相手が、木の棒を振りかざす。
【反撃】。
それを横にさけ、相手の横腹に思いっきり蹴りを入れた。浅いと思ったけれどなんとか倒れてくれた。
残りは、ナイフ使いのサンとかいう奴一人だけだ。
「早く来な、下郎が」
私はわかりやすく、挑発する。私の近くでナイフをふるった地点で勝負がつく。
しかし、何をおもったか、サンは、こちらを向きながら、 後ろに距離を取っていく。
まずい。まずいまずい。それはまずい。こんな、バカそうな男でも闘いから学んだというのか。
「お前の能力は分からないが、近接戦は不利そうだ。こうやって、ナイフを遠くから投げれば、いいんだろ!」
一本のナイフが私の頬をかすった。
ああ、負ける。簡単に弱点を見破られた。後ろに走って逃げようか。いや、そしたら背中にナイフが刺さって死ぬだけだろう。しかし、投げられているナイフをかわしながら、相手に近づくほどの胆力が湧いてこない。
脇腹が痛む。弱気になってしまう。ここで死ぬのだろうか、それともこいつの奴隷にされてしまうのか……
――――
優秀な執事やメイド等の使用人を輩出することで有名な、10大貴族ソロアード家の出身だった。先の大戦で、貴族性の脆弱性が指摘され、大戦後は、徹底した実力主義になってしまい、今では執事出身の父が、ソロアード家の代表を務めるほどだ。そんな、優秀な父・母・兄妹に囲まれた私は凡庸であった。もちろん、一般の使用人と比べたら優秀かもしれない。しかし、父を中心とするソロアード家のなかではすこぶる落ちこぼれだった。
スキルも例外ではない。【反撃】は戦闘系スキルだが、1対1にしか対応してない、遠距離攻撃には弱いといったとてもじゃないが汎用性のあるスキルとはいいがたかった。
しまいには、ソロアード家からだされて、ヘルディアン城内の使用人として出向になってしまった。王都のメイドといえば聞こえはいいかもしれないが、都合のいい理由付けで、無能な私を追い出したかっただけじゃないかと勘繰ってしまう。
しかし、お嬢様はそんな私に対して、
「その劣等感を私の側で燃やして、いつかソロアード家見返してやりなさい」
と言って側においてくれた。
ジングウは、いつも、使用人は激務とか、『平民の労働時間に関する法律』に背いてるとかいうくせに、休みの日の大部分をスキルの訓練に使っている。
彼はスキルを5つも持っているくせに、体力の限界がくるまで、何回でも使える私たちとは違って、一日に三回しかスキルをつかえない。その上、3回使い切ってしまうと動くのも億劫になるほどの疲労が襲うというデメリット付きだ。そう、彼は最強にして最弱の能力者なのだ。
ジングウに付き合って、たまに訓練する。私の胸が揺れるのをガン見するのを許す気はないが、アドバイスは的確だ。ジングウがボールを投げて、私が避ける訓練をよくやった。固有スキルを磨く練習はしないのかと聴くと、
「それももちろん重要ですが、それは優秀なオリビアさんなら当然してるじゃないですか。この固有スキル至上主義の世界では、相手に固有スキルの弱点を突かれたときどのように立ち回るかも同じくらい重要です。だから、遠距離の攻撃を避ける練習をしているんです。近距離戦に持ち込めばオリビアさんは最強なんですから」
と教えてくれた。
彼はチート能力を持ってるくせに誰よりも努力家で、私の弱点だらけのスキルを最強と言ってくれた……そんな彼に私はあこがれを抱いていた。
でも、彼に、どうしていつもそんなに頑張れるのかと聞いても、はぐらかされてしまう。私がこんなに恋焦がれている人は私を眼中にすら入れてくれず、いつもどこか遠く見ているのだ。
――――
だめだ、諦めきれない。まだ彼は、私を見てくれてはいないじゃないか。
ナイフが飛んでくる。それをかわして、相手のほうへ近づく。
だから、まだ死ぬわけにはいかない。
ナイフが飛んでくる。それをぎりぎりかわして、さらに距離をつめる。
ここで、諦めたらセレーネお嬢様やジングウの横に立つことができない。
ナイフが飛んでくる。今度は肩をかすめる。このくらい問題ない。
「うおおおおおおお!」
男みたいに野太い声を出し、相手に突っ込んでいく。ジングウさんとの訓練
無駄にはしませんよ。
ナイフが飛んでくる。距離も大分近いせいで避けられない。いいよ。左手くらいくれてやる。私は左手の手の甲でナイフを受けた。すごく痛い。相手をもう殴れる位置に来た。
「クソがよおおおおおおおお!!!」
相手は叫びながら、私にナイフを振り落ろす。そんな大振りが当たると思っているの?
【
彼はすこし、宙に浮き、そのあと地面を転がり、路地の建物に激突すると、気絶した。
「はあ、はあ、はあ。あとは頼みましたよ、ジングウさん」
私は、その場に座り込んだ。
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