第6話 最強執事のおつかい
ああ、めんどくさい。なんで、買い物なんかに出ないといけないのか。そんな雑用は下っ端の執事に任せればよいだろ。という顔をしながら、歩いていたら
「昔と違って貴族が好き勝手できる時代ではないんです。税金の無駄をなくすため、余剰なメイドも執事もいません。だから、手が空いていたら私たちのような統括の立場でも買い物くらいでなきゃならないんですよ」
と隣を歩くオリビアに注意される。行財政改革があった後の日本の公務員かよ!なんて夢のない異世界なんだ。
「しかし、転移局には相談すれば目的地までひとっとびだったんじゃないですか」
ヘルディアン城の中には、いくつかの省がありその中で庁や局に分かれている。例えば、魔法省転移局のように。転移局の中には転移系の魔法が使える能力者が所属している。まあ、このように能力によって、専門部隊を、省ごとに配置するよう制度を整えたのが、前王ローウ・ハースブルクの功績の一つなわけなのだが。
「そんな簡単に、仕事を終わらせれば、また別の仕事を本日中に頼まれてしまいますよ。それに、今回目的地は複数なんですから、一か所に早く着けたとしても結局そこから、城下町徒歩移動するのであまり意味がありません」
オリビアのいうことは最もだ。なら、ゆっくりいくか。そう思いながら先ほど露店で買ったマンゴージュースを飲む。おいしい!
「ジングウさんは、セレーネお嬢様のことどう思われてるんですか。」
がはっ……あやうくジュースを吹き出しそうになる。というか、すこし噴き出した。
「どうとはどういうことでしょうか。ご主人様としてお慕いしておりますよ。」
「あんなにいじめられてるのにですか?その上、他の女の人と付き合うことも許してくれないじゃないですか」
たしかに、私はお嬢様の地獄の特訓を耐え抜いた魅力があるせいかはわからないが、よくメイドや他の能力者、はたまたヘルディアン国民の女性からもよく言い寄られる。ちょっとした誘惑や本気の告白まで、幅があるがそれのどれか一つでも受け入れようものならお嬢様の鉄血制裁が下ること間違いなしだろう。
それがなければ俺もチーハー無双だったのに……
「いえいえ、未熟な私が女性と付き合うなんて早いと教育してくれているんですよ」
「え、他の女性にとられるのが怖いだけでしょ。過激な愛情表現とは思わないんですか?」
愛情表現?あの程度が……?ほんとの愛情表現ってのは好きな人を24時間ストーカー、その後監禁して、邪魔な人間を一匹残らず排除する。そういうことを指すのですよ。
―――――――――
「○○君、愛してるわ♡24時間あなたのことだけを考えてるの。仕事は最小限にしてずっとあなたを愛し続けたいのよ。本当はね、仕事の間そんな椅子にあなたを縛り付けておきたくないんだけど、君が何度も何度も逃げようとするから、仕方なかったんだよ。でもね、君が逃げようとするのは、私のことが嫌いだからじゃなくて、私の愛の強さをテストしてくれてるんだよね、○○君って意地悪なんだから♡まあ、でもそんなお茶めなところも大好きだよ。でも、たとえ、君との間にどんな障害があったって、乗り越えてみせるよ、今までだって邪魔した女たちは全部消してきたし♡さ、そろそろいつものようにエッチしよ♡。君の子を早くさずかりたいな、子供は3人そのうち一人は……」
支配、依存、妄想、崇拝、排除等々……すべてのまともじゃない愛情表現を持っている女だった。なんでいつも同じようなことを永遠と早口で繰り返し話すことができるのだろうか、聴いているこっちが頭がおかしくなりそうだ……
―――――――――
すこし、昔のことを思い出し、どす黒い感情がむねに湧き出してきた。オリビアとの会話に集中しなければ。
「あんなのはただの独占欲だけでしょう。愛情からは遠いですよ」
「いや、その独占欲が好きってことなんじゃないですか」
愛情の基準が前世のせいでバグってしまっているのかもしれない。普通の人間なら、王女様から寵愛を受けたら喜ぶものなのだろう。だが私の目標はもっと上、国王になることだ。セレーネ王女様はただの踏み台かつ、これまでの数々受けてきた仕打ちに対する仕返し相手に過ぎない。王女様が好意を寄せてくれてるなら、それを逆に利用してやる。
オリビアは、納得できないという顔でこちらを見ている。具合が悪いのでこの話は早々に打ち切りにした。
城下町の宝石屋に着いた。流石、能力者の警備員に厚く守られていて、これなら強盗も簡単には入れないだろう。
そこで、ルビーがついた指輪をうけとる。これは、セレーネお嬢様からアトリア様に送る戦勝祝いのプレゼントらしい。しかし、初めてルビーの現実で初めて見た、前世でもサファイアと並んで、とあるビックゲームタイトルでしか聞いたことのない代物だ。
「宝石綺麗でしたね。次は、貴族御用達の洋服屋ですね」
オリビアが次の目的地を教えてくれる。
「そうですね。近道のためにこちらの路地から行きましょうか」
先ほど、もらった指輪ケースが内ポケットに入っていることを確認しながら、人気のない路地を進んでいく。昔は、この城下町で盗賊をしていたので道にはかなり詳しいのだ。
「こんな路地に入ったら危ないんじゃないですか。貧民街を拠点とする犯罪組織に襲われるかもしれませんよ」
「6年前の一斉検挙の時、『義』も消滅しましたし、最近組織がらみの犯罪も王都であまり聴かなくなったでしょ。だから、安心安全です」
6年前、貧民街を温床とする犯罪組織『義』が、王都のいたるところで犯罪行為をしていた。それを、見かねた国王が、『義』のアジトを突き止め、能力者を一斉に派遣することで、盗賊の大量検挙と『義』の消滅に繋がったのだ。
そして、自分も6年前その組織に所属していたのだが……
この路地の前と後ろが誰かによってふさがれる気配があった。近道のために無精して路地裏を使ったことを私は早くも後悔し始めていた。
「ジングウさん!?安全じゃなかったんですか!?」
オリビアが、非難の言葉を浴びせる。
「まあ、何事にも例外があります。」
平静を装って答える。
「昔は、『義』の一員だった君が、今では検挙する側に回ってるなんて面白い冗談だね」
家の屋根から、だれかが見下ろしながらしゃべってくる。
「そうだろ、6年前に比べてギャグセンスが高くなったんだよ、ホイッスル」
私は、ホイッスルに届くよう少し大声で返す。
【号令】……20人以内の相手の脳内に直接言葉を発することができる。
ホイッスルの能力だ。簡単にいうと【神伝】の超上位互換である。この能力をつかって、私たちにばれることなく、盗賊たちに命令をだし、挟み撃ちにできるよう段取りを整えたんだろう。
「なあ、ホイッスル、見逃してくれないか。俺たちはしがない使用人でたいした金
なんてもっちゃいないんだ」
ついつい貧民街にいた頃の荒い口調に戻ってしまう。
「いいぜ、見逃してあげるよ。そのポケットの中にある宝石を渡してくれたらね」
その言葉が開戦の合図になった。私側には、丸太のような腕のパンチが、オリビア側にはナイフが振り下ろされる。
私たちは寸でのところで、それをかわすと、敵から距離をとり、オリビアと背中合わせになる。
「力自慢のボーグとナイフ使いのサンを含む15人以上がお前たちの相手だよ♪はやく降参したほうがいいんじゃない♪」
ホイッスルは高らかに叫ぶ。
「そっちのナイフ使いお願いして大丈夫ですか?」
背中にいるオリビアに話しかける。
「いいですけど、早くそっちのデカブツを倒して、私の側に加勢してくださいね」
「了解です」
不幸中の幸いなのは、オリビアがセレーネお嬢様のメイドの中では一番強いことだ。だが、あの人数の相手はキツイいだろう。こちら側を早めに片づけることにしよう。
【神力】発動。
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