第41話 隠し事 完
「どうしました?」
恵空なら謝るか? 『教えたところで変わらないんですから』とか言うんじゃないか? うん。恵空ならそう言う。
なぜそう言わない? 言うと不都合なことがあるからじゃないか?
どこが不都合なんだ? リーゼン達に助力を頼んだこと? ブルーがコミナミの探してたやつだってこと?
でもこの二つのどちらも変なとこないよな。羽化のときはリーゼン達の助力がないと危険だったし。……あれ? それは変じゃないか?
恵空は産女以降は羽化まで仕組んでないと言ったが、ニョタイモのとこまで手を回してたのにポポピケのこと仕組んでないのは違和感があるな。
『恵空。お前ポポピケのこと、あらかじめ知ってたか?』
『はい。一応地球に来たときに調べていますからね』
やっぱ知ってたのか。
『じゃあ、なんで最初にポポピケと会う前に知らない振りしたんだ?』
『知らない振りはしてませんよ。好戦的なのがいないのと、当時のあなたがもっている情報から技術力がこちらが上だと判断できると言っただけです。知らないとは言ってません』
そうだったっけ?
『前から思ってたけど、このテレパシー使えなくない? 全然嘘見抜けないんだけど?』
内緒話くらいにしか使ってない気がする。
『あなたにぶいですからね』
『じゃあ、なんであのとき知ってること言わなかったんだ?』
『えっと……』
やっぱなにか隠してることあるな。
『一体なにやったんだ? 怒る量を半分にしてあげるから言いなさい』
『半分? 普通怒らないからとか言いませんか?』
『そこは恵空に信用があるからな。俺が怒らないようなの今更隠さないだろう? だからほぼ確実に怒らないのは無理だ』
怒る自信がある! だが素直に言えば怒りは間違いなく小さくなる。
『嫌な信用!!』
『さあ、言え。言って楽になっちまえよ。カツ丼食うか?』
『それ私もちになるんですよね? 知ってますよ?』
ん? 期待してた反応じゃないな? 『どうして刑事みたく取り調べするんですか? むしろあなたは捕まる方でしょう?』とか言うと思ったんだが。
『ゴチになります』
『いやあなたは食べなくていいでしょう!』
『あ、俺は超大盛で』
『あなたフードファイターじゃないんですからそんなに食べられないでしょう!』
! 今の答えとさきほどの違和感がつながる。わかったぞ。
『お前、刑事って単語避けてない?』
『くっ! どうして今のでわかったんですか?』
『だって二回も刑事って単語避けたから』
いやー、俺の勘が冴えわたって怖いわー。
『いえ、カツ丼のとこ以外避けてませんよ?』
『あれ? じゃあフードファイターのは偶然?』
『あれのどこに刑事が入るんですか?』
『刑事だけに、デカ盛』
『あ~、そういうことだったんですね』
あ、当たったの偶然だったんだ? 勘が冴えわたってなかったんだ?
『てか刑事って単語避けるってことは、なにやらかしたの? ……いや、恵空が今更そんなの怖れないよな。なら、刑事から隠したいものが連想されるのか?』
『うう……』
これは当たりっぽいな。
『まだ俺は隠し事に辿り着いてない。今なら怒りが半分で済むぞ?』
『……そうですね。わかりました。でも怒ってもいいですけど、嫌いにならないでくださいね?』
え? そんなこと確認するくらいのことしたの? 聞くの怖いんだけど?
『……そりゃ嫌いにはならないけど。マジでなにやったの?』
『ごめんなさい。レッドを大怪我させて催眠で操りました』
レッド? あの戦隊ヒーローの? グリーンにやられて瀕死だった?
『え!? なんだってそんなことを?』
『……あれ? あんまり怒ってない感じです?』
『いや、まだ事情がよくわかってないからなんとも言えないけど。そこまで怒ることじゃないかな? いや、もちろんなんてことしてんだよって気持ちはあるけど』
恵空がそんなに心配する理由はわかんない。
『え!? あれ? で、でも人を催眠するのは非常に嫌がってましたよね? しかも罪なき人を実験材料にしたら怒るくらいですから、激怒するかと思ったんですけど? レッドは全然悪いことしてませんよ?』
あ、そういう考えだったんだ? そう言えば最初から催眠するなとか言ったな。
『あー、そういうことか。恵空は勘違いしてるな。俺がそういったことで怒る理由は法律とか感性じゃない。保身だ』
『……保身とは?』
『催眠とかするなって言ったときは、まだ会ってそんなにたってなかったろう? だから催眠が効かなかったときとか、解除されたときとかのことを考えてたんだ。そのときは敵は増えるってことだから望ましくなかった。だから真剣に催眠とかするなって言ったんだ。自分の安全のために』
べつに催眠が嫌いだから使いたくないわけじゃないんだよ。
『あ、そういうことだったんですね? じゃあ今そんな怒ってないのは安全だと思ってるからですか?』
なんかあんまし言いたくないこと聞いてくるな。
『まあ、それもあるけど……』
『けど? なんで恥ずかしがってるんですか?』
落ち着け。恵空は彼女なんだし恥ずかしいことじゃない。……よし! 言うぞ!
『……危険な目にあっても恵空と一緒にいる方がいいからな』
『……むっはー! うれしいこと言ってくれますね』
恵空が腕を全力で抱きしめながら、ぐりぐりと頭を胸におしつけてくる。
『痛い痛い! 腕が極まってる! 折れる!』
押し付けられた胸の感触を喜べるレベルじゃない。仕方ないので折れないように怪力を発動させる。
『あ、ごめんなさい』
『危なかった。怪力発動させてなかったら折れてたぞ?』
『役に立ってよかったですね!』
笑顔が腹立つな。
『なんで戦闘じゃなくて日常で役立つんだよ』
『能力の平和的活用は素晴らしいと思います』
『彼女に抱きつかれたとき腕が折れないようにするのって、それなんてH的活用?』
『そんな破廉恥な平和の略初めてですよ』
『引っかかったな。これは平和じゃなくて、ストレートに変態の略だ。抱きつかれたとき胸があたるから、その時間を延ばせるという意味で変態的活用だ!』
『ここにきてそのまんまの意味ですか。……あれ? 変態扱いは嫌だったのでは?』
恵空がもっともなことを聞いてくる。確かに今まではそうだったが、これからは違う。
『そうなんだけどな。気づいたんだ。変態扱いされるってことは、そこからどんな変態行為をしてもデメリットがないなって』
我ながらいいことに気がついたと思う。
『いや普通に嫌われるのでは?』
『俺は恵空を信じる!』
『あなたそれ、私を盾にするときも言ってましたよ。まあ、あなたの変態性は置いておいて、レッドを操ったことは怒ってないんですね?』
『まあ、事情次第かな。なんでそんなことしたの?』
流石に愉快犯とかならマジに怒る。
『ニョタイモが最後になんかスイッチ押そうとしたじゃないですか? 失敗してましたけど。あれって特にですが、宇宙人に対する危険物が発射されるスイッチだったんですよ。それで、それをあらかじめ取り除きたかったんです。そのためにスイッチに登録されている人間が必要でした。それがレッドです』
『なんでレッドがそんなところに登録されてるの?』
『ニョタイモの孫なんです』
そうだったんだ? ……考えてみると、レッドってあれだね。
『え? レッドって自分の爺さんが女体盛りの趣味持ってるの? そんで恋人は強盗犯? 可哀想だな』
なかなか見ないレベルで運が悪い。
『さらには宇宙人に操られますしね』
『それはお前だな! てかさ、もうニョタイモ操ればよかったんじゃない?』
そうすれば全部解決してたじゃん。
『それはできません。まず私の催眠は相手を意のままに操るものではないので』
『そうだったの?』
『はい。本人が心の底から拒絶する行為はできません。なのでニョタイモの孫でありながら宇宙人のポポピケと協力しているレッドに狙いをつけたんです』
『へー。それならべつに怒らないかな? 危険物を取り除かせただけだし』
べつに本人とかに危害を加えてなればいい。そもそも、いつも使ってる一般人に気にされなくなるやつって広い範囲で言ったら催眠みたいだし。
『あ、でもそのためにブルーの二股とかばれるようにして、結果レッドが刺されました』
危害加えてた! 瀕死になってた!
『それは怒るかな!! なんでそんなことしたの?』
『いやー、催眠って意志が強い人間にはあんまし効ないんです。いえ、催眠するだけなら力技でいけるんですけどね? 今回はスイッチとかを操作したり繊細な催眠が必要だったのでそういうわけにはいかなかったんです。なので精神的に追い詰めようと』
『で、予想以上にこじれて大惨事になったと』
『……はい。あれは失敗でしたね』
そうだね。大失敗だね。
『あとでマジでレッドになんかしような? そういやレッドは怪我治ったんだっけ?』
ぶっちゃけ一回も会話してないからあんま記憶にない。決して俺の記憶力が問題を抱えているわけじゃない。
『はい』
『それはよかった。それじゃ、結局戦隊で生き残ったのはレッドとピンクとイエローか』
『はい。まあ、イエローは精神が病んでますが』
『ああ、可哀想にな』
恵空がいなければ精神を病むこともなかったのに。
『あれ? イエローのこと嫌いだったのでは?』
『……? そうだけど?』
『えー。可哀想に思うのに嫌いなんですか?』
『そりゃだって、感想として別物じゃん。なに? 恵空はレッドのこと可哀想に思わないってこと?』
『ええ、まあ』
嘘でしょう? 間接的とはいえ、恵空のせいでレッド瀕死なんだよ?
『この宇宙人超やべえ』
そう言えば恵空は俺以外の地球人個人にはあんま関心なかったんだった。
『いやいや! 可哀想と感じるのに嫌いになる方がおかしいですって!』
まだまだ地球人のことがわかってないな。
『残念だがこれは地球人では一般的だ。「きゃー、牛可愛いー!」って言いながら生きた牛見たすぐあとに「この牛ステーキ美味しー! やっぱ新鮮なお肉は違うなー」って言うから』
『えー。マジなんですか? そう言えば水族館のときもそんな感じのことを言ってましたね? 地球人怖いですね』
まあ、食べちゃいたい好きって言葉とかあるし。
『ああ。というよりレッドのこと可哀想に思わないのは恵空がちょっとアレなのか、ムラムラにとっては一般なのか、どっちなんだ?』
『ムラムラで一般的ですよ!! 大抵が私と同じ意見です』
『それ恵空がレッド嫌いだからじゃ?』
『いえいえ! ムラムラは大抵がレッドのこと嫌いだと思います』
『そうなん? どんな感性? そういや恵空、一番気に入ってるのがグリーンだったな。あれも大抵のムラムラはそうなの?』
感性が結構違うな。これが異文化か。
『はい』
『じゃあ、グリーン死んじゃって残念だったな』
『いえ? そんなことありませんけど?』
『あれ? お気に入りだったのに?』
『はい。あの時点ではそうですけど、あのあとでお気に入りじゃなくなりました』
『どういう基準なんだよ? 全然わかんないんだけど?』
『簡単ですよ。あの時点でグリーンがお気に入りだった理由。それは好きなものはなにをしても手に入れるという気概を感じたからです。レッドの嫌いな理由は、二股を知ったときにブルーを責めてたからですね。そんな暇あるならグリーン刺しにいけって思います』
いや、グリーン刺しにいったらレッドダメージ負わなくない?
『過激だな。それでお気に入りじゃなくなった理由は?』
『殺されてしまったからですね。結局好きなものを手に入れられてませんから』
『そんな理由なんだ』
『はい。ムラムラの価値観は、好きなものはなにをしても手に入れる、ですから』
怖いな、おい。ムラムラは皆そんな修羅みたいな感性してんの? してるか。パートナーのことでもめたら星を滅ぼすほど戦うって言ってたし。
『そっかー。それはわかったから、だんだん腕極めるのやめてくれない?』
『嫌です。そして手に入れたものはなにがあっても手放さないのもムラムラの価値観です』
『……逃げたりしないんで、腕極めるのやめてくれない?』
痛いんだけど?
『これは逃走防止ではありません。あなた今とおりすがりの女の胸を見ましたね? それに対する嫉妬です』
しまった。なんか恵空の気をそらすものはないかなと見渡してたら、つい。
『待って待って。あれは反射的にチラッと見ただけだから。べつに嫉妬するようなことじゃないだろう?』
『ムラムラは嫉妬深いので、します』
『いやあんなので嫉妬されたらどうすればいいんだよ!?』
反射的には見ちゃうよ?
『私だけを見てください』
恵空がうっとりした顔で言う。
『普通に言われたら良い言葉なんでだけど、今の状況だと恐怖なんだけど。それもしかして物理的な話ししてる? 前見んなってこと? どうやってそれで歩くんだよ?』
『なに言ってるんですか? だからこうして腕を組んでるんじゃないですか? 私がナビゲーションしてあげますよ! ストレートゴーで真っすぐ進みますよ?』
『なんか盲導犬みたくなってる!』
『確かお好きでしたよね?』
『そうだけども、俺は真っすぐ向いて、真っすぐ歩きたいの!』
『ではこれで解決ですね!』
恵空はそう言って、前から頭を抱え込むように抱きついてきて、俺の腰を両足で挟む。そして俺の目の前には当然恵空の顔がくる。なんかコアラ抱っこしてるみたい。あ、腕解放された。
『そうだけど、これ恥ずかしいんだけど?』
『大丈夫です。気にされないようにしてますから』
『えー……このままだと本とか選びづらいじゃん? あ、エロ本買いにいかなきゃ』
『……仕方ないので、この体勢は移動のときだけにしますか。そう言えば二次元のエロは許容しますが、三次元のエロは嫉妬対象ですからね? 本や映像、画像などは気をつけてください』
おいおいおいおい! とんでもないこと言ってくれるな!
『え!? そんな! 俺のコレクションの中には実写もあるんだぞ!?』
『帰ったら捨てましょうね』
にっこりとほほ笑む恵空。しかしその目は笑っていない。
『嫌だー! 捨てるなんて嫌だ!』
『まあまあ、私が同じ格好で写真撮って渡してあげますから』
え? マジで?
『うう……わかった。でも捨てるのはもったいないからやめて』
そんな非道なことできない! あれらにはお世話になったのだ。まさに恩を仇で返す鬼畜の所業!!
『なんでそんな思い入れがあるんですか。まあ、見ないならいいでしょう』
『よっしゃ!』
延命成功! しかしまさかこれで嫉妬されるとは。世間のモテ男はどうしてるんだ?
『ああ、それから』
『ん?』
まだなにかあるの?
『当然パソコンの中身もチェックしますからね?』
……そこもなの?
『たしゅけて』
『ダメです』
余談だが、実写系のものを置いておく部屋は羽化のときの殻の素材が使われており、さらに常時三体の全身からビームを放てるガーディアンに守られていた。
嫁イリアン~「一緒に帰りましょう」「エロ本買いにいくから無理」~ 鳥片 吟人 @kaburagishin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。