第40話 デート?

「ふんふんふ~ん、ふんふふんふ~ん」


 今、大学に行っている。隣でご機嫌に鼻歌歌ってるのは恵空だ。今日は大学終わりに店で食事したりする予定だ。そしてせっかくなので一緒に行きたいとか言って着いてきてしまった。まあ、一般人に気にされないので構わないのだが。


 そしていつもガラガラの散髪屋にさしかかったときに、珍しくというか初めてそこから出てくる人間がいた。


「え?」


「お?」


 ……リーゼンだ。リーゼンが出てきた。でも今から大学行くから、忍者服着てないのでむこうはわからないだろう。


「天麩羅?」


「なんでわかったんだ?」


「いや、恵空ちゃんが腕組んでほっぺすりすりしてんのは天麩羅しかいねえだろう?」


「あ……」


 そういや恵空がいたんだった。


「しかしリーゼンここの散髪屋使ってんだ? てか全然短くなってなくない?」


「べつに短くしたくて来たんじゃねえ。これから先生とデートなもんでよ。ビシッと決めるために整えてもらったのよ」


 見てみると確かに以前見たときより整っている印象を受ける。


「あー確かにいつもよりしっかり固まってる?」


「だろう?」


「それにしてもついにデートか。おめでとう」


「あんがとよ。そういう天麩羅も恵空ちゃんとデートか?」


「いや、これから大学に行く」


「そういや未成年って言ってたな。大学生だったのか」


「ああ。これから倫理の授業だ」


「……天麩羅。授業はちゃんと単位取れるやつ選んだ方がいいぞ?」


「取れるわ!」


 ちゃんと出席して真面目に授業受けてたら簡単に単に取れると評判の授業だわ。先生を評価する本買って調べたわ。


「そうですよ! 再提出くらったレポートも私が手伝ってあげたので大丈夫です!」


「やっぱ無理そうじゃねえか?」


「いやこれは恵空の羽化とかで忙しかったからそうなっただけで、なんら思想に問題があるから再提出受けたんじゃないよ?」


「そういやここ最近籠ってたんだよな? 出席とか大丈夫だったのか?」


「ああ。俺そっくりなロボットに替え玉出席してもらった」


「普通に代返してもらえよ。技術の無駄遣いがすげえな」


 リーゼンが呆れた顔で言う。


「この人、友達いないので無理ですよ。第一皆に敬遠されてるので代返は無理ですよ」


「え? 俺皆に敬遠されてるの? あ、もしかして怖がられてるって言ってたやつのこと?」


 なんか思念波が強すぎて云々って聞き覚えがある。


「いえ、それとは違う理由です」


 そんなのあるの?


「お前さん一体なにやったんだ? あとやっぱ友達いねえの?」


 やっぱ?


「心当たりないな。俺どっか変?」


「……パッと見でわかるような変なとこはねえな」


「もう一回会えば予想がついて、もう二、三回会えば確信できますよ?」


「じゃあ、今は考えてもわかんないってことか。恵空教えてくれ」


「ずっと同じ服着てるからですね」


「ん?」


「ずっと同じ服着てるからですね」


「いや、でもこれ違う服だよ? デザインが同じなだけで」


「そういうとこです」


「天麩羅マジか。なんだってそんなことに?」


 リーゼンに可哀想なものを見る目で見られた。なぜ? 同じ服着るのは面倒がなくていいんだぞ?


「いや、単に選ぶのが面倒なんで同じにしてるだけだけど? しかもこれで敬遠されるの? なんで? 洗濯はしっかりしてるよ?」


「いえ、まあ、いつも同じ服を着て誰とも話さずいる。そして話しかけようにもなぜだか不安になってできないので、もしかしたら幽霊かなんかじゃないかと疑われてるんです」


 そんなこと思われてたの? 同じ授業とってるやつ馬鹿なの?


「ぶはっ! お前さん幽霊だと思われてんの?」


「初めて知ったな」


「そんなわけで代返は無理です。というより先生に返事のとき見られるのでそもそも無理です」


「まあ、そういうことだ。そろそろ授業始まるからまたな」


「おう」


 そう言ってリーゼンと別れる。





 大学からの帰り。恵空と腕を組んで歩いていたら恵空に話しかけられる。


「どうです? 美女とのデートは?」


「……楽しいは楽しいが、正直言って家の方がいいな」


「なんでそんなこと言うんです!?」


「いやだって外を散策するにしてもロボがいるんだから、代わりに外歩いてもらって、家の中でその映像見るとかの方がいいと思うんだけど? 環境的にも利便性的にも」


 外より中の方が快適だからな。


「はー。わかってませんね。それじゃあ雰囲気でないじゃないですか!! 乙女心が全然わかってませんね」


「そういうもんなの?」


「そうですよ。二人で映画見て帰りに店によって感想言い合ったり」


「ロボに行ってもらった方が一人分の値段ですむし、他人がいない二人きりの家で楽しめるだろう。食事も再現できるんだし。しかも盲導犬の映画のときみたいにクソみたいな客がいるかも知れないと思うとな」


「……遊園地はどうです? 二人でアトラクションを楽しんだり」


「いいけどなに乗るんだ? 大半のはトライクもどきで同じ機動できそうだけど? それとも亀かと話すやつとか? でもこれもロボの方がよくないか?」


「……水族館……もロボの方がとか言いますよね」


「あ、今晩寿司食べたい」


「水族館楽しむ適正ゼロですね!?」


「いや魚食べるとこ併設してある水族館結構あるだろう?」


 第一水族館で見る魚なんてあんま食べないようなのばっかりじゃないか?


「……くっ! なにかを観る系のは全滅なのはわかりました。では一緒になにかする系は?」


「それならいけそうな気がする」


「ピクニックは?」


「大自然の映像でよくない? あと虫とか飛んできたら発狂するよ?」


「そうでした。アウトドア全滅してました。……ではスポーツはどうです?」


「それならいけるかもしれないけど、スポーツって楽しいって感じたことないんだよな」


「え? 日本なら野球とかサッカーとかしますよね? どれも楽しく……あ、友達」


 恵空から憐みの目で見られる。冷静に考えたら恵空もリアルで友達と会うことは少なかったはずなので、こんな目で見られる筋合いはない。あとスポーツは学校で強制的にやらされるから友達いなくてもできる。


「そうじゃないから。友達の有無じゃなくて、どうしても納得できなくてな」


「なんか変なルールありましたっけ?」


「そうじゃなくてさ、野球ならバットでボール叩くじゃん?」


「はい」


「なんでボールなんだよ。壊れるもの叩いた方が絶対面白いのじゃん」


「スポーツマンシップが死んでる。ミステリ小説の被害者より早く死んでる」


「たぶん超能力のせいだな。宇宙船みたく壊滅したみたいだ。ミステリ小説で例えるなら復讐系加害者の犯行の理由になった、過去に被害者に殺害された加害者の大事な人くらいじゃないか?」


「ああ。物語が始まる前から死んでますもんね」


「まあ、そんなわけでスポーツやるのは肌に合わない」


「あれ? でもあなた、確か授業でスポーツとってましたよね?」


「ああ。必修に入ってたからな。仕方なくな」


「今はバドミントンでしたよね?」


「ああ。少ない人数でできるの探したんだ。残念ながらビーチバレーはなかった」


 あったら速攻申し込むのに。


「当然ですね。あれ? あなたなら水泳とか探すのでは?」


「競泳水着は好きだがプールには嫌な思い出があってな」


「なんです? 泳いでたらパンツ脱げて全裸になったとかです?」


「いや? シンプルに溺れかけたからだけど?」


「あ、そうだったんですね。じゃあ、今も泳げないんですか?」


「いや、普通に泳げる」


「でもプール嫌なんですか? どんな溺れかけかたしたんですか?」


「正確な時期は忘れたがちっちゃい頃でな、その頃は性欲のセの字もなかった」


「それ過去語りの導入としてふさわしいです?」


「皆が自由にしてる中で俺はビート板持って泳ぎの練習してたんだ」


「本当に小さい頃からボッチだったんですね」


 それは今いいから。


「それで運の悪いことにプールの真ん中あたりで息継ぎのために顔を上げたら口に水が入ってな。そのまま咳き込んだんだ。それで当然ゆっくり息をするために泳ぐのやめたら足が底につかなくてな」


「なんでそんなとこで練習するんですか?」


「いや、端の方では水面が顎先ギリギリまでで息できてたんだ。でもプールが真ん中の方は端の方より底が深くてな。俺も驚いた」


「へーそうなってるんですか。それでどうなったんですか?」


「もちろん周りに必死に助けを求めたんだが、辺りは騒がしかったし俺も溺れかけてるんで大きな声出せなくてな。気づかれなかった」


「え? 気づかれなかったんです? それ溺れてません?」


「いや、大丈夫だった。今になって思えば気づかれなかっただけだとわかるが、当時はそうでなくてな。周りに必死に助けを求めても、笑顔で無視されることに絶望したもんだ。だから幼心に自分でなんとかするしかないと思ったら、次の瞬間にはプールにプカプカ浮いてた」


「はい? 溺れてはないんですよね?」


「ああ。超能力の目覚めだ。自分のことを軽くした」


「そこで!? そんなしょっぱい覚醒初めてですよ!!」


「やっぱそう? まあ、そんなわけでプールで泳ぐのは嫌だから探してない」


「な、成程。あなたが水泳嫌なのはわかりました。じゃあ、二人でプールに行くのはなしですね」


「いやそれは行くだろう」


 なぜそんな勘違いをしたのか。


「どうして!? 今まで話なんだったんです!?」


「わかってないなー。いいか? 授業で見られるのはチラッとだが、恵空は思う存分見られる。嫌な思い出など入る隙間もないわ!」


「あー。エロがトラウマを凌駕しましたか。しかしそんなにエロいのになぜバドミントン? あれはべつにエロいくないですよね?」


「シャトルぶっ叩いたときに羽が飛び散るさまが好きだから?」


 少しスカッとする。


「あ、そっちになるんですね。そんな感じでバドミントンできるんです?」


「ああ。基本壁に向かって叩いて羽をボロボロにしている」


「授業は!?」


「これが授業だけど?」


「いやいやいや! ペア作って打ち合うとか、試合とかでしょう!?」


「試合はコートが足りなくてな。常にできないやつがいる。そしてボッチの俺がその間どうなるかは、わかるな?」


 そうです。壁に延々とシャトルを打ち込みます。


「いやでも授業なんですからやれって言われるでしょう?」


「ふっ、三回で諦められたぞ?」


「なにしたんです? あとなんで自慢げなんです?」


「なにも? 授業の最初はいつもペアで打ち合うんだが、俺は当然毎回あぶれる。そして三回目の授業のとき、二人組作ってって言われたからあぶれるまでもなく先生の方に行ったんだ」


「そんなことで諦められます?」


「いや? なんか『最初から諦めるな! チャレンジ精神が足りない。チャレンジが! さあペアを探してきなさい。レッツゴー!』みたいなことを英語の発音が鼻につく感じで言われてな。仕方ないからもう一回探したんだが、もちろん見つけられなかったんだ。だから先生の方に行って、『アイムホーム。アイアムノットアローン、バットアイアムロンリー、ユーシー』(ただいま。私が一人ではありませんが、独りです、ご覧のとおりにね)って棒読みで言ってやったら、そこからなにも言わなくなったな」


 たぶん、正確には言うことが見つからなかったんだろうけど。


「悲しい。こんな心にくる英語の授業は嫌です」


「残念なことに体育なんだよね。まあ、体育はボッチの天敵だから。てか恵空も学校とかではボッチだったんだからわかるだろう?」


「いえ、私は王様と家来みたいな感じだったので。あなたのような真性ボッチではありません。仮性ボッチです」


「え? じゃあ二人組作ってとか言われても面倒じゃないの?」


「はい」


「なんたる裏切り行為」


 ないわー。そんなレベルでボッチだったとか。ないわー。


「あー、もうこの話はこれで終わりましょう! てか元の話題に戻りましょう! 物づくり体験とかどうです?」


「あ~それなら行く意味あるかな?」


 作ったものが将来場所を圧迫する気がするが、なんとかなるだろう。


「あ! 忘れてました! 宇宙に行けばいいんですよ!」


「どういうこと?」


「今まで気乗りしない理由って『家でいいから』でしたよね?」


「そうだな」


 わざわざ行く意味が見いだせなかったからだ。


「ですから、宇宙行きましょう。そうしたら観光とかは他の惑星です。これなら最初からお出かけしてるんですから行きますよね?」


「そう……かな?」


「ええ!? なんで疑問形なんですか!?」


「いや、最初はいいと思うんだけど、たぶんそう遠くない未来に宇宙船で家みたいにくつろぎ始めるだろうなって」


 そうしたら最初みたくロボットでいこうってなると思う。


「あー。あ! 大丈夫です。都会だとテレパシーを応用したスーパーリアルアトラクションがあります。これは実際にそこに行かないと体験できませんよ!」


「それなら行く気になりそう」


「ようし! じゃあ春休みとか行きましょうね!」


「ああ」


 機嫌が良くなった恵空がまた鼻歌を歌い始める。


 よかった。無事? デートが終わりそうだ。


 そう言えばリーゼンはうまくいってるのかな? 羽化のとき助けてくれたからか真剣に幸せを願える。……あ、そう言えば言ってなかった。


「そう言えばさ、ブルーがコミナミが探してたやつだったとか、言っといてくれよ」


「あー、ごめんなさい。あなた興味ないかと思って」


「まあ、そうなんだけどな。でもリーゼン達に助力を頼んだのは言っといてほしかったな」


「それもそうですね。ごめんなさい」


 素直に謝ってくる恵空。その顔は申し訳なそうに見える。なんか罪悪感がわくな。


「ま、まあ教えてもらったところでどうせ……ん?」


 変わらなかった、と言おうとしたところで気づく。

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