第39話 裏の告白・後

「ええ。まあ。最後に説明することがありますが」


「なに?」


「私があなたにしてほしいと言ったことは覚えてますね?」


「まあ、超能力を鍛えてほしいんだろう?」


 そのために色々大変な目に合ったんだし。


「それはなぜかは言ってませんでしたね」


「え? それは俺のこと目につけたきっかけだから超能力だからだろう?」


「そう言いましたが大事なことが抜けてますね。そもそも地球人は個々により多種多様な超能力を持つのが長所です。強さは関係ないんですよ。鍛えたら別のタイプの能力が身につくわけではないので」


「……そう言えばそうか。強いのは俺に目をつけたきっかけで、ボッチでも楽しそうな様子を見て惹かれたって言ったな」


 冷静に考えたら鍛える意味知らないな。


「はい。そこでなぜ超能力を鍛えてほしいと言ったかです。その理由はあなたでは決して想像できないでしょう」


「あれ? なんかちょっと小馬鹿にされてる?」


 馬鹿にしやがって。なんか目的あるってわかってたら、頑張れば想像くらいできるわ。


「友人関係が理由ですが予想できましたか?」


「人間どうしても無理なものはあるからな」


 頑張ればなんとかなるのは手の届く範囲だけだからね。


「そうですね。さて、どうして友人関係が理由かと言いますと……あれ? これ言ってあなたに理解できますかね?」


「リカイ、デキナクトモ、ソウゾウ、ハ、デキル」


「カタコトじゃないですか。そこらへんのオウムのレベルじゃないですか。えっと地球人がムラムラにとって非常に価値があるのは話しましたね? では、あなたの友人が宝を見つけて、その情報を秘匿していたらどう思いますか?」


 なぜ俺に友人関係で質問するのか? わからないのでテキトーに答えるか。


「どうして友情なんてものを人は大切にするのか? それは、儚いからだ」


「言い方がイラつきますが、そうです。友情に亀裂は入りますね」


 いやー、正解してしまったわ。これが成長か。


「でも教えてなんか困ることあるのか? 俺に手をださないように言っておけばいいことなんじゃないか?」


「そこで困ることがあるんです。ムラムラの習性ですね。では、もし私が友人に教えて、その友人が地球人を伴侶に選んだとします」


「そりゃ、価値があるんだからそうなるのも自然だよな」


「ええ。ですがそうなると問題が起こるんです。あなたとその選ばれた人が喧嘩とかしたらどうなると思います?」


 そりゃもちろん……ムラムラ同士の戦いになる?


「……地球が大変なことになる?」


「正解です。ムラムラは友情より愛情の種族なので、戦わずに済むことはありません」


「ムラムラに法とか仲裁者とかないの?」


「ありますが、決まりはムラムラ同士のことについてですね。伴侶が関係すると暴走するので絶対的な決まりなんてありません」


「成程。大変なことになるのはわかった。で、それがどうして超能力を鍛えてほしいになるんだ?」


「これから説明します。あなたにはわからないでしょうが、友人にはマウントの取り合いというものがありまして」


 おいおい馬鹿にすんなよ。それくらい聞いたことあるわ。


「あなたにはわからないでしょうがって枕詞いらないから。しかしそれは見たことあるぞ。『お前テストの点数いくらだった? 六七? どしたん? 調子悪かったん? 俺、八二~!』ってやつだな」


「……まあ、そうですが、例としては良くないですね」


「え? なんか間違ってた?」


「いえ、間違いではないのですが、本質的にズレていると言いますか。その例では上下関係が表面的ではないにしろできあがっているところに、さらにその関係を強固にしようとする例です。要するに四六の力関係を三七にしようとしています」


「そうなん?」


「はい。勝負して『俺の方が上だからな?』って言ってますね。実際点数聞いてますよね?」


「そうだな」


「そこがちょっと違います。あなたに超能力を鍛えてほしいと言ったのはマウントを取るためです。そして、私のマウントの取り方は、初手で十の力を見せつけ相手に勝負させない方法です」


「へー?」


 つまりどういうことだ?


「よくわかってないみたいですね。例だと友人に恋人のことなんて聞かずに『私の彼氏、超イケメンでお金持ち。この前も高価なプレゼントもらった。私の手料理をおいしいおいしいって言いながら食べてくれる。彼氏が私のこと好き過ぎて困る』的な話をするんです」


「なあ、それ嫌われないか?」


 友人がいない俺でも嫌われるってわかるよ?


「大丈夫です。友人に会う前に『イケメン、金持ちの巣窟を教える』とメッセージしている状態です」


「それで大丈夫なもんなの?」


「はい。さて、ここで重要なのがマウントの取り方です。生半可なことではいけません。相手も人生かかってますからね」


 友人関係って複雑なんだな~。


「そこで超能力?」


「はい。まあ、直接は関係ないんですけど」


「ないんかい!!」


 じゃあなんで鍛えさせたんだ?


「ムラムラは強い超能力もともと持ってますかね。伴侶がそうだとしてもそこまでのマウントにはなりません」


「じゃあ一体なにがマウントになるんだ?」


「羽化です。羽化の仕方」


「……なんかあれ特別だったの?」


「はい。そもそも羽化は本来ムラムラが支配している惑星に帰り、そこで行います」


「え!?」


「考えてもみてください。敵がいっぱいいるムラムラですよ? それが人生で最も無防備になる瞬間なんですから狙われまくりです」


「考えてみればそうか」


「はい。ですので現地で羽化をするということは、『ここは私の土地だ!』って宣言するにも等しい行為です。そして羽化の際に他のムラムラの手を借りないことは、それだけ伴侶を信頼している証になります」


「それでマウントが取れるってわけだな」


「はい。これだけすれば、万が一友人が地球人を伴侶に選んでも大丈夫です。もめないように向こうが気を遣います」


「ふーん。あれ? でもそれだと俺が超能力鍛える意味とかなくないか? 恵空は敵対勢力を裏から操れてたんだし」


「わかってませんねー。それだと、あなたがどれだけ凄いかでマウントとれないじゃないですか」


「……え? 俺って凄いの?」


 恵空に訓練でフルボッコにされてるし、羽化のときもかなり苦戦したよ?


「……わかってなかったんですか?」


「だってムラムラは超能力に長けている種族みたいだから、俺の超能力そんなに評価しないんじゃ?」


「おっとそんな勘違いしてましたか。まあ、私も最初は気づかなった部分もありますし、しょうがないですね。えっとですね、まずあなたの能力ありますよね? 物を軽くする能力」


「ああ」


「それ、私達の技術と合わせるとえげつない効果が発揮されます。それが巨大ロボの装甲ですね」


「そうなの? あれってそんな凄いの?」


「気づいてくださいよ。いいですか? 私が羽化するときに閉じこもった殻は敵の攻撃で凹んだりしてましたよね?」


「そうだな。危なかった」


 凹んだときは本気で心配した。大丈夫なのは聞いてたんだが。


「ではあなたの巨大ロボは危険でしたか? 凹んだりしましたか?」


 ……考えたらかなり被弾したのに凹んでない? 凹んだりしてたら、歪んで節を切り離しとかできないだろうし。いや腕はちぎれたな。でもあれは装甲じゃないのか。


「……そう言えばそんなことなかったな。やっぱ弾軽くしたからか?」


「それもありますし、あの巨大ロボが動けるからでもあります。あの巨大ロボと殻は同じ素材が使われているんですが、その素材は動かない拠点に用いれば鉄壁、しかし重すぎて動く物への使用は無理と言われたものです」


「でも俺普通に動かせたよ? しかもなんで殻の方は凹んでたのに、俺の方は凹まなかったの?」


「だからそれが凄いんですって。前代未聞、人類未踏の快挙です。そして凹まなかった理由は動けるからです。センサーで弾が当たる直前に衝撃を逃がすようにプログラムしているので大丈夫だったんです」


 動かせたから平気だったのか。しかし俺しか動かせなかったの?


「嘘だろう? 俺みたいな能力のやついないの? いやいや、動かせるでしょう?」


「いません。いえ、正確には動かせるのはいましたが実戦レベルで動かせるのはいませんでした」


「マジか。でもまともに動かせたのが快挙なのはわかったが、これってそんな役に立つ?」


「はい。巨大ロボの防御は実戦で証明されましたからね。これを殻自体に応用すれば、羽化は鉄壁からさらに一歩、完璧に近づきます。羽化はムラムラの死亡原因の最たるものですから、今後マッドな博士がこぞって押し寄せてきますよ」


「最悪の知らせ!」


「安心してください。今のところ良識を持っているマッドしかいません」


「あー、もしかしてマッドの意味間違えて覚えてる?」


 良識持ってるのはマッドって言わないんだよ。


「いいえ。狂気を上回る恐怖を与えてやればおとなしいものです」


「もしかして恵空ってムラムラの仲間になんかやった?」


「まあ、昔少しもめまして。おしおきをしましたね」


「それだけでマッドが止まるか?」


「むう……その、昔、博士とかが集まる会みたいなのに所属いてまして、そこでのもめごとなのでマッドどもは皆私と敵対した者の末路を知っていますから」


「一体なにしたの? てかそんなに怖れられてるんなら、わざわざマウント取らなくてもよかったんじゃ?」


 俺ならマッドすら怖れるやつと戦いたくない。


「秘密です。知ってるのはマッドどもだけなので、私の友人は私のことは普通の人だと思ってるはずです」


 秘密なんだ。


「そうか……最後に聞きたいんだが、なんで俺にそれ言ったんだ? 言う必要はないよな?」


「え? それはもちろん隠し事はない方がいいじゃないですか?」


「最初から最後まで隠し事してたやつが言う台詞じゃないな」


「それはほら、引かれても困りますし? 寿命を延ばす宇宙青汁とか知ってたらあんな素直に飲みませんでしたよね?」


「まあ、ためらいはするわな」


「まあ、もう隠し事はないですし、済んだことはいいじゃないですか」


「いいじゃないですかって、もうどうしようもなくなってから、言ってくるんだよな。マウント取るためなのはわかったけど、縦ロールのこととか教えてくれてもよかったんじゃ? べつにそれでどうこう言うことはないし」


 隠す意味なくない?


「すみません。驚かせたくて。まあ、あなたが縦ロールの顔覚えてなかったせいで私の方が驚かされましたが」


「ボッチが顔覚えるの計算に入れんなよ。……あれ? 妖怪どもと俺ほとんど戦ってないけどいいの? 俺の凄さ見せてマウント取りたかったんなら、あの集合体幽霊要らなかったんじゃないか? 俺だけでも簡単に勝てた気がする」


 三つ目のカラス天狗とかは手こずりはしたと思うけど。


「もちろん勝てたと思いますよ。でも正直妖怪どもは弱すぎて巨大ロボの凄さは伝わらないと思ったので、集合体幽霊に排除させることにしました。レベル差があると戦闘をスキップできるゲームとかあるじゃないですか? あんな感じだと思ってもらえれば」


「結構酷いこと言ってるな」


 しかも実際スキップできてないし。三つ目カラス天狗は鬱陶しかった。


「さて、もう言いたいことは全部言いましたが、他に聞きたいことはないですか?」


「ないな。けどさ、今までの話をまとめるとさ、恵空が目の前に現れてから危険な目にあった理由って友達にマウント取るためってことでいいんだよな?」


 すごくしょっぱい理由じゃないか?


「はい。でもそのおかげで未来の大戦争の可能性はほぼなくなりましたからね?」


「そうなんだけどさ……そういやリーゼン達やポポピケとかに手伝ってもらったのはいいのか? 俺のことでマウント取れないんじゃ?」


「いえいえ。逆です。手伝ってくれる現地人、他勢力の宇宙人がいることは高評価です」


「そうなの?」


 なんか感性が違うな。


「はい。地球人風に言うと『私の彼氏、人気者で皆に慕われてるんだ』的な?」


「へー」


「さらに遠距離攻撃縛りで羽化してますからね。もう凄まじいですよ? ムラムラの中ではもうあなたや私のこと知らない人いないだろうレベルで有名ですよ?」


「やっぱ砲撃とかの遠距離攻撃用意しなかったのわざとかよ! あと有名ってなに!?」


 銃みたいなのがなかったからとりもちみたいなやつ苦労したよ?


「いやー、私達の偉業を知らしめるために配信してたんですよね。そしたら大人気に」


「俺なにも知らないけど!?」


「緊張して集中力損なうかなーって言いませんでした」


「言えや!」


「ごめんなさい。次からは言いますね、性欲の化け物さん」


「次とかないから。あとなんでいきなり性欲の化け物呼ばわり?」


「あなたのムラムラの間での異名です」


「なんでだよ!!」


 三日間頑張って戦った俺のどこが?


「え? 羽化二日目にえっちなゲームができずに拗ねるとこ見たムラムラ達がつけましたよ?」


「あそこ配信されてんの!?」


 大恥なんてレベルじゃないよ?


「はい。大人気です。最近エロにがっついて失敗することを天麩羅って言ってるらしいですよ?」


「流行みたくなってる!」


「私が食べ物の天麩羅のこと教えてあげてからは新しいやりとりが生まれましたよ。『今日こそいけそうな気がしたんだがダメだった。マジ天麩羅』『衣はげなかったか。天麩羅だけに』とか」


「へこむわー」


「まあまあ、これであとは平和ですから」


「でもなー」


 知らないとこでめっちゃいじられてるのは心にくる。


「むう。御不満のようですね。いいでしょう。あなたが得た平和な生活がどれほど素晴らしいものか実感すれば不満も消えるはずです」


「俺が不満な原因は恵空だからな? ……それで、なにするの?」


 そう聞くと恵空が満面の笑みで抱き着いてくる。


「では、これから思う存分イチャイチャしましょう」


望むところだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る