好きになった人に話しかける事すらできないヘタレな僕が頑張ります
でずな
好きな女性と僕
俺には最近好きになった人がいる。
彼女の名前は橋本咲。花が咲くの咲。丸眼鏡でポニーテールの少し内気な子だ。
初めて彼女のことを見たのはいつだっただろう。
明確に覚えているのは休日、友達の家で勉強会をした時に彼女がいたということだ。『いた』というよりかは『来ていた』と言った方が正しいだろう。俺と同じく友達に呼ばれ来ていたのだ。
最初、彼女の印象は悪かった。僕が問題の解き方を教えてやっても、素っ気ない返事をするばかり。目も合わせてくれなかったのだ。そして帰り道、同じ電車だったが二人でいるのも気まずく別々の車両に乗って帰った。
度々僕達はグループで集まり、会うようになった。対戦ゲームをしたり、ゲーセンに行ったり、勉強をしたり。
その間当然何もなかった。
それもそうだ。
僕と彼女は友達の友達という関係。
だが、その頃からなんとなく帰りの電車は隣の席に座っていた。お互い距離感を掴めず、無言の気まずい空気だったのを覚えている。
いつからだろう。
彼女の事を目で追うようになったのは。
いつも遊んでいる男友達に言われ気付いた。
『なぜだろう』
彼女の挙動一つ一つを見ているだけで愛おしく思える。だが、僕達はふたりきりの時、一度も喋ったことはない。
否、喋れない。
喋ってしまったら、この空間が崩れてしまえようなそんな気がしてたまらなかった。
なので喋ったことは無い。
あるとすれば、「おはよう」や「じゃあ」のような挨拶だけだ。彼女はそれに「うん」と言うだけ。
だが、それがいい。
『何がいいんだろう』
返事をした時に見せる崩れた笑顔だろうか。それとも、僕が見えなくなるまで見送ってくれることだろうか。
おそらくその両方だ。
僕は彼女の事をよく知らない。
好きな食べ物。嫌いな食べ物。好きな事。嫌いな事。好きな映画。嫌いな映画。好きな色。嫌いな色。好きなゲーム。嫌いなゲーム。好きな言葉。嫌いな言葉。好きな芸能人。嫌いな芸能人。好きな服。嫌いな服。好きなアニメ。嫌いなアニメ。好きな靴。嫌いな靴。好きな髪型。嫌いな髪型。好きな本。嫌いな本。好きな場所。嫌いな場所。好きな動物。嫌いな動物。好きな人。嫌いな人。
『全て知りたい』
だが僕は声もかけることもできないヘタレだ。
いつか終わりがくかもしれないこの関係を、少しでも長く続けたいと思ってしまうヘタレだ。
そんな事を思っていたらあっという間に冬になっていた。今年は珍しく、あたり一面真っ白………にはなっていないが、手袋をしないと指先が痛い。
今でも彼女との関係は変わらない。
帰りの電車で隣に座り、軽く会釈して帰る。
……のだが、今日は違った。
僕は今日も「じゃあ」と言って後ろを向いた時、服が引っかかった。
否。
後ろから服が引っ張られていた。後ろを振り向くと、彼女の小さく赤くなった手で僕の服を引っ張っていたのだ。
「なに?」
そう問いかけても返事はなく、彼女の顔は俯いていて反応がわからない。寒いので一刻も帰りたいと、彼女の冷たい手を振りほどく。
その時だ。
「っぐす……」
これはそう。
鼻を啜っている音。
それと
泣いている時の音。
顔を上げた時、彼女の目が真っ赤になっていた。
『なぜ泣いているんだ』
寒いから泣いているのか?
帰りたくないのか?
おそらく両方違う。
なぜなら今彼女の顔が顎下にあり、両腕が俺の体を締め付けているからだ。
そうか。
彼女は……。
「咲?」
何も返事をせず、涙を堪えられていない目で俺を見上げてきた。
あぁかわいい。
『大丈夫か?』
自分に問いかける。
いいんだ。これが俺の後悔しない道だ。
ぶつかって砕ければいい。
そう。
彼女が今そうしたように、この気持ちを自分の中に閉じ込める必要なんてないんだ。
「……手袋、貸すよ?」
場違いな言葉。
もし俺がイケメンだったら、ここで頭を撫で愛を囁いただろうか。
だがこれでいい。
急がなくても。
まだ、今は。
好きになった人に話しかける事すらできないヘタレな僕が頑張ります でずな @Dezuna
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