後編

12月12日(おそらくは)


 小屋で隠れているうちに私は寝てしまった気がついた。

どれくらい寝ていたのか分からないが、外をみれば寝る前よりも暗くなっている。

 この後の出来事からもおそらくは日が変わってると判断した。


 眠ることで少しは落ち着けたがそれでも心にしみ込んだ不安は払拭されていない。

 この時に私の心を閉めていたのは、街の外にいく事だった。

 街の外が安全である保障なんてない。ただいかなければいけないとつよく思っていた。

 

 どうしてあんなに強く外に行かなければと思ったのか分からない。ただそうしなければと考えが浸透していた。


 だがどうやって街の外まで行くのか。下には四本腕がいて危険だ。人間もすべてが安心できる存在ではないことは、もう理解していた。


 ならば残るはビルの屋上を伝っていくのが最も安全であるとこの時の私は判断した。

 その判断は間違いであるとは知らずに。


 休んでいた小屋にあったロープや脚立などを使って隣のビルへの橋を作成し始めた。

 この付近のビルがかなり隣接して建設されていて助かった。

 脚立にロープを括り付けることで、脚立を隣のビルに渡すのと

回収するのは楽だった。


 だが楽にビルを渡れていたのは3棟までだった。

そこからのビルがこれまでよりも離れていたのもあるが、一番大きい理由は、空にあった。

 離れているビルの屋上から飛び立つ存在に気がついたからだ。

 空だ。空をとんでいる奴がいる。視界の端に見えた時は大きな鳥だと思っていた。

 でも違った。あまりにも大きい。

 そしてなによりも何かを持ち上げてる。少しして理解した。

 あれは人間だ。おそらく私と同じようにビルの屋上に避難していた人があの空を飛ぶやつに襲われたのだろう。


 もはやビルの屋上も安全ではない。私は意を決してビルを降りることにした。あの四本腕がいないことを確かめながら、降りた後どうやって街の外に行くべきか考えてた。

 街の外まではそんなに距離は無い。

 一気に駆け抜けるべきか?

 それとも隠れながら移動するべきか?

 

 迷ったすえに街の外まで走り抜けることにした。

 判断材料は四本腕が感知能力が分からないこと。空を飛んでいる奴が下まで降りてこない保証がないこと。

 いろいろあったが一番の理由はもう終わりにしたかったからだ。街の外に行って終わる確証なんてなかった。でもなぜか確信があった。


 走った。周りの様子をある程度は見ながらだが、全力で走った。これまでの人生の中で一番の走りだったと思う。

 運がよかったのか、それとも街の外側近くには四本腕や空を飛ぶやつがいないのか分からないがようやく私は街の外側にたどり着くことができた。

 

 街の外側はなにもないような荒野だった。

 かつて遠景には山が見えていたが、今は黒い霧のようなものに覆われてなにも見えない。

 もっとも異常に感じたのは、街と荒野の境目だ。

 まるで包丁で切り取られたケーキのような断面を見せるビル群。

 風かなにかで、砂でも入り込んでもおかしくないにも関わらず道路と荒野のあまりにも綺麗すぎる境界。

 

 改めて恐ろしくなった。これまでは異様な姿になってもこれまで目にしていた街の風景だったが、街の外は何も無い。

 本当に異常なほど何も無い。

 だが戻る選択肢はとれなかった。もう街も安全とは思えないから。

 

 街の外に一歩、二歩、三歩。ゆっくりと足を進めた。

 最初こそ恐る恐る進んでいたが、あるものを目にして歩みを止めることになった。

 おそらくは看板かなにかだと思う。

 実際には何かは分からなかった。

 

 なぜなら地面が陥没して私は地下へと落ちていったからだ。


 地下に落下した後は気絶していたらしい。らしいとは後で聞いたからだ。地下にも生きてる人達がいて彼らに助けてもらえた。

 もし助けてもらえていなければ、死んでいるかもしくは重傷で動けなくなっていただろう。


 彼らから聞いた話もここで書いておく。

 

 彼らは地下鉄に乗っている時にこの異変に巻き込まれたらしい。私との大きな違いとして彼らには携帯電話を始めとした電気を使う道具を使用できたこと。電車こそ動いてないが、携帯や非常灯の類があるだけでもおおきな違いになっている。


 彼らの異変に巻き込まれた後に電車が停止。その後は歩いて地下からの脱出しようとしたが、地下で崩落が発生。電車内で救助を待ちながら脱出経路を探していたらしい。


 彼らも私の話を聞いて驚いていた。この異変は地下だけで、地上は無事であると思っていた人が思っていた人が多かったようだ。

 だが一部の人たちは携帯の電波状況から地上も危険だと判断して自力での脱出を計画していたらしい。

 

 彼らに助けられてようやく安心できた私はこのノートにこれまでの私が経験した出来事を書き残すことにした。

 脱出を計画していた人達から聞いた話では私達は別の異空間に迷い込んだ可能性。

 何かのきっかけで元の世界に戻れるかもしれないこと。

 そんな予想を聞くことができた。

 もし戻れるならどれだけ良いことか。


 しかし問題が発生した。地下の崩落が進み始める問題だ。

 ここに残っていると崩落に巻き込まれる危険性がある。

 

 だが崩落の問題と共に解決策も見つかった。

 脱出経路を探していた人達がこれまでふさがっていた地下の壁にもろい部分を見つけて、そこを掘り進み別の空間に辿り着くことができた。

 

 残っていた人達で話し合った結果、あたらしく発見された空間に避難することが決まった。

 私も同行することになった。移動予定日は明日。

 今日だけでも色々ありすぎた。かなり疲労しているが、一人でさまよっていた時に比べればかなり楽に感じる。


 このノートも持って起こった出来事を書くつもりだ。

 これが役立つといいのだが。

  

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 ここまでがノート記載内容で読み取れた部分です。以降は白紙もしくは読み取れない状態です。

 読み取れない原因として汚れで文字が見えない部分と記載内容が不鮮明な為です。

 

 またノートに記載された街や地下鉄に関しては、存在が確認されていますが向橋氏について武蔵県佐斯上市に問い合わせをしましたが、一年前から行方不明とのことです。

 そのほかにも一年前から行方不明者が例年よりも多く報告されています。

 現在はさらなる調査を進めています。





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廃電車から見つかったノートに書かれた異界探索記録 蛍氷 真響 @SINNKYOU

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