廃電車から見つかったノートに書かれた異界探索記録
蛍氷 真響
前編
廃棄された電車シートの奥かに挟まっていたノートが発見されました。
ノートの内容はあまりにも逸脱している為に当初はただのゴミとして対応する予定でしたが、記載されていた個人情報から持ち主と思われる人物が行方不明であることノート自体にも出所不明の物質が付着している事から、詳しく調査することになりました。
以降にノートの内容を記します。
************ノート記載内容************
12月11日 武蔵県佐斯上市
私の名前は向橋 宏
このノートには私の体験したことを書いている。
あまりにもおかしい事なので信じてもらえないかもしれないが、自分自身の考えをまとめる為にも世界がおかしくなってから事を覚えている限り書いておく。
できるかぎり客観的に書くつもりだがどうしても主観的になっている部分があることを念頭においてくれ。
最初の異変は静かになった事だ。
住んでいるマンションでTVを見ていたら急にTVが消えたんだ。
そして気が付くと携帯も電灯も家中の電気を使うものがなにも使えなくなっていたんだ。
この時までは停電とか、何かの障害なんじゃないかと思っていたが違った。
もっと大変な事になっていたんだ。
外を見てみるとまだ昼前なのに奇妙なほどに暗くて何も音が聞こえなかった。
それまであった車や電車の音。
いつも聞こえる音が何も聞こえなくなっていた。
なによりも変だったのは街が途切れていた。
自分の記憶が確かならマンションから見える景色は街と遠景に山が、見えていたはずだった。
だがそれが無くなっていた。
あるはずの街がある時点から唐突に無くなっている。
途中までは確かに記憶と同じ街の姿だ。
でもそれ以降は茶色の景色しか見えなかった。
まるでゲームかなんかで街の区画を切り取ったみたいに感じたよ。
果たして切り取られたのはどっちなんだろうな?
なんて考えで現実逃避をしていた。
だが急に奇妙な現実に戻された。
人の声だ。
それも悲鳴が聞こえてきた。
窓から慌てて探したよ。
そして見つけたんだ。走る人達を。
だがよく見るとはしる人達の最後尾の人がおかしい事に気が付いた。
それは腕が二本ではなく四本だった。
その手には棒状のモノを持っていた。
そこまで気が付いた時には、棒状のモノが投げられ走る人達の一人に突き刺さっていた。
襲っていたんだ。
人間じゃないナニカが。
慌て隠れたよ。
頭の片隅で隠れても意味がないのではと思いながら。
悲鳴が聞こえなくなってからゆっくりともう一度窓から見たんだ。
走っていた人達はいなくなっていた。
だが倒れている人とその人を引きずる四本腕ナニカは。
しばらくの間は部屋の中でウロウロしていた。
ここまで経験したことが現実として受け止めることができなかったから。
そんな時だ。玄関の扉を叩く音が響いた。
走っていた人達だろうか?それとも他の住人?
しかし音がおかしい気がした。ただの気のせいかと思っていたが、そのうち音があまりにも大きく連続し始めた。
私は恐怖にかられ逃げることを決意した。
どこに逃げるべきか迷ったが結局のところ玄関以外の出入りできるのは窓しかない。
下に行けばあの四本腕がいるかもしれない。
ベランダからとっさに上の階へと登り始める。
登りきるまでに扉を叩く音はますます大きくなっていく。
目に見えないにも関わらず恐ろしくて吐き気がした。
上の階へとたどり着いた時には、もう扉を叩く音は聞こえなくなっていたが、すぐに戻る気にはならなかった。
上の階のベランダで息を整えながら窓が開くか試してみた。
意外なことに窓は開いて部屋の中に入ることができた。
部屋の中に入った時には安心感と勝手に侵入したことについてなんて説明しようかと考えるくらいの余裕ができていたんだ。
でもそんな気分は部屋の中を見ている間に霧散してしまった。
一見すると部屋の中は問題ないようにも見えたが、
玄関の扉が開いてままなのに靴がおいたままだ。
この部屋の住人は良く知っている。
なにせ学生時代からの友人だ。靴は一足しかない妙なこだわりを持った奴だ。
そんな奴が靴をおいたまま、玄関の扉を開け、部屋にもいない。
何かがおかしい。
ゆっくりと玄関から廊下に出るとそこには、赤色が広がっていた。すぐに臭いでただの塗料ではなく血液であること。そしてあまりにも大量の血液でもし一人の人間から流れているなら命の危険があると嫌でも理解できた。
誰に?誰が?友人の安否。自分自身の安全。色々な思いが頭の中を渦巻いてしばらくただ突っ立ってるしかなかった。
だが左隣の部屋から物音が聞こえてきた。
誰かいるのではないか。でも危険な人ならどうしようかと悩んでいるると、物音が聞こえた部屋とは逆方向から扉が開く音がした。
後ろを振り向きまず気になったのは二本腕であること。
だけどその手には包丁が逃げられ、なにより赤く染まっていた。
包丁だけでなく体にも返り血と思われる赤色が広がっている。
包丁もちがこちらに駆け出すと同時に友人の部屋にもどり、
慌てて鍵を閉めなおした。
直後に扉を叩く音と怒鳴り声が響きわたっていた。
最初に部屋の入った時の安心感はなくなり、恐怖心が私の心を支配した。
どうして襲ってきたのか。友人はどうなったのか。それらを考える余裕はなくなり、ただひたすらに逃げだすため行動を開始していた。
だが逃げ道はひとつしかない。
窓から逃げるしかない。
しかしその後はどうすればいい?
外には四本腕がいる。
下の自室には扉を叩く奴がまだいるかもしれないが他の逃げ道を思いつかなくて、自室に逃げ帰ることにしたんだ。
落ちないようにベランダから降りようとしていた時に鍵が開く音が聞こえてきた。
どうやら部屋の鍵を手に入れたようだ。
どこから?
もしかして友人が持ち出した鍵だろうか?
それともマスターキーだろうか?
重要なのはどうしてよりもどうなるかだった。
もしマスターキーなら自分の部屋も危険な状態だ。
なによりもこのままマンションに留まることが恐ろしくなってしまのだ。
正直に言ってあの時の私は正気を失っている状態だったと思う。
急激に変化した街。四本腕。マンション内での出来事。
限界だった。
追い込まれた私の精神は逃走を選択した。
地面には四本腕。マンション内も安心とは言えない。
私が選んだのは隣のビルに飛び移ることだった。
今から考えてもおかしい選択だったと思う。
運が悪ければ地面に落ちてつぶれていろんなものをまき散らすことになっただろう。
それだけ追いつめられている状態だったとも言えると思う。
なんとか隣のビルの屋上に乗り移ったが、果たしてそこも安全でるとは言えないがもう私は限界だった。
肉体よりも精神がもたない状態だった。
屋上にはありがたいことに小屋があり鍵は開いていた。
小屋の中にはロープや脚立などの様々な道具が置かれていた。
私は小屋の中から鍵をしめ脚立などで扉が開かないようにして
ようやく一息つくことができたと思った。
あの時は安心感を感じながらもまだ混乱していて落ち着くためにもしばらく小屋に隠れることにしたんだ。
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後編は12月12日18時30分頃に投稿予定です。
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