平穏な日常
翌日、ベッドの軽い振動で目を覚ます。
体を起こすと、ベッドに腰掛けて部屋を見回す咲恵が目に入った。
「あ、おはよー純くん。よく眠れた?」
「ん、おはよう咲恵。ぐっすり眠れたよ」
「そう? それなら良かったんだ」
えへへと笑う咲恵の顔。幼馴染み補正ありで見なくても、すごく可愛いと思う。
部屋を出てお母さんの手伝いをしに一階へ降りていった。咲恵はたまに朝食を作る手伝いをしてくれて、一緒に食べてから学校に行くこともある。
とりあえず着替えて、声を掛けてくれるまで携帯でニュースを確認する。全国区のニュースは一階のテレビでやってるだろうし、地域のニュースを確認しよう。
ニュースアプリを開き、僕の住んでいる地域を選択。すると、地元ではちょっとした有名人のアナウンサーさんがニュースを読み上げている映像が再生された。
『本日未明、○○町○○で住宅一棟が全焼する火事が起きました。警察と消防によりますと、焼け跡から一人の遺体が見つかったということです。この家に住む、女子大生の○○さんと連絡が取れないことから、警察は遺体が○○さんと見て身元の確認を急いでいます』
「怖っ。ここ、家から少ししか離れてないじゃん」
そういえば、夜中に消防車のサイレンがうるさかったことを覚えている。
そうか、あれはこの火事で出動したのか。
『消防によりますと、ガスコンロ周辺が激しく燃えていたとのことで、火元はガスコンロと見て事故の可能性が高いと思われるということです。皆さんも、火の取り扱いには充分お気を付けください。続いてのニュースです。昨日のお昼頃、○○動物園でゾウの赤ちゃんが――』
「純くーん! ごはんできたよー!」
声がかかったので一階に降りる。
今日の朝ごはんは……玉子が美味しそうなサンドイッチか。咲恵の作るサンドイッチは美味しいから好きなんだ。
で、フルーツサンド。こっちはお母さんのかな? こういうおしゃれなものを作るのが好きみたいだし。
お母さんが牛乳を入れてくれる。と、お父さんが新聞を読みながら話しかけてきた。
「そうだ純。ちゃんと咲恵ちゃんにお礼を言っておけよ」
「え? お礼?」
「そうだ。昨日の夜、家の前にいた不審者を追い払ってくれたそうだ」
「うん! なんか、純くんの部屋を見上げてカメラを構えていたから、こいつがストーカーだって思ったんだ。それで、写真撮って警察を呼びますよって言ったら逃げていった」
「え、大丈夫だった!?」
「もちろん! あ、今日の帰りにその写真を警察署に持っていくから手伝ってくれない?」
そのくらいなら別にいいけど。
でも、そうか。咲恵がそこまでしてくれたのか。
「ありがとう咲恵」
「えへへ褒めて褒めて! 頭も撫でて!」
「はいはい。でも、あまり危ないことはしないでね。何かあったら困るから」
「分かった! でも、純くんのためなら何でもやってみせるよ。でも、報復とかされたら怖いからしばらく一緒に学校に行ってもいいかな?」
それは当然だ。僕が常に見ておけば、ストーカーも変なことはできないだろうし。
一緒に行くと約束すると、咲恵は満面の笑みを浮かべてサンドイッチを頬張った。
美味しいサンドイッチを堪能し、牛乳でスッキリして家を出る。今日から咲恵と一緒の登校を再開だ。
朝の時間は、近所のゴミ出しのおばさん奥さんをよく見る。挨拶をすると丁寧に返してくれるから、人がいい方ばかりだ。
ただ、やっぱり火事の件なのかそういう単語を含むひそひそ話が聞こえてくる。
「昨日の火事、すごかったもんね」
「そうなの?」
「うん。私、消防車の音で眠れなかったからこっそり家を抜け出しちゃった」
僕はうるさいなぁ程度で眠ったのに。精神的に疲れていたから起きられなかったのかな?
「完全に燃えていたよ。うちの高校から近い大学に通うお姉さんが亡くなったって」
「らしいね。ニュースで見たよ」
「本当に怖いね。私たちも気をつけないと」
これからの時期、ストーブとかで火事になるかもしれない。太平洋側の地域だから、乾燥した空気で火災も起こりやすいから確かに気を付ける必要がありそうだね。
「それにしても、世の中には怖い人がいるんだね」
「どういうこと?」
「そのお姉さんね、鉈みたいなもので頭を何度も切られて頭蓋骨を割られてたって。しかも、全身傷跡がないところがなくなるまで滅多刺しにされていたらしいよ」
「うぇ。何それ人がやることじゃないね……」
「人間関係のトラブルなのかなぁ? でも、そんな恐いことをした犯人が捕まってないんだって。純くんには悪いかもしれないけど、私、ストーカーよりその犯人の方が怖いかも」
「それは僕も思った」
「でしょ? だからさ。犯人が捕まるまで一緒に登下校していいかな?」
僕はそれで構わない。ただ、バイトのある日はどうしようか。ストーカーが咲恵を狙うなら絶対にその日なんだけど……。
「あ、そうだ! 私、明後日から純くんと一緒の場所でバイトするよ。あの店長さん神様みたいにいい人だね!」
「そうなの!? 店長さんはいい人で好意的だろ?」
「うん! だから、これからずっと一緒だね」
手を差し出してきたから、その手を握って仲良く学校に向かう。
◆◆◆◆◆
あれから二週間が過ぎた。
その間、女子大生のお姉さんを殺した犯人もストーカーも捕まったという話は聞かない。それどころか、お姉さんの件に至っては捜査が行われている気配もなかった。
ただ、咲恵がストーカーらしき人を追い払って以来、僕の周りで不審なことは起きなくなった。とりあえず、平穏な日々が戻ってきたかな?
「……で、結婚の時期が早まったと」
「何の話だよ」
「結婚はまだ早いよ! ただ、怖いから二人で一緒にいるだけ」
僕にくっつく咲恵を見ながら良太が笑った。
そう。不審なことが起きなくなっただけでストーカーの件はまだ捜査してくれている。ちょくちょく警察から電話来るし。
お弁当に咲恵のサンドイッチを食べる。今日の朝は違うものだった分、お昼のサンドイッチは美味しい。
「ねぇ、純くん」
「ん?」
「もしね、また困ったことがあったら私に相談してね。特にストーカーとかね」
「いや、もうストーカーはないでしょ」
「万が一があるかもじゃん! 今度こそ最初から私に相談すること!」
咲恵がより体を密着させてくる。
「私ね、純くんのためならなんだってしてあげる。また、私がなんとかしてあげるからね。だから――」
顔が近付いてきた。耳元で咲恵の吐息が感じられる。
「この先、ずぅぅぅっと一緒にいてね。悪い虫はきちんと潰してあげるから……さ」
幼馴染みにストーカー相談をしたら 黒百合咲夜 @mk1016
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