幼馴染みにストーカー相談をしたら
黒百合咲夜
ストーカー被害
……うーん。気のせい、ではないよね。
ここ最近、誰かに後ろからつけられているような気がする。一度、正体を暴こうと曲がり角で待ち伏せしたこともあるけど、誰も来なかった。
だから、誰もいないはず。けれども、人の気配を感じるし時々シャッター音みたいなものまで聞こえる。
正直に言ってすっごく怖い。
多分だけど、これはストーカーってやつではないだろうか? イメージ的にはそういうのは女性が被害に遭うものだとばかり思っていた。
というか、どうして僕なんだろう? 僕がストーカー被害に遭う理由がさっぱり理解できない。
自分で言うと悲しくなるけど、僕はイケメンの部類ではない。そして、家がお金持ちというわけでもないし、何か重要な秘密を知っているということもない。
本当にどこにでもいるようなありきたりの高校生だ。
だから、ストーカーされる理由なんてちっともない。
最近は怖くなって早足で帰るようになった。一刻も早くこの恐怖の時間から解放されたかった。
家なら安心できる。自分の部屋なら気持ちが楽になる。
もちろん、本当にストーカーなのだとしたら家にそのまま帰るのは危ない。だから、わざわざ路地裏なんかを使って撒くように努力をしてからの帰宅になる。
今日も、家から少し離れた商店街に歩いてそこで路地裏に入る。猫が通るような道を使って複雑に進み、来た道を引き返すんだ。
そうすると、大体気配は消えている。これで少しだけ安心できるけど、のんびりしていて見つかると大変だから早足で帰ることには変わりない。
緊迫した帰り道を抜け、どうにか家にたどり着いた。とりあえず実害はなしっと。
玄関で靴を脱いで家に上がると、キッチンからお母さんの声がした。
「おー、お帰り純。あんた、ネットで買った荷物届いていたから部屋に運んでおいたわよ。あと、パソコンの電源入れっぱなしだったから気をつけなさい」
「あ、ごめん! ……というか、僕ネットで買物してないけど?」
「あれ? じゃあお父さんのかしら? でも純宛ての荷物だったわよ」
どういうことだろうか?
とりあえず、部屋に荷物を運んでくれたことにお礼を言って二階へと上がっていく。
「あっ、そうだ。もうすぐ咲恵ちゃんが遊びに来るって言ってたわよ-」
「はーい」
じゃあ、咲恵に見られる前に荷物を確認しますか。間違って深夜、眠気マックスの時にエッチなおもちゃなんかを買っていたら洒落にならない。
以前、似たようなことがあってそういう系の漫画をうっかり買っていたことがあってお母さんに微妙な顔をされた。あんなことは絶対に嫌だ。
自室に戻ると、部屋の真ん中にドンと段ボールが置かれていた。
……でも、この段ボールおかしい。ネットで買ったにしては、どこの会社のものかロゴもなにも入っていないごく普通のもの……。
テープをカッターで切って開封する。
「……え、何これ?」
中に入っていたのは、奇妙というか不気味なものだった。
いくつもの試験管に入った正体不明の液体。透明なものから少し黄色いものまであった。
そして、分厚い封筒に入った札束と何枚もの直筆らしき手紙。さらには僕の生活の一部を写した写真や、誰かの爪や毛まで袋詰めにされていた。さらにさらに、どう見ても使った後のローターや女性ものの下着まで。
「え、ちょ。おかあさーん!!」
これは相当にマズい。
結局、その日は咲恵に来ることを中止してもらって、代わりにお父さんが帰ってきたタイミングで通報して警察の人に来てもらった。
◆◆◆◆◆
「あ、はい。分かりました。ご迷惑をおかけします……」
あれから数日経った日の昼休み、学校の階段で僕は電話を切った。
一緒に横で聞いてくれていた友だちの良太が肩を叩く。
「で、どうだった?」
「シフトを変えてくれるって。マジであの店長神様だわ」
今電話していたのは、僕のバイト先。
警察の人が来た次の日から、バイト先にも不審電話が鳴るようになった。それも、僕がシフトに入っている時に。
さすがにこれ以上迷惑はかけられないと思って辞めようと電話をしたんだけど、神様のイケオジ店長は引き留めてくれた上にいろいろとサポートしてくれると言ってくれた。
またすぐに電話が鳴る。番号を確認すると、地域の警察署からだった。
「はい、もしもし――」
先日の荷物についての結果と、今後のことについていろいろと話してくれる。
良太にも手伝ってもらってメモを取りながら話を纏める。帰ってお母さんたちにも伝えないといけない。
最後に、安全最優先でと注意されて電話が切れた。
「はぁ……」
「ま、まぁ気晴らしに購買にでも行こうぜ! 水でも奢ってやるよ」
「そこはジュース奢ってよ」
自分でも疲れていると分かっている笑顔で階段を降りていく。
すると、下から上がってきた女子と目が合った。途端に彼女は、ハッとしたように駆け上がってくる。
「おっと。未来のお嫁さんか」
「そういう関係じゃないよ」
良太が少し距離を取ると、彼女が勢いよく抱きついてくる。
「純くん! 寂しかったよ!」
「ごめん咲恵。いろいろあってね」
ちょっと触れたけど、この子は咲恵。幼稚園からの幼馴染み。
家も向かいで、以前は一緒に登校と下校をしていたんだけど……。
「最近全然一緒に学校に行ってくれないのはなんで!? 帰りも時間をずらしてるみたいだし。バイトでもないよね!? この前だってお家に行こうとしたら急に断られるし……」
「……おい。お前、咲恵ちゃんに話してないのか?」
「ま、まぁ」
「何のこと?」
良太が呆れたようにため息を吐いている。
でも、仕方ないじゃんか。僕と仲良くしている咲恵なんて、ストーカーからしたら邪魔者もいいところだろうし。万が一があったら一生後悔することになる。
咲恵は大事な幼馴染みなんだし、危険な目に遭ってほしくない。
ただ、良太の言葉に咲恵が食いついてしまった。
「ねぇ。本当に何があったの? 純くんずっと苦しそうだよ? 幼馴染みなんだし相談してよ!」
「……じ、実は……」
追及が激しそうだったから、これまでのことを包み隠さずにすべて話すことにする。
話を進める度に、咲恵が表情を暗くしていくのが辛かった。
「なに、それ。ストーカー? どうして相談してくれなかったのよ!! 私だって力になってあげたかったよ!」
「ごめん……」
「あ、その、ごめん。強く言い過ぎた。本当に大変なのは純くんだもんね。何も悪いことしていないのに」
しゅん、と縮こまる咲恵。
「で、どんなことをされたの?」
「尾行は当然として……」
「その当然がおかしいんだよなぁ……」
「良太うるさい。で、他にも盗撮、札束を送りつけてくる、その……体液を送りつけてくるだとかバイト先への嫌がらせ電話とか……。ここ最近は毎日手紙も届いてる」
「何それ!? 警察には!?」
「言ったよ。でも、捜査してくれているけどあまりめぼしい情報はないって……」
「そう、なんだ。……分かった。私の方でも何か力になる方法を探してみるよ!」
笑顔でそう言ってくれる咲恵に、心強く思う。ただ、不安もあった。
「危ないことはしないでね。咲恵に何かあると僕、立ち直れなくなりそう」
「ふぇ!? 大丈夫! 純くんを絶対に悲しませたりしないから!」
「自然と告白だと……? これが無自覚彼氏か……」
訳の分からないことを言う良太に軽く拳骨をかまし、そこで咲恵と別れる。
咲恵が危険な目に遭わないことを祈りながら、良太に水を買ってもらった。
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