第8話 結末
「これは、これは。私の計画とは違いましたが、結果オーライでしょうか?」
突然、窓から男が入って来た。
男は、この惨状を見ても、まるで慌てる様子もなく、つぶやいている。
誰だろう? 屋敷では見かけない顔だ。
だが、声に聞き覚えがある。
「ヘリオット?」
「おや? 私のことをご存知でしたか。これは意外です」
「なぜ、あなたがここに?」
ヘリオットを呼ぶのは、これからだったはずだ。
「舞踏会では、失敗してしまいましたからね。でも、様子が怪しかったので、念のため追って来たんですよ」
舞踏会で失敗したとはなんのことだろう? と、いうか、舞踏会にいたのか。
「わからないって顔ですね。いいですよ。教えてあげます。今日は気分がいい」
なんだろう、この男は、イケメンなのだが、気持ちが悪い。
「王子が婚約破棄するように仕向けたのは私です」
「え? なんで、そんなことを?」
「それは、あなたに、嫉妬の炎で、王子を殺させるためです」
「暗殺者なの?」
「違いますよ。王子なんてどうでもいいのです。必要なのは、あなたが、嫉妬の炎に駆られ、魔眼で人を殺すこと。そうすることで、氷雪の魔眼は、氷炎の魔眼に変質するはずなのです」
「氷炎の魔眼!」
ヘリオットは近づいて来ると、私の顔を覗き込んだ。
「ほらほら。これですよ、これ!」
そして、おもむろに手を伸ばすと私の左目を抉り取った。
「ギャーーー!!」
「これが、時を凍りつかせる、と言われている氷炎の魔眼!」
「なにしやがる!」
「ついに手に入れました。これで、過去に戻って、アイリスを救うことができる」
「ふざけたこと言ってんじゃねえ! それは私の魔眼だ! 凍りつけ!!」
私は残った右目の魔眼で、ヘリオットを氷柱に変えた。
くっそ! まさか、いきなり眼を抉られるとは思っていなかった。
だが、これでヘリオットにも復讐できた。
後は、ヒソップだったか? まあ、あの小間使いはどうでもいいか――。
「その魔眼は、あなたのではなく、私のよ!」
部屋の入り口の方から声がするのを聞いて振り返ると、お腹にナイフを突き立てられた。
「え? え? えーーー!? 私、私に刺されたの!?」
「よくも、スグリを殺してくれたわね。死になさい!」
私は、何度も何度も、ナイフで私に刺される。
ナイフを持っているのは、侍女の私だ。
争う声が聞こえたので、確かめに起きてきたのだろう。
ああ、侍女の私にすれば、私は想い人を殺した殺人鬼か――。
あれ、でもさっき魔眼を自分のだと言ったような……。まさかお嬢様?
考えがまとまる前に、私は意識を無くし、黒い闇に飲まれていった。
完
身代わり侍女の成り代わり なつきコイン @NaCO-kaku
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