第2話:帆波との出会い
中一の夏休みのある日の帰り道。急に雨に降られてしまい、高架下で雨宿りをしていると、一人の女の子が声をかけてくれた。彼女の名前は
「良かったら送るよ。傘、一本しかないから一緒に入ることになっちゃうけど」
「えっ、あ、ありがとう」
可愛い女の子と相合傘。そんなシュチュエーションにドキドキする気持ちを隠しながら、彼女の傘を持って、彼女を濡らさないように自分の肩を濡らして歩いた。
「肩濡れちゃってる」
「いいよ私は。借りてる身だし」
「優しいんだね」
「そんなことないよ。普通だよ」
他愛も無い会話をしてその日は終わったが、それをきっかけに彼女と話すようになった。
同性から好かれていた海と私とは逆に、帆波は同性から嫌われていた。異性からは好かれていたが。可愛らしい声やルックス、間延びした話し方が、男に媚びていると言われていた。自分で自分を可愛いというところも嫌われポイントだった。しかし、私はそこが好きだった。自分に自信が無い私には、自分のことを自信持って可愛いと言える彼女は輝いて見えた。そして、媚びていると噂されている割には思ったことをはっきりと意見を言う子だった。ちょっと腹黒いところもあって、たまに笑顔で毒を吐くような、そんな子だった。
見た目の割にはサバサバしていて、言いたい奴には言わせておけば良いと言うような人だった。そういうところがカッコ良いと思った。私なんかよりよっぽど。
そして、帆波は私を男扱いしなかった。それが凄く心地良かった。
「白王子って、月子のことだったんだね」
「あはは……男子だと思ってた?」
「ううん。女の子なのは知ってた。けど、カッコいい人だって聞いてたから。月子はカッコいいというより、可愛いじゃない?」
「えっ」
「えっ?」
「……可愛いなんて、初めて言われた」
「えぇ!? 月子は可愛いよ!」
女友達から可愛いと言われたのは初めてで反応に困ると、彼女は「私、社交辞令苦手なんだ。だから今のは、本心だよ」と笑った。その笑顔を見て私は思わず「私なんかより君の方が可愛いよ」なんて言い返してしまった。すると彼女はムッとして、こう言った。
「私の好きな子をなんかって言わないで。私が可愛いのは事実だけど、月子も同じくらい可愛いよ」
「お、同じくらい? それは言い過ぎだよ」
「素直に喜びなよ。本当は可愛いって言われたかったんでしょ?」
ずっと隠していた本音を、彼女には見透かされていた。
「月子は可愛いよ。誰がなんと言おうと、私はそう言い続けるよ。可愛い。月子、可愛い」
「も、もう、良いよ、分かったから」
「ううん。分かってない。可愛いよ。月子」
「か、揶揄ってるでしょ」
「あははっ! ごめんごめん。よっぽど言われ慣れてないんだなって。けど、その反応すっごく可愛い」
「もう良いってばぁ……」
「ふふ。可愛い〜」
「もう! 帆波!」
「うふふ。きゃー! 月子が怒ったー!」
彼女はそれから、事あるごとに私を可愛いと言うようになった。朝すれ違うだけで「おはよう。今日も可愛いね」と爽やかな笑顔で言われるたび、胸がときめいた。周りはそれを嫌味だと言ったけれど、彼女の人柄を知っていたから、本心だと信じることが出来た。見た目はお姫様だったけれど、中身は私よりよっぽど王子様らしい彼女に、いつしか私は惹かれていった。だけど、それが恋だと、その時の私はまだ認められなかった。
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