堕ちた聖女の仲間たち

わたくしたち衛生兵は七名一組で師団ごとに四小隊、一旅団に一小隊ずつ配属されておりました。わたくしも七台の魔導戦車を擁する第一旅団の衛生兵としてプリーピャチ大湿原にて着任いたしました。

 わたくしの衛生兵小隊は、十代後半の少女七名から構成されており、とても仲良しでした。

 真面目でしっかり者のヘパティーツァ、小柄で頑張り屋のマイプティア、華のように美しいエルシス、優しく面倒見の良かったキルシャズィア、気が利いて冗談好きだったピオニーア、博識で聡明なクメリーテ。彼女たちと過ごした日々はまるで昨日の事のように思い出せます」


 フェルは懺悔ざんげを終え、どこか懐かしむような表情で、戦友たちの思い出を切々と語り始めた。


わたくしたちはよく戦争が終わったらどう生きるのか話し合いました。死について話題にする事はありませんでした。

 それはあまりに身近にあふれていて、ひとたび意識をとらえられたが最後、そのまま連れて行かれてしまう気がしたからです。

 それでも、ごく稀に死の話をしました。

 雪解けのぬかるみの、ぬちゃぬちゃした泥溜まりを通りながら、こんなところでは死ねないね、と囁き合ったものです。泥と野生動物の糞に塗れ、戦車や装甲車にふみしだかれ、ぐちゃりと押しつぶされて、ただの汚泥となり果てるのだけは嫌と。

 実際にそうした死体……いえ、死体だったモノはそこら中に転がっていました」


 淡々とした口調で語られる、あまりにおぞましい死体の有様に、広場に集まった群衆はしんと静まり返っていた。

彼女の言葉を妨げる、かすかな物音すら立てることがはばかられるような、そんな緊迫した空気が広場に満ちていたのだ。


「ヘパティーツァとキルシャズィアは夕飯の時にいつもみんなが配給のスープの具をもらえるかどうか気を配ってくれました。

 衛生兵は負傷した兵士を担いで安全地帯に運びます。

 まだ成長途上の小柄なわたくしたちが、大柄な兵士を装備ごと運ぶのは本当に大変でした。体力を消耗するので、食事はしっかりとらなければ治療以前に救助自体が行えません。

 しかし、戦わない女の子たちに栄養は不要だと言われて、衛生兵には具を入れないようにする兵士が大勢いました。

 ヘパティーツァとキルシャズィアはそんな意地悪な兵士たちに抗議して、自分が負傷した時に救助して欲しければ、わたくしたちにもきちんと食事をよこすよう認めさせました」


 戦場に送られた兵士が何を食べどんな暮らしをしていたか、僕たちは全く興味がなかった。大切なのは、自分たちに危険が及ぶか及ばないか、利権を奪われずに済むかどうか。自分が昨日と同じ明日を迎えられるかどうか。ただそれだけだ。

 兵士たちは戦闘に勝利することが全てで、彼らにも生活があるなんて思ってもみなかった。

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