堕ちた聖女の最期

 フェルはなおも戦友たちとの想い出を語る。


「エルシスは際立って美しい女性でした。シラミの感染を防ぐため髪を剃り落として丸刈りにしなければなりませんでしたが、エルシスの美しさは損なわれませんでした。ただ、少しだけ口が悪くて、男性兵士とたびたび言い争いをしていました。

 博識なクメリーテはノヴゴロドに留学していた事があるそうで、待機中にわたくしたちが聞いたこともないような最新の科学や魔導の知識を教えてくれました。しかし、かの国と敵対関係にある戦中はスパイではないかと言いがかりをつけられ、暴力を奮われる事もありました」


 しんと静まり返った広場の中、フェルは訥々とつとつと戦友たちの思い出を語っていく。


「マイプティアは頑張り屋で、仲間の戦車が撃破されると即座に操縦席に取りついて負傷者を動力炉が爆発するまでのわずかな間に安全なところまで引っ張り出しました。

 『負傷者を運んでいる途中で急に重くなる時があるの。人間ってね、死ぬと重くなるのよ』

 そう、語っていたのをよく覚えています。

 ピオニーアは話し上手で、どんなに陰惨いんさんな戦闘の後でも絶妙の間とセンスの良い冗談で場をなごませてくれました。わたくしたちがあの地獄の底でも正気を保って傷病兵の看護にあたれたのは、ピオニーアの細やかな気配りとユーモアのおかげと言っても過言ではありません」


 フェルは六人の戦友の名を出すと、少しだけ息をついて、虚空を見つめて微笑んだ。そこに彼女たちの姿を見ているかのように。


「みな美しく、真面目で清純な、素晴らしい乙女たちでした。

 巷で噂されるような、男漁りのために軍に入って日夜乱痴気騒ぎに耽るような、ふしだらな女性とは真逆の存在です。わたくしは王都で彼女たちほど清らかで、気高い乙女に会ったことはありません。

 しかし、彼女たちは帰還することができませんでした。

 あるいはぬかるむ湿地の戦場で、あるいは凍てつく森の中で、あるいは燃え盛る炎に包まれた村で。彼女たちは一人、また一人とその花の生命を散らし、未だこの世にしがみついているのはわたくしただ一人。

 そのわたくしもこれから仲間たちの元に向かいます。

 ですからここにお集りの皆さまは、わたくしの代わりにあの素晴らしい乙女達の事を忘れず語り継いでください。

 それがわたくしの最期の望みでございます」


 言い終わるや否や、彼女は処刑台にひざまずき自ら斬首台にその首をせた。

 そして次の瞬間、慈悲の刃が彼女の細い頸に打ちおろされ、ゴトリと丸いものが落ちた。

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