走る女

ツヨシ

第1話

マラソン大会に出た。

マラソン大会と言っても、国際大会や大きな市民マラソンではない。

地方で行われている誰でも参加自由のハーフマラソンだ。

走りに人一倍自信のある俺は、上位を狙っていた。

とは言っても、地方のハーフマラソンでも全日本クラスの招待選手もいるので、一位と言うわけにはとてもいかない。

それ以外にも強い選手が何人もいる。

去年が十八位だったので、それよりは上を目指すのが目標だ。

マラソンはスタートし、俺は順調な走りを見せた。

そして折り返しを過ぎ、あと半分と言うところで気がついた。

俺の横にぴったりとくっついて走っている若い女がいたのだ。

その姿ときたら、腰まである長い髪を束ねることもなく大きくなびかせ、上は長袖のシャツで下は足首まであるロングスカート。

そしてサンダルを履いているのだ。

とてもマラソンに参加する服装ではない。

おまけにこの女、前を見ずに俺のほうに顔を向け、始終にたにた笑いながら走っている。

まれに沿道から飛び入りしてくる奴がいるが、関係者が誰もこの女を止めないし、ずっと俺のスピードに合わせて真横を走っているのだ。

あの服装で、にたにたと笑いながら。

――なんだこいつは。

はっきり言って滅茶苦茶気持ち悪い。

俺はペースを上げた。

ゴールまでまだ距離があるのにペースを上げるのははっきり言って危険だが、その時の俺はそんな基本的なことさえ頭になかった。

それでも女はついてくる。

やはりにたにたと笑いながら。

俺はさらにペースを上げた。

女の笑いが大きくなったような気がした。

そしてまだ真横を走っている。

もう心臓はばくばくだ。

一瞬レースを止めてしまうことも考えたが、俺のプライドがそれを許さなかった。

数回ほど本気で死ぬかと思ったが、そのままゴールまで走り続けた。

ゴールした時も女は俺についてきた。俺はそこで倒れこんだ。

そして周りを見たが、ついさっきまで俺の横にいたはずの女は、どこにもいなかった。

俺は結果、九位だった。

後で親や友人が俺の走る姿を撮った動画を何本かみたが、それらのどこにも女の姿はなかった。


       終

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

走る女 ツヨシ @kunkunkonkon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ