第55話

 「お邪魔します」


 私はその言葉と共に宿屋に入る。今日は頑張って作ったチラシを貼らしてもらうためだ。手書きのチラシは字だけで見にくい気がするが諦めている。自分でできる範囲で頑張るだけだ。


 「いらっしゃい」


 リサのお兄さんが迎えてくれた。私がチラシを張りに来たことを伝えると話は聞いているらしく、スムーズに貼る場所を聞いてくれた。


 「カウンターにって言ってもらえたので、そこにお願いしようと思っますけど。どうでしょうか?」


 「うん。そこで問題ないと思うよ。そう聞いてるし。これがチラシかな?」


 「はい。お願いします」


 私の言葉にお兄さんはチラシを上から下まで眺める。時間を掛けて見ているので、なにか問題があるのかと心配になる。


 「なにか問題がありますか? 言葉には気をつけているんですけど?」


 「問題はないけど、寂しくないかな? 絵は入れないの?」


 「そう思ったんですけど、私が絵が上手ではないので。諦めたんです」


 「そうなんだ。僕が書こうか?」




 お兄さんがあっさりと言ってくれた。なんですと? お兄さんは絵が書けるのですか?


 私はお兄さんの言葉に驚いて目を剥いてその言葉に食いつく。


 「お兄さん。絵が書けるんですか? 書いてもらえるんですか?」


 「すごく上手ではないけど、それなりには書けるかな?」


 それなりに、という言葉に言葉は謙遜だと見た。自信があるのだと思う。私は伺うようにお兄さんを見ながら本当に書いてもらっていいのか確認する。


 お兄さんは気軽に請け負ってくれた。


 「僕の絵でよければ書くよ。どんなのが良いかな?」 


 「どんなの?」


 私は予想外の質問に戸惑った。どんなものを書いてもらうか考えてもいなかった。というか、絵そのものを諦めていたので、書きたいものなんて想像もしていなかったのだ。


 「そうですね。書きたいもの。考えてなかったです。私、絵が下手で、書けないから諦めていて」


 最後まで言葉にできす尻切れトンボになる。その言葉を引き継ぐようにお兄さんが候補を上げてくれるように色々聞いてくれる。


 「どんな絵が好きかな? 動物? 風景? 建物とか? 街の絵とかもいいかな? それともリサちゃんを書く? 依頼を受けるのは私ですって、どうかな?」


 「私ですか? 私はちょっと。恥ずかしいかも。他のがいいです。お勧めとか、これがいいとかありますか? 得意な絵とか」


 「うーん、そうだね。僕は動物の絵か風景が好きかな」


 「だったら動物の絵がいいです。猫とか」


 「猫? 猫とか好きなの?」


 「はい、大好きです。お願いしても良いですか?」


 「書くのは良いけど、チラシの内容と合わないかな? いいの?」


 「そこは合うようにお願いします。と言いたいのですが、そこまでマル投げは申し訳ないので、どうすれば良いか少し考えます」


 


  わたしは予定外の提案に舞い上がった。字だけのチラシよりは絵があった方がチラシらしいと思ったのだ。


 日本で生活していたときもチラシはよくチェックしていた。やはり字だけのものよりも写真や可愛いイラストがあった方が自分自身にも受け入れが良かったように思う。


 箇条書きのチラシを引き取り、もう一度どこに何を書いても売らうか検討するために、明日時間をもらうことにした。


 そうして私は意気揚々と引き上げることにしたのである。




 調子に乗って家に帰ってから自分でもう一度考える。絵を書いてもらうとなると内容も再検討が必要だろうか?


 箇条書きでは味気がないきがしてきた。


 自分が今まで目にしてきたチラシを思い出す。どんなことが書いてあっただろうか? もしくは自分が必要とする情報はなんだろうか? そのへんがないと困ると思う。


 そのときに大事なことに気がついた。わたしが受けることは書いてあるけど依頼方法については書いてなかった。わたしと連絡が取ればければ意味がない。依頼を受けることはできなくなるのだ。どうしよう?


 自分の迂闊さが呪わしくなる。泣きそうだ。依頼者と連絡を取る方法を考えていないなんて。チラシ以前の問題だ。




 連絡方法について考え直すことになった。


 わたしは、手段を考える。なにか手はあるはずだ。人にコンサルするように自分にコンサルすればいいのだ。こんな事も考えられないのならコンサル会社なんて作れないはず。そう自分を奮い立たせ頭を捻る。


 自分で方法を思いつかなければ昔の人がしていた方法を真似ればいいのだと思う。昔の人はどんな方法をしていたか思い出す。何があっただろうか?


 1 伝言


 2 掲示板


 3 投書箱


 4 直接話す


 5 思いつかない




 わたしは思いつかず固まる。自分で方法が沢山あると思っていたが以外に思いつかなかった。これは困った。だが、思いつかない以上はこの中から方法を決めるか、ミックスして思いつかなければならない。どうするか?


 とりあえず4・5は却下だ。話にならない。とするとのこるは1,2,3,となる。伝言板はこの街にはないしイタズラでもされたら困る。そうすると1も却下だ。本当の依頼かイタズラかわからないのでは意味がない。


 となると2,3のどちらかだ。消去法で考えると以外にスムーズに考えられるからいいなと思いつつさらに追求して考える事にした。

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コンサルティング会社を作ってみよう 小賀 いちご (いちご) @itigosuki

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