ずいぶん年を取ったなあ。僕もあんな風に見えるのだろうか。まだ二十代のはずなのに。それともぎりぎり三十になったのだろうか。

「変らないわね」

 そうなのか。

 僕はどう答えればいいのだろう。老けたなんて言えないし。

「久しぶり」そう言って僕は笑って見せた。

 まさか失踪宣告をしていたなんてね。僕に死んで欲しかったのかい。実は僕だってそうなんだ。

「あなたはいいわよね。そうやっていつも気楽で」

 彼女がお茶を運んでくる。庭のハーブで入れたお茶だ。

 爽やかなミントの香りが部屋中にあふれた。

「薄荷って繁殖力がすごいから手入れが大変なんだ」

「あなたがお手入れしてるの」

 あいつは、そんなはずがないと言いたげな顔で僕を見ている。

「まだ残ってるのね、あたしのつけた傷」とあいつが僕の耳元で言う。

「何もなかったんだよ」

 僕はそう言って甘いミントティを一口飲んだ。

 彼女はずっと笑顔のまま、壁に寄りかかって僕たちを見ている。髪を切った彼女の顔は、あの頃と変わらない。ずっと綺麗なままだ。

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僕の選択 阿紋 @amon-1968

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