長い髪が邪魔をして顔がよく見えない。ザックリとしたピンクがかった白いワンピースを着た姿からそんなに若くもなく、かといって年を取っているようにも見えなかった。

 僕の前にはあったかそうな白いクリームシチューが置かれている。僕はスプーンですくって食べはじめる。

「あたしも足がすくんじゃった」

 髪のあいだから笑みが漏れるのがわかった。

「今こうしていることが大切なの」

 シチューを口に入れながら僕は何かを言いだしかける。でもなんか、彼女に止められたような気がしてまた下を向いてシチューをスプーンですくう。

 言ってしまいたいんだ、本当は。何もかもすべて。

 でもすべてって。

「何もなかったのよ」

「そうでしょう」

 彼女が僕の向かい側にすわってパンの入ったかごをテーブルの上に置く。そしてやさしく笑いかける。

 僕は彼女の顔を見た。そして、彼女の置いたかごからパンをひとつ取って手でちぎる。ちぎったパンをシチューに浸して口の中に運んだ。

 塩のきいた固いパンだった。

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