第23話 対神器
『どういう意味だ? 勇者とはお前のことではないのか?』
「実は……」
訝しげにするブリギットに俺は事情を説明する。
魔王を倒した勇者が王城を乗っ取って、国を支配しようとしている。その凶行を止めるために俺はこの世界に来たと。
『にわかには信じがたい話だな』
「俺も嘘だと思いたいさ。けど残念ながら事実だ。でなきゃ俺がこんなところに来るもんか」
冒険者組合での一件がなければ俺だって信じていない。
「それに、どうしても気になるならマリアが起きたら聞いてみればいいさ」
まだ気絶しているマリアを指さすと、ブリギットは、
『……良いだろう』
一定の理解を示してくれた。
『この我にそこまでの大言壮語を吐いたのは貴様が初めてだ。この神器を抜く許可をくれてやる』
「ったく、素直じゃねーな」
どこまでも偉そうなやつ。そんなだから勇者に足元を掬われるんじゃないか、というのは野暮だから言わない。
ま、ドラゴンだしな。
『当然だ。お前の話は面白かった。提案も魅力的だ。だが、それはこの神器を抜ければの話だ』
ブリギットはふんと鼻を鳴らした。
『抜ければお前の言う通りにしよう。女神から呪われたお前が、抜ければな』
「ごちゃごちゃうるせーな」
俺はブリギットの足元に近寄る。
光り輝く、槍のような長物が足の指に刺さっている。
なるほど。何かとてつもないものを感じる。俺がグリモアを使った時に溢れ出た魔力とは別のの何か。
俺は神器に両手を掛けた。
「やるぞ。準備はいいな?」
『好きにするがいい』
「よし。ふっ!」
俺は腰を落とし、全身を使って神器を引き上げる。
重い! つか硬い! びくともしねぇ。
「うっ!」
さらに体から力が抜けていく。何だこりゃ!?
『ふ、当然よ。我を封じるほどの神器。所有者と認められていないお前の力もどんどん吸い上げていくぞ』
「ぐっ、くぅ」
どうやらこの神器を使うにも、最低魔力行使量は影響するらしい。体力、そして力がぐんぐん吸い取られていくのが自分でもわかる。まるで風呂場の栓が抜かれて水
がみるみるなくなっていくかのように。
『フハハ、どれほど持つか見ものだな」
「う、る、せえ!」
大声で言い返すが、ちょっとキツくなってきた。
「うぐぐぐぐ、あ!」
今動いた! 少し上がったぞ!
よっしゃこのまま━━━
「あれ?」
視界がぐらつく。体の感覚が徐々に薄れていく。
『そうら、もう魔力が枯渇しかけている。そろそろやめねば命に関わるぞ』
「ぐっ、くっ!」
神器から手を離しかける。
身体中から悲鳴が聞こえる。もうやめたいと心が叫ぶ。
再び忍び寄る死の気配に、俺は━━━
「まだまだぁ!」
手を離さず、さらに力を込めた。
『お、おい! 本当に死ぬぞ!』
ブリギットの声を無視して俺は力を入れ続ける。
正直、ただの意地だ。
ブリギットを助けたいとか、損得とかもはやどうでもいい。
ただ負けられねぇ。負けるわけにはいかねぇ。
俺は勇者を倒すんだ。ならこんな道具ごときに弱気になってられるか。
つーか。
あの女神の作った道具に負けるってのはなんか癪だ!
「おああああああああああ!」
『くそっ!』
最後の魔力と体力を振り絞って、俺は神器を引き抜いた。
リア充なのに異世界へ〜女神に呪われたせいでろくな魔法が使えない勇者は現代に帰りたいようです〜 リクヤ @pppaaa
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