第16話 大人の事情



 ガタゴトと車輪の振動が響く竜車の中に従者の声が響く。


「市長、本当によろしかったのですか?」


「何がだ?」


「あの勇者に手を貸したことですよ。市民から反感を買うのでは?」


 怯えた従者の声に市長は鼻で笑う。


「言わせておけばいいだろう。馬鹿どもには単純な計算すらできんのだからな」


「はぁ……」


「国を乗っ取ろうとしている勇者は歴代最高といわれている勇者だ。我々がよその街から戦力を揃えて、ようやく戦いになるかというレベルだぞ。使えるものはなんでも使う」


「差し出がましいようですが、使えるのですか? あの勇者、最低魔力行使量が999もあるんでしょう? ロクな魔法が使えるとも思えませんが」


「だからこそだ。高威力の魔法を使えば勇者に勝てるやも知れぬ」


「では、もし敵になった場合は?」


「……」


「申し訳ありません。やはり、怖いものは怖いのです」


「いや、いい」


 歯に衣着せぬ物言いをする従者。通常なら厄介者として煙たがられるのだろうが、市長はこの従者を重宝していた。


「使えるのかどうか。敵になるかどうか。どちらに転んでもいいように、あの洞窟へ送り込んだのだからな」


「そうなのですか?」


「そうだとも。あの洞窟で死ぬような勇者であればそれまで。また何かの表紙に寝返りを画策するようであれば、洞窟に送り込んだ刺客に暗殺させる手筈だ」


「……さすが市長、やることが汚いです」


「馬鹿。賢いといえ」


 その会話を最後に、車内に響き渡るのはガタゴトという車輪が段差を拾う音のみとなった。

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