第17話 洞窟探検

 洞窟に潜り込んだ俺とマリア。最低魔力行使量のハンデを解消するアイテムを探し、移籍を目指す。


 中は薄暗く、マリアが魔法で灯りを灯してくれているおかげでなんとか進めている。道自体は多くの冒険者が通っていることもあってきちんと整備されていた。


 とはいえ、最近は首都を乗っ取った勇者の対応で忙しいのか、人の手はあまり加えられていないらしい。そこかしこに蜘蛛の巣が見える。


 いかにもゲームでありそうな洞窟。少年のような心でワクワクしながら進んでいる━━━というわけではなかった。


 いや、最初はワクワクしていたのだが、薄暗い洞窟の向こうに言い知れぬ恐怖感を抱いていた。


 もしかしたらこの穴からモンスターが飛び出てくるかも知れない。


 情けない話かも知れないが、怖いものは怖いのだ。


「幸多さん、そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ。遺跡に向かうまでは安全地帯ですから」


「そうなのか」


 俺は少しほっとしてから、マリアに話しかけた。


「ここから遺跡まではどのくらいで着くんだ?」


「一時間くらいでしょうか。休憩しますか?」


「いや、まだいいかな」


「わかりました。では、遺跡の入り口付近で休憩しましょう」


「OK」


 マリア曰く、入り口付近が安全地帯ギリギリらしい。入り口に入ればモンスターに遭遇する危険は高まるとのことだ。


 そうして道なき道をするみながら洞窟を下ること一時間。


「みてください幸多さん。あれが遺跡です!」


「おぉ!」


 急に洞窟が開けたかと思うと、薄暗い灯りの向こうに黒い建物がうっすらと見える。城のようでもあるし、砦にも見える。とにかくでかい建物だ。


「こんな洞窟に遺跡があるなんてな」


「その昔、古代人が暮らしていた町がそのまま埋まっているんです。あの奥にはまだ

まだ秘宝が眠っていると言われています」


「へぇ」


 ヤベェ。ワクワクする。たまんねぇなこのゾクゾク感。


 まだみたことのない遺跡を探検できる。やっぱロマンがあるよな。


 歴史の中にはピラミッドとか謎のままの方がロマンがあるものもあるけど、謎のロマンを解き明かすのもまたロマンだよな。


 ……興奮しすぎて変なこと言ってるな、俺。


 さらに十分ほど歩くと、遺跡のすぐ近くまで来た。エルシド市の外壁にも似た高い壁が目の前に聳えており、その下にキャンプで使うテントのようなものがいくつかある。


「ここは遺跡の案内所です。今は無人になっているので、自由に拝借しちゃいましょう!」


「お、いいね。お腹も空いてきたし」


「すみません。初めての洞窟探検なので、もっと早く休憩を取るべきでしたね」


「いや、こっちこそ気遣ってくれて助かるよ」


 俺たちは先程ゴリ市長からもらった荷物から携帯食料を取り出し、食事を始めた。


「じゃあ、いただきます」


「いただきます?」


「あー、えと。俺が住んでいた世界で食事に感謝を捧げる言葉、かな?」


「へぇ、面白いですね」


 にっこりと笑うマリアが眩しい。


 そっか。日本人にとって当たり前の習慣とか、異世界に来たら関係ないのか。外国でも言わないことがあるんだから、当然と言っちゃあ当然だけど。


「……」


 そう思いながらパンを口に運んだ直後、俺は硬直した。


 硬い。硬いわ。岩食ってるみたい。乾パンをさらに硬くして、それでいて乾パンよりまずい。


 コンビニのパンって美味かったんだな。こんなところで異世界に来たと実感することになるとは。


「どうですか?」


「うん。新鮮な味だな」


 いやそうじゃない。さっき食事に感謝するって言ったのに不味そうな顔をするな。普通に食え俺。


「あっ。幸多さん、ジャムがありますよ」


「いいな!」


 救いの神が来た! これで美味しく食べられるだろう。


「ヒュートの実から作ったジャムです。どうぞ」


「ありがとう」


 ヒュートの実が何かはわからないが、色がオレンジ色なので柑橘系の果物だと予想。頼む当たってくれ。そう思いながら俺はパンにジャムを塗って食べた。


「うまいな!」


「ふふ、よかった!」


 予想通り柑橘系! 鼻にスッと抜ける香りが心地いい。日本の季節が夏だったし、歩き疲れた体に染み渡るようだ。


 俺とマリアは舌鼓を打ちながら食事を終えた。


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