第4話 俺の大切な人

 うーむ、見入ってしまった。結果がわかっているとはいえ自分が活躍するとなるとつい。


「あ」


 試合が終了し、歓声をあげる俺たちが抱き合っているところで画面が止まった。


「なんで止めるんだよ。いいところなのに」


「うるさい! なんであんたが大活躍するところを見せつけられなきゃいけないのよ!」


「お前が勝手に恥ずかしいのを想像しただけだろ」


 俺は暗い空間の中であぐらを描いた。


 この女神は腹が立つが、このキレ芸は見ていて面白いな。


「あ、そうだ。最後の三連続スリーの部分だけ俺のスマホに送ってくれよ」


「私はマネージャーじゃない! あーもう次よ次!」


 女神がリモコンをおしてスクリーンの動画が再生される。それも倍速で。


 画面の中の俺たちは和気藹々とロッカールームに戻り、軽くミーティングをして校舎を出る。 


 あれ、待てよ。このあとの展開って確か。


「ん? 何よこの女」


 画面の中の俺が部員から離れて、校舎の壁にもたれかかっている女子生徒に駆け寄ったところで等速に戻った。


『やっほ、幸多ー!』


『涼子、来てたのか』


 神田涼子。俺の隣にある神社に住んでいる高校二年生。肩まで伸びた金髪を後ろで束ね、耳にはピアスをつけている。


 俺の幼馴染であり、そして━━━


「ねぇ」


 俺と涼子が肩を並べて帰っていると、女神が平坦な声でつぶやいた。


 振り返ると女神の目が完全に死んでいる。


「あれって、あんたの彼女?」


「……あぁ、そうだよ」


 うーむ、これはちょっと恥ずかしいな。


 そう。涼子はこの前した告白にOKの返事をくれた、俺の大切な彼女だ。


 大切な話がある。そう切り出して、好きだって伝えて。


 告白の内容を思い出して、頬が緩みそうになるのを全力で堪えた。


『来るに決まってんじゃん。大切な試合だしね。てゆーか、気づかなかったの?』


『わり。今日はずっと試合に集中してたわ』


『あはは、接戦だったもんねー。私も手に汗握っちゃった!』


 涼子は笑いながら俺の手を取り、腕を組んできた。


『おいおい、シャワーは浴びたけど、まだ汗臭いぞ』


『いいでしょ、誰もいないし。幸多は今日頑張ったから、そのご褒美!』


 あーやばい。これは恥ずい。ただでさえドキドキしてたのに、こうして客観的に見

せつけられるとやばい。死ぬ。


 画面の俺たちは歩き続ける。


 二人で家まで帰る時間は短い。話題は他愛もないものばかり。最近増えた学食のメニュー、宿題、クラスメイトの近況。


 十分もしないうちに、俺たちは家のそばまでたどり着いた。


『ね! 明日さ、予定ないよね?』


『あぁ。筋肉痛になってるだろうし』


『なら、さ』


 俺の腕から離れ、頬をかきながら俯く涼子。


 可愛い。


『明日、出かけない?』


『いいぞ』


『……うん! わかった! 明日はデー━━━』


 バキャっと音がして画面が止まった。


 音のする方へ恐る恐る振り返る。女神が俯いたままプルプルと震えている。手に握りしめたリモコンはひしゃげ、部品が落ちていた。

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