第3話 その日は
悪い笑顔を浮かべる女神をよそに、俺は今日の出来事を振り返った。
今日、今日か。何してたっけ。
あぁ、そうだ。
『一本! 一本大事に!!』
『ディーフェンス! ディーフェンス!』
ダム、ダムとボールがバウンドする音とともに映し出されたのは、応援団の映像。そしてコートの上を動き回る十人の男子。赤と青のユニフォームが一つのボールを奪い合っていた。
そう、俺はバスケの試合に出場していた。
つーか俺の視点とかじゃないんだな。どうやって撮ったんだこの映像。
「あーこれ知ってる。バスケでしょ。黒子のバスケとスラムダンクは読んだわ」
この女神様は漫画も読んでいるらしい。少年ジャンプを購読してるんだろうか。
「接戦じゃん」
「そうだな」
勝てば夢のインターハイ出場に近づく、大事な試合。それは負ければ即ゲームオーバーという意味でもある。
互いの青春をかけた試合はドラマを生み出し、スコアは逆転に逆転を重ねていた。かつて経験したことがないほどの接戦だった。
プレイしていた俺もずっと気が張ってたからな。応援している観客も胃が痛くなっていただろう。
「あんたは青いユニなのね。がんばれ赤! 負けるんじゃないわよ!」
この女、相手チームを応援してやがる。
だが別にいいさ。この試合はもう終わった試合だ。
結果は見えている。
映像では第四クォーターの終盤に差し掛かっていた。
限界まで息を切らし、したたり落ちる汗を拭いながら。体と頭を全力で酷使しているのに。スコアをリードしたと思ったら取り返されての繰り返し。
一点差でこちらがリードしているが、気が抜けない状況だ。そんな中、
「くそっ!」
俺が入部してからずっとチームを引っ張ってきた部長の悲痛な叫びが聞こえる。部長が持っていたはずのボールが相手チームに渡っていた。
ディフェンスが間に合わず、完璧なカウンターが決まる。これで一点分、逆転されてしまった。
ドンマイと声をかけながら、チームの全員がタイムボードに目をやる。
残り時間は少ない。このままいけば。もしどこかでミスをすれば
負ける。
相手チームはギリギリでチャンスをものにし、士気は高い。
対してこちらのチームは動きが固く、今までのようなプレーができていない。
俺を除いて。
「ヘイ!」
相手のディフェンスに攻めあぐねているメンバーからボールを受け取る。
不思議な感覚だった。体は軽いし、周りの動きが遅く見える。
試合は終盤。いつもなら疲労がピークに達していて、交代することだってあった。
だが今日は最高に調子がいい。そう確信した俺。
今までよりもずっと遅い相手のディフェンスを躱して。
スリーポイントシュートを放つため、しゃがみ込む。
ジャンプしする間、相手選手の驚いている表情が見える。試合開始から初めてのスリーポイントだ。試合時間が残り僅かな場面でやる行動ではない。
自分でも不思議だった。スリーポイントの練習は部活でやった。でも成功率が低いから試合では使わないと決めていた。
けど。
入る。ボールから手が離れる瞬間、そう確信した。そして、その確信の通りボールはゴールに吸い込まれ、シュッと音を立ててコートに落ちた。
その後。俺は合計三本のスリーポイントシュートを決め、試合を勝利に導いた。
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