エピローグ

 ちなみに。ヤツいわく、俺の身体は筋張っていて、まずそうだということで。

 今は柔らかいお姉ちゃんの肉で満足しているから、わざわざ俺を食べようとは思わない、らしい。

 できれば平穏無事に生涯を終えたい俺としては、コイツの食欲がうっかり暴走しないことを祈るばかりだ。

 食われた姉ちゃんには気の毒だが、正直、死んだ人間のことをいちいち気に病んでいたら、こんな仕事やってられねえ。

「うーん! やっぱり和食っておいしいですね、テツオさん!」

「ウン、ソウダネ。」

 隣でアジの開き定食を綺麗な所作で食べているコイツは、そもそも何故、定期的に人を食っているのか、俺にはわからない。何故、食糧としての価値がない俺を誘っては、一緒に酒を呑みたがったり飯を食いたがったりするのかも、さっぱりわからない。

「……まあ、俺には関係のないことだけどな。」

「何か言いました? あ、お水飲みます?」

 笑顔でポットの水を入れてくれるコイツは、やろうと思えば俺のことなど簡単に殺せるバケモンだということを、忘れてはいけない。ほだされてなどいない。ただ、逆らったらどうなるかわからないから、怖いだけだ。

 しかし、もらえるモンは病気以外もらっとけ、が自分の信条なので、入れてもらった新しい水を、俺は一気に、がぶりと飲んだ。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ひとでなしの熱い一夜 藤ともみ @fuji_T0m0m1

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る