僕のUL(ウルトラライト)ダンジョンパッキング

千原良継

僕のUL(ウルトラライト)ダンジョンパッキング

 今度の週末、町の近くに発生した小規模ダンジョンにソロ探索しに行くことにしたので、そのパッキングをしようと思う。


 最近、一部の冒険者の間で流行っているのがUL(ウルトラライト)パッキングだ。装備軽量化とも言う。


 とかくダンジョン探索に必要な装備は重くなりがちだ。少しの油断が即、死に直結するダンジョン探索。安全にいこうと思えば、自然と荷物は多くなる。戦闘に必要な装備系。探索に欠かせない魔道具系。食事に必要な調理道具系。休息するのに必須な就寝道具系。これら最低限に加えて回復・治療系の装備や、水や食材といった食料。後は、長い探索に心を落ち着かせる娯楽系の物。なんだかんだで、あれこれ詰め込んでいけば、相当な大きさの荷物となる。


 UL(ウルトラライト)パッキングとは、そんな重くなりがちな装備をできるだけ無駄を省き、削れるものは削り落とし、軽くするように荷物を厳選していく事だ。


 ただ軽くすればいいわけじゃない。安全面に十分に考慮して、無謀ではない自分に適した軽い装備を考えていく。


 装備が軽ければ、長時間のダンジョン探索でも疲れにくくなる。長い距離を歩いても負担が少ない。ダンジョンで獲得した戦利品もより多く持ち帰ることができる。ダンジョン探索を楽しむ新たなスタイルとして、ひそかなブームとなっているのだ。


 そして、僕もそんなUL(ウルトラライト)パッキングにはまりつつある。このスタイルでダンジョン探索に向かうのは五度目だ。そろそろ、自分なりの装備品が確立しつつあって、今が最高に楽しい。


 忘れ物がないように、確認しながらパッキングしていこう。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 まずは、荷物を入れるバッグパックだ。背負い袋ともいう。ホーンバッファローの皮で作られたバックパックをよく見かけると思う。耐水性が高く手荒に使っても丈夫なほどの頑丈さ。人気なのは【奇天烈宿舎】のやつで、長年愛用する冒険者が多い。でも、その分重くて大きいので残念ながらULには向かない。

 今回、僕が使うのはこれだ。

【リザリー魔道具工房】が今年の春に出したバッグパック。重さは460z。背負い袋の形を整えるフレームが無いので軽いけど、その結果中身がスカスカだと形が崩れて背負いにくくなってしまう。いかに背負いやすく中身を詰めていくかがポイントだ。最初は変な形に詰めていたけど、だんだんコツがわかってきたところ。

 レッサーワイバーンの翼膜を使っているので非常に薄く、それでいて防水性や耐刃性が高い。色も薄緑で気に入ってる。ただしお値段高し。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 僕のジョブは、レンジャーだ。一応、簡単な魔法も扱えるし、剣も片手剣なら扱える。何を持って行こうか迷ったけど、今回の目的地は新しくできたダンジョンだ。とりあえず数階層もぐって様子見しようと思っている。なので、本格的な戦闘とまではいかないだろう。

 

 武器として選んだのは、最近ようやく手に入れた短剣だ。『ヤドリギ亭』常連のカリューシャが自慢してきたのを触らせてもらって惚れこんでしまったやつだ。【ド・ルストラ】の魔軽鉄鋼製。もちろん、フルタング。ホローグラインドで刀身が通常の短剣よりも少し長め。速度上昇の魔石がほんの少し使われていて、たまに剣速が上がるというおまけ機能がついている。通の間では「会心の一撃」と言われているらしい。

 柄の部分に使っている炎樫が耐火性・耐熱性があるのが個人的に有り難い。


 片手剣よりも短剣が小さく軽いので、荷物軽減には大いに貢献するが、戦闘力が低くなっては意味が無いので、魔法で攻撃力を上げることにする。


 用意するのは、灼熱油だ。


 これを短剣の刀身に塗って、ファイレルの魔法をちょっと掛ければ刀身が燃え上がる。効果は一塗りで十分ほど。一回の戦闘には十分だろう。中層などのボス戦には使えないが、浅い層での低級モンスターには十分だ。炎樫の柄のおかげで握っていても熱くない。


 この灼熱油を充分に含ませた布を二枚持って行くことにした。この布を入れた油が染みない小さいポーチをベルトにつけていつでも取り出せるようにしておく。


 着ていく服装は、敏捷性を失わないように鉄鎧はつけない。革鎧の胸当てや必要最低限の急所を守る分だけをつけている。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 探索に使うのに欠かせない魔道具系。


 忘れていけないのは何といってもランタン。これがないと暗いダンジョンを進むことは出来ない。エールの大ジョッキよりも一回りぐらい大きなオイルランタンが主流だ。何といっても燃料代が安い。その分、薄暗く煤が出るという欠点がある。ダンジョンに潜った帰りの冒険者の顔がうっすら煤に汚れているのをよく見かけると思う。


 軽くするならランタンを変えるのは欠かせない。


 僕が使うのは【ウィル・オー舎】のウィスプ壱型という頭に巻き付けたベルトに装着するタイプの小型ランタンだ。もともとは鉱山ではたらく労働者向けに開発されたランタンで、両手が塞がる採掘時に使う用途らしい。


 3dzは珍しくないランタンの重さが、これを使うとなんとたったの150zになる。その分魔石喰いなんだけども。これもお値段高し。鉱山労働者は安く買えるらしい。ツテがあれば安く買えたのに……。


 噂によれば、ウィスプ弐型が春先に出るらしい。


 大きさが不ぞろいで形がいびつな魔石を加工して、フラットな形に成型した成型魔石が世に出て久しい。


 成型魔石は形の大きさで中に含まれる魔力が均一なので、魔石が必要な魔道具の充魔管理がしやすい。


 僕が気に入ってるのは魔導士アンケルが作る成型魔石だ。他の魔導士がつくる成型魔石にくらべて魔力の拡散率が少なく、一万魔力値の成型魔石一つで一回のダンジョン探索が十分賄える。僕が普段使う「魔法の杖ワンド」には三回フルに充魔できる。


 今回「魔法の杖ワンド」は装備しないけど、ウィスプ壱型があるので持って行く。


 主な魔道具系はこんなとこかな。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 食事はどうしようか。それによって、持って行く調理器具が変わる。軽くするのに一番いいのは乾燥食材をお湯で戻すのが一番だ。乾燥食材を入れるボウルとスプーン、お湯を沸かすために使う銅製のコップ。

 お湯を沸かすのに火は使わない。最近知ったのだけれど、温泉街として有名なアマルでお土産として売られている黒龍石で作られたコースターが、なんとファイレルの魔法を一定時間かけ続けるとお湯を沸かすほどの熱を発することができるらしい。

 四、五回で割れてしまうのが残念だけど、どこでもお湯が沸かせるのは魅力的でついつい五枚もまとめ買いしてしまった。


 時々、冒険者の中でアマルに定期的に訪れている人たちがいたんだけど、あれは湯治だけじゃなかったんだろうな。


 広く知られてしまうとコースターが手に入りにくくなるので、人には教えず内緒にしている。知る人ぞ知るって感じ。

 このおかげでかなり軽くすることができた。コースターを重ね置きすると、フライパンで肉も焼けるらしい。軽いフライパンを見つけたいところだ。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 就寝道具は大事だ。何日間にもわたるダンジョン探索は、寝不足は大敵。いかに快適に眠るかが重要だ。そのためのポイントは、どれだけ安全に夜を過ごせるか。


 パーティ探索なら見張りを立ててしまえば解決なんだけど、僕はソロ探索だ。


 見張りながら眠りなんて不可能。頑丈なテントだと望ましいが、その分重くなってしまう。モンスターが近づかないようにする結界魔道具なんかも地味にかさばるし重たい。隠蔽魔法がかかったテントもあるけど、あれは高いしね。それにモンスターが気づかないで接近する危険性もある。


 UL冒険者の間で最近流行っているのは、ハンモックだ。ダンジョンの石壁にくさびを打ち込んで、隠蔽魔法をかけたハンモックを天井近くの高めに設営すればモンスターには気づかれにくい。

 ULに特化したハンモックは、小さくまとめれば拳台の大きさにまでできる。使わない手はないだろう。ただしお値段高し。隠蔽魔法付きなので泣くほど高い。

 それでも、床の状態に左右されないハンモックは一度やったら止められない魅力がある。ダンジョン内でも雨が降るときは降る。防雨カバーをつけたハンモックは無敵。

 寝相が悪い人はハンモックは止めた方がいいかも。天井近くの高さに設営するからね。落ちたら悲惨だ。僕はいまのところ大丈夫。ぐっすり寝れてる。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 回復・治療系のエマージェンシーキット。僕は、冒険者ギルドで冒険者になった時にもらったエマージェンシーキットを入れる袋に、これまでの経験で厳選した回復薬や治療に使う薬草を入れている。


 こだわっているのは、下級体力回復ポーションの瓶一本の中に、全部を詰め込んでいることだ。止血に使う大きめの布は使わずに、粘着性の高いホウタ茎の外皮を丸めてテープ代わりにしたり、回復ポーションは嵩張るので水に溶かして使う回復丸薬を使ったり。割り切った構成にしているのは、僕が低級回復魔法を使えるのが大きい。その分、意識をとどめておくための鎮静作用のある薬草を新鮮なやつでしっかりと用意している。


 食料は今回は乾燥食材だ。後で、いつもの【カルマン雑貨】に買い出しに行こう。店主の妙な拘りでいろいろな味が楽しめるのがいい。時々、変な味があるけど。


 水は、二年間お金をためてついに購入した水魔石式水筒があるから、大丈夫。底の青い水魔石を叩くと、水筒の中に水が出てくる優れものだ。使うと、だんだん水魔石の色が薄くなっていく。白くなったら魔石の変え時。まだまだ色は青いままだ。これのお陰で、革の匂いがする水袋から飲まなくなってよくなった。ワインなどのお酒は誤魔化せるが、水はわかりやすいもんなあ。水魔石式を開発した魔導士は偉い。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 後は娯楽系。


 僕は、本を二冊持って行くとにしてる。嵩張るし、その分重くなるけど、これは装備が軽くなった分の「心の余裕」だ。軽さだけを追求しても面白くない。こういう遊びがあってこそのULだと僕は思っている。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 他に細々としたものを選り分けて持って行くかどうか悩んで選択肢にいれたり、外したりした。


 そうして、選び抜かれた装備をバッグパックに詰め込んでいった。設営するまで必要のないハンモックや寝る前に読む本なんかは一番底の方に。調理道具やランタンなどの魔道具は真ん中に。後で購入する乾燥食材は小分けにして、この隙間に押し込んでいくつもりだ。すぐに取り出す必要のあるエマージェンシーキットが一番上だ。外側のポケットに水魔石式水筒を落とさないようにしっかりと固定する。


 食材なしの状態で最後に重さを計ってみた。6.8dz。これに乾燥食材プラスアルファ(お酒とか)を足すと9dz未満になるだろうか。

 悪くはない。嘘かホントかガチガチな人は食材・水込みで5dzを下回るらしい。僕は、まだまだだなあ。


 バッグパックのすぐそばに短剣と小さいポーチを置いておく。明日忘れないようにしないと。


 二回、バッグパックの中身をチェックした。忘れ物はない。はずだ。でも、まあダンジョンについたら思い出したりするんだよね、忘れ物。摩訶不思議。


 明日は早い。眠るには時間は早いけど、もう寝てしまおう。早く朝になれ。明日が楽しみだ。おやすみなさい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕のUL(ウルトラライト)ダンジョンパッキング 千原良継 @chihara

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ