「よっこらせ」みたいな感じで「くっ殺せ」って言う人

帆多 丁

プロ騎士かく語りき

 あーあーあー、もう。ちょっともう、信じらんないわぁ。しっかりしてくれません?

 私もね? 仕事で来てるの。わかる? プロ騎士として準備を整えて、適度に鎧が壊れるようにとか、良い所で剣が折れるようにとか、髪がほどけた時にちょうど汗でほっぺたに張り付くようにとか、いろいろ考えて手間暇かけてるんですよ。

 そりゃあね、そちらにもいろいろ事情があるんでしょうけど、あなたもプロでしょ? オークの。

 もっとこう、もっとこう、追いつめなさいよ! 私を!

 強かったり誇り高かったりする女騎士がね、卑劣な策略にはまるなり、予想外に屈強なオークロードに会うなりして、なすすべなく追い詰められていくプロセスにさぁ、逆転のカタルシスっていうの? この業界のウリがあるんだからさぁ。もっと吹っ切れた感じで来てくれないと困るわけ。

 なんで要所要所でちょっと優しさ出そうとするの? 怪我でもさせたらどうしようとか心配でもしたの?

 ナメんじゃないわ、何年プロ騎士やってると思ってるのよ。本気で来んかいこのアマチュアが!


 ……え? 新人くん?

 まだ十九歳って。あー……。

 いいすぎたわよ、ごめんて。お互い種族がちがうから、見た目じゃ年がよくわからなくてさ。

 でも私が言った事は本当だよ。

 お互い仕事ってことで了解して、恨みっこなしでぶつからないと、良いものできないんだよ。

 ん? 

 例の台詞を言わせないとギャラが発生しない?

 まー、そうね。そうかもね。

 今更だけど、とにかく、形だけでもやっとく?

 うん。なら、縛って。吊るさなきゃでしょ、私を。

 大丈夫ですかとか聞かない、女騎士に許可を求めるオークがいるか!

 はい。はい。そう。しっかり吊して。

 足は着くか着かないかのところで。足が着いたと思ったら浮いてしまう、このもどかしい不安定さがオーディエンスのハートを揺さぶるの。


 じゃあ、今回はこれで。次は私が相手じゃないかもしれないけど、しっかりやるのよ?

 そうそう。そこでポーズ決めて。大丈夫、頑張って。ムチ、意外と似合ってるから。きみの精一杯のゲスを見せて。

 いいわね? それじゃあ言います「くっ殺せ」

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「よっこらせ」みたいな感じで「くっ殺せ」って言う人 帆多 丁 @T_Jota

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