第13話 最終話
翌朝、修は橋の上で眠り込んでいるのを、通行人に起こされた。松原は影も形もなく、酒瓶なども無かった。朝の光に照らされた橋は殺風景なコンクリートで、白々としていた。
店に戻ると、待っていた大将にものすごく怒られた。そして、心配された。
「突然飛び出して行って、戻って来おへんし、ほんまに心配したんやぞ」
「あ、お勘定は」
「勘定?なんの話や」
「あの、ほら、あの端の席の」
修が振りむいて指さした先のカウンターには、端に酒瓶が並べられていて席など無かった。
「端の席?お前、何言うてるんや。端には前から席なんて無いやろ」
釈然としない顔の修を見て、大将は続けた。
「お前、疲れてるんちゃうか。2,3日、休んだ方がええで」
「俺は……松虫の声がすごいなかで酒盛りして、『弔いや』って踊る人を見て」
修の言葉を聞いて、大将は吹き出した。
「お前、それ夢やわ。夢、見たんやわ。誰かから聞いたんやろ、松虫塚の話。まあ、ちょっと休んでゆっくりしぃ」
大将は笑いながら、修を店の外に押し出した。
外はもうすっかり秋の朝で、夏の残滓はまるで残っていなかった。修は、男の寂しい笑顔と冷たい指先が思い出されて仕方なかった。
夜の声 日向 諒 @kazenichiruhanatatibanawo
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