Episode3 01

《AVENA》に挑戦する日までコウはルリのアバター衣装を新規に制作していた。



 先日のショップ巡りでバレッタやクータに散々連れまわされて、好みの衣装を手に入れることができなかったルリ本人からの希望もあって、衣装制作の依頼を受けた格好だ。


 ルリは運動部の助っ人として練習に遅くまで参加することになり、次の《AVENA》の集合までしばらく期間がある。


 その間、コウはずっと衣装をいじっていた。


 制作といってもやっている時間の九割は地道な作業だ。強制されてやるのであれば心はすぐに折れるだろう。それでも続けられたのは好きでやっているからだ。


 しかも今回はルリから依頼を受けているから、後ろめたさもない。


 これまでのアバター作りの中で一番楽しい時間かもとコウは思った。


 衣装は《AVENA》攻略の二日前にルリに渡した。





「これ、無茶苦茶いいよ!」

 開口一番、ルリに褒められて、コウは思わずにやけてしまった。現実でならその顔を見たバレッタあたりにキモいと言われていたかもしれない。人に感謝されるものを作るというのは、強烈な達成感がある。


 そういえば美術部で頑張っていた時は、誰かのためにというファクターがなかったなと思う。だから高い評価を得られなかった途端、行為が無意味なように感じられて、続けられなくなってしまったのだ。


 誰かのためになら、もしかしたら続けられるかもしれない。コウはぼんやりとそう感じていた。





  ◇





《AVENA》攻略のために五人が集まる時間が来た。

 ルリ以外は全員が揃っている。

 厳密にはクータは二分遅れだったが、許容範囲だ。

 あとはルリだけだが、これはわざとだ。


 コウはルリが遅れてくるということを知っている。新衣装のお目見えは全員揃っているところでやりたいとルリが二日前に言っていた。


 なので皆揃ったところで、ルリがやってくるというわけだ。




 バレッタが「ルリはまだかなー」と言った直後――一目で目を引く衣装のアバターが彼らの前に現れた。


「お待たせ。じゃーん! どう? カッコイイだろ!」


 いつもよりも無邪気さが増した声と笑顔で、ルリは自分の服装を見せるように両手を広げている。


 少し小さいとはいえ、ルリそっくりの姿は以前と変わらない。

 だが、衣装の雰囲気はまったく別のものだ。


 赤と黒の二色をメインにした、現実ではなかなか着る機会のなさそうな色選びで、さらにデザインもファンタジー寄りになっている。


 それがルリに好感触なのは、すでにコウは知っていることだ。


 一方で、バレッタとクータは何か物申したいことがあるといった顔だった。

 理由は単純明快で、


「アタシとしては、前のリボンたっぷり、フリフリ制服のほうがよかったんだけどな~」

「ですよね! あの過剰さが一つの味になっていたのに。もったいないです!」


 二人ともフリフリ至上主義者なのだ。ああいうフリルの衣装が技術的により手間のかかるものなのはわかるし、衣装だけで見るならコウも悪いとは思わない。


 でもルリ本人が望んでないなら、どうしようもないだろう。


「自分モデルのアバターに着せる抵抗があったら、別のキャラデータを用意してそっちに着せてもいいと思うけど……商品のモデルといってもカスタムでいくらでも変えられるし」

 コウは一応、ルリのためにほかの案も出した。


「でも、このモデルは唯一無二だろ? だったらこっちが良いよ。びっくりしたけど、嬉しかったよ。衣装もしっくり来る。使っていいんだよな?」

「もちろん。肖像権? 著作権? はルリにあるも同然だし」

「やった!」


 ルリそっくりのアバターが笑顔になる。普段はあまり見られないとはいえ、それは現実のルリの笑顔ともよく似ているはずだとコウは思った。


「まっ、しょうがないですね。本人が好きと言ってるならやむを得ません。僕だって好きなものを着るのが一番だってわかってますし……」

「アタシだってもちろんそうよ! ああでも、ルリがフリルとレースの良さに気づいてくれたらな……」

 クータもバレッタも惜しそうにしながらも、ルリの意見を尊重するしかないと譲歩してくれた。


 ひとまずコウは、大きな仕事を一つ終えたとほっとする。



「じゃ、そろそろ《AVENA》にアクセスしようか」

 ルリの言葉にバレッタ・あまゆー・クータが「さんせ~い!」と声を合わせた。


「お、おう……」

 コウもぎこちなく右手を振り上げた。



 アバターでも、こういう時に格好をつけた態度がとれないコウだった。

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