第93話 変化する日常
「皆さん、お帰りなさい!…って、何やってるんですか…?」
ソラは不思議そうに眉を顰めている。良いところにソラが来てくれた。そうだよね、それが普通の反応だよね。
「ソラちゃ~~~~~~ん!!」
コウタはぴょんと飛びはねて瞬時にソラに駆け寄る。素早い。全然疲れているやつの動きじゃなかった。その動きを戦いでも役立ててほしいぐらいだ。
「聞いてくれよぉ、皆が俺をいじめてくるんだよぉ!酷くね!?俺頑張ったのにさぁ!」
「そ、そうだったんですね…、コウタはえらいですね」
ソラは知ってか知らずか、コウタの頭を撫でて励ましている。優しい。優しすぎる。なんて包容力なんだ。お母さんか。お母さんなのか。
「わたし、美味しい料理をたくさん作ったので、これ食べて、明日からも頑張ってくださいね!」
「はい!分かりましたぁ!!あなたのためなら何でもします!いっぱい食べて、死ぬまで働く所存です!」
「よく言うよ…」おれは呆れて言葉が漏れていた。でも、すごいのはこの短期間でコウタをここまで手懐けているソラだ。<
すると、ハルカがソラの手元の料理を指差して言った。
「んじゃあ、ソラの作った超絶こげこげ焼きイモはコウタが食べてよね」
ソラの手に持ってある料理を見てみる。でも、それはもう料理と呼べる代物ではなかった。闇だ。真っ黒な闇がそこにある。焼き過ぎで炭化しきっていて、料理という概念を超越してしまっている。
「ソラちゃ~~~~~~~~ん!!??」
絶望に満ちたコウタを見て、ソラは顔を紅潮させて苦笑いを浮かべた。ミコトとハルカは腹を抱えて笑っている。ゲンは笑いを堪えようと肩を震わせている。
なんだか。
前よりも騒がしくなったな、と思うけれど、その騒がしさからは、煩わしさみたいなものは感じられない。だいぶん、このメンバーにも慣れてきたっていうのもあるのだろう。
何より、ソラが加わってくれたというのが一番大きい。
そう、おれたちの日常は変わらない。戦って、死にそうになって、毎日ヘロヘロになって帰ってきて。
でも、この一週間で、ソラの存在がおれたちの中で大きな変化を与えているのは確かだった。
戦いの日常は変わらないが、ソラが加わったことで、生活リズムは少しずつ変化していった。
まず、実働するパーティメンバーが四人になった。この四人がいつも通り傭兵ギルドへ行き、依頼を受け、完遂して、報酬を受けとる。
そしてもう一人はソラの護衛。彼女だけ宿舎に置き去りにするわけにも、逆に戦場に連れていくわけにもいかないので、その護衛としてハルカが付いている。
護衛という意味もあながち間違ってはいない。もしかすると、ホワイトやネイビーがいつまた襲ってくるかもしれないので、念のため、ハルカがそれを担っている。
ハルカは<
それにハルカは、ソラの就職活動も手伝っていた。コウタが紹介した酒場や、ミコトがよく行く本屋など。おれたちが持てる限りの人脈を利用して、どこか働き口を探していた。
髪を黒く染めたのも、これが理由だ。ここアルドラでは、白髪はかなり目立つ。他に白髪を持つ人間をまだ一人も見たことが無いくらいだ。だから悪目立ちしないよう、染料で黒くしてしまった。
ミコトやハルカなんかは、せっかく綺麗な白髪だったのに、と口惜しんでいた。でも当の本人はあまり気にしていないようで、むしろ街の皆に馴染めるような髪色になれて嬉しかったようだ。
それ以外はソラとハルカには家事全般を任せている。掃除、洗濯、買い物、料理。おれたちが今までローテーションで回していた家事を全部やってくれているものだから、実働隊のおれたちにとってはとても有り難かった。帰ってきたらご飯もあるし、風呂も沸けているし。洗濯物はやってくれているし。なんだこの実家感。
実働隊のおれたちもおれたちで、一人減ってしまってどうなるかと思ったけれど何とかなっている。
確かに、攻撃のコウタ、防御のゲン、魔術のミコトがいる時点で、バランスはとれている。もちろん、ハルカの加護がなくなったことで、無理な戦闘は控えなければいけないが。ハルカがいてくれれば、多少の強敵を相手にしていたとしても、<
そういう意味ではハルカの有難味が非常によく分かった数日間だ。
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