第61話 逃走
「やばいやばいやばいやばいやばい…!」
これは、本格的にやばい。蒸し暑さと焦りで、汗が吹き出るのを感じながら、おれはそれでも走った。
「こ、ここどこだよ!?」ゲンが鎧をガチャガチャ鳴らして走っているが、周りも崩れる音で満ちているせいで、どれがどの音か判断がつかないほどうるさい。
というか、それはこちらが聞きたい。どこだよ、ここ。
おれたちは通路を走っていた。出口を探して。でも、それが一向に見つからないのだ。
その間にも、遺跡はどんどん勢いを増して崩れていっている。
もうどこをどうやって走ってきたか覚えてもいない。何個部屋を跨いできただろう。五個?六個?まあそんなのはどうでもいい。
早く外に出ないと、洒落にならないことになる。
「なんかさっきから同じような通路に来てる気がするんだけど!」ミコトがあたふたして慌てている。
そんな通路一つ一つの特徴なんて誰も覚えていない。
確かに、こう同じような通路ばかり進んでいると、自分が進んでいないんじゃないかという錯覚に陥って、さらに焦りに拍車がかかる。
「でも、とりあえず今ある道を進むしかないわ!」ハルカはコウタを脇に抱えながら走っている。
「って!ちょっとコウタ!あんたもっと早く走れないの!?」
「バッキャローおめーこれが今の俺の全力だよ!怪我人に無茶させるんじゃねー!!」
コウタは床が崩れて落下した際に身体を強打してしまった。
たぶん、どこか骨にひびが入っているか、折れてしまってるんじゃないだろうか。顔は辛そうだが、ツッコむときは全力だ。
「はぁああ!?あんた人がせっかく助けてやってんのに何よその態度!あんたが早く走ってくれなきゃ皆潰れちゃうでしょ!限界突破させなさいよ限界突破!」
「わーったよやりゃあいいんだろやりゃあ!!」
コウタはうおおおおおと言いながら、ハルカと肩を並べて走り出した。まるで二人三脚だ。ほんと仲良いなあの二人。
コウタの怪我を治してやりたいのも山々だが、なにしろ時間が無い。治療している暇が無い。
時は一刻を争うのだ。
おれは少し顔を歪めた。こちらもかなり疲労が現れてきた。足が重い。肩が痛い。さっきのネイビーとの戦いで、身体のあちこちが軋みを上げている。
そういえば、ホワイトとネイビーはどこに行ったのだろうか。
戦った部屋が崩れた時には、もう姿が見えなかった。もう遺跡から脱出している?どうだろう。ただあいつらはそう簡単にやられそうには見えない。
そんな、敵の心配をしている余裕が無いのは分かっている。今はここを抜け出だすことを最優先に考えるべきだ。
けれど。
あいつらはいったい何なんだ?何のためにソラを追っていた?目的は何だ?
疑問が次々と頭に浮かぶ。それらは考えても分からないことなのに、どうしても思ってしまう。
そして。
おれは抱えているソラを見た。まだ目を覚ます気配は無く、瞼は固く閉じられている。あんまり詮索すべきではないのだろう。でも。
ソラ。君はいったい、何者なんだ———。
「…ああっ!!」
前の方で大きな声がした。コウタの声だ。あんなに元気に走っていたのに、動きを止めてしまっている。隣にいるハルカも、立ち止まっている。
「どうした!?」ゲンがハルカの後を追いながら訊いた。
「いや…、これ」
ハルカは前方を指さす。なんか、顔が引き攣っている。胸騒ぎがした。
ハルカが指しているのは瓦礫だ。そう瓦礫。いやそれって。
「い、行き止まり…?」ミコトの瞳が僅かに揺れた。
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