第56話 一触即発
ホワイトは、そんなことお構いなしに、淡々と話を進める。
「いやあ、あなたが見つけてくれて、本当に助かりましたよ。こちらも、わざわざ探す手間が省けました。ここちょっと、入り組んでて、広いじゃないですか。それに、空気も悪い。こんなところ、一秒でも早く抜け出したいものですよ。あなたも、そう思いませんか?」
ホワイトはそうおれに尋ねたが、おれは押し黙った。いや、応えられなかった。声が、出せない。喉も、カラカラだ。
ネイビーはずっとおれを見つめている。何一つ微動だにしない。
「…なので」暫くして、ホワイトが口を開いた。おれの返答を、待ってくれていたようだ。
「こちらも、これ以上仕事を増やしたくないですし」
ホワイトがうーん、と低く唸る。背筋の悪寒がどんどんと増していく。やばい。やばいやばいやばい。
「ソレを、こちらに引き渡してもらえませんかね?」
その言葉を聞いたと同時に、おれはやっと身体を動かすことができた。反射的に、無駄の無い最速の動きで剣を引き抜いて、ソラの前に立った。
「おっと」ホワイトは片手を緩く上げて、掌をおれに見せた。
「いいのですか?そういう反応をとってしまって」
そう言って、おどけてみせる。でも、もう完全に、わざとやっているようにしか見えない。
おれは剣を彼らに向けたまま、右手で柄を強く握りしめた。
こいつらが、どんなやつらかなんて、知らない。けど、確実に、ソラを引き渡してしまっていい相手ではない。ソラの尋常ではない反応を見れば、誰だってわかる。それだけは、肌で感じた。
左手は、ソラの腕を無意識に掴んでいた。まだ、震えている。冷え切っていて、冷たかった。こちらの手が震えていることがバレないぐらい、ソラの方が震えているのだ。
もう、こうするしかないだろ。
上でまた、地響きが鳴った。ホワイトたちはまるで聞こえていないかのように、おれに話しかける。
「あなたは、ソレが何なのか、ご存知なのですか?ソレの、何を知っていると?」
さっきから気になっているのだが、ホワイトはソラのことを、ソレ、と物のように言っている。なんでそう呼んでいるのか分からないが、それがおれの神経を逆なでする。
「それとも…」仮面の奥の瞳が、じっと、おれを睨んでいる。感情が全然読めない。こいつらは、いったい何を考えているのか。
歯を食いしばって、おれはただホワイトを睨んだ。どれぐらい、そうしていただろう。ふっと、ホワイトが視線を逸らした。
「まあ、いいでしょう。…ネイビー」
「……」
ネイビーと呼ばれた背の低い仮面が、返事もせずにすいっと前に出た。こいつも、謎だ。さっきまで、全く無反応だったのに。
「…やりなさい」
一言だった。たった一言ホワイトは口にしただけだ。
その一瞬で、ネイビーはおれの目の前に接近していた。
驚く暇も無い。おれはもうほとんど条件反射で剣を横に薙いだ。
するとネイビーは、軽々とそれを後退して避けて見せる。
後退したネイビーの右手には、短剣が握られていた。いつ、抜いた?見えなかった。動きも、瞬間移動したみたいで、目で追えなかった。
こいつ、強い。
冷や汗が頬を流れた。何が起こるかわからないから、拭うこともできない。
「…ソラ。危ないから、下がってて」
それだけ、口にできた。おれは掴んでいたソラの腕をそっと放す。後ろで、ぺたっと座り込む音が聴こえた。
ソラだけ逃がすこともできる。けど、彼女は今足を怪我していて、早く逃げられない。ホワイトに追いかけられれば、すぐ捕まってしまうだろう。だったら、ここにソラがいてくれた方が、あいつらも変に動かないはずだ。
幸い、ホワイトはずっと立ちっぱなしで、動く気配はない。参戦しようともせず、ただ見ている。まあ、二人を相手していたら、真面目にやばかったが。
でも、本当に何を考えているんだ?ホワイトは動こうとすれば、動けるはずだ。今だって、ソラを捕まえることだってできるかもしれない。
目的はなんだ?彼女を捕まえるだけじゃないのか。それとも他に何かあるのか。
ああもう。わけがわからない。
けど。
今は、目の前の敵を倒す。それしかない。
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