第54話 仲間と

ホント、馬鹿みたいだ。


勝手に差をつけて、勝手に悩んで、勝手にムキになって。


だけど、さ。


巨人の剣が、目の前に迫った。避けようかな、とも思ったが、反射的に身体が動いていた。


左脚を軸に、身体を回転させる。剣が右側を通り過ぎていった。それを横目で視界に捉えたながら、巨人の剣を掴んでいる右手を直視する。


右手首に、ダガーを入れ込んだ。


すっと、綺麗に刺しこまれていく。あ、ここだな、という感触が脳に刺激を与えた。


今までとは違う手ごたえがダガーから伝わった。同時に私はダガーを握る手首に力を入れて、掻っ切る。


ガシャン、と音がした。振り返ると、巨人の剣が手ごと地面に横たわっていた。


「…ハルカァ!!」


低い声が響いた。ゲンの声だ。霧の隙間から、ゲンが見える。


準備が、整ったらしい。


私はゲンの方へ駆け出した。


巨人も、それを追ってくる。後ろから、ドス、ドス、と地響きがなっている。私は走りながら、振り返った。


巨人は、追いかけてくると同時に、妙な態勢をとった。あれは、見たことがある。さっき、腰から炎を噴出させた時と、同じ仕種だ。


でも。


腰からは、いくら経っても、炎が噴出されることは無い。


当たり前じゃない。何のための、水攻撃だったと思ってるのよ。


この霧は、巨人の視界を遮ることと、もう一つ、炎の噴出を抑える役割を果たしているのだから。


私は、まだまだだ。全然力が足りないし、そういう意識はある。


だけどね。


私なりに、考えることができる。知恵を振り絞ることができる。


巨人に追いかけられながら、通路に入った。巨人も、通路を破壊して、私を追いかける。


通路の先が見えた。右脚が悲鳴を上げている、汗だくで、服が霧で濡れていて、髪が頬に張り付いて、熱くて、最悪だけど、もう少しだ。


私は通路を抜けた先に飛び出した。そこはもう一つの部屋だ。部屋に着いた途端、右側に頭から緊急回避する。


巨人も部屋に走ってきた。足を、踏み入れようとする。


「…せぇーのぉっ!!!」


掛け声が聞こえた。ゲンとコウタだ。巨人が部屋に入った瞬間、ゲンとコウタが足元にロープを引っ張る。


巨人がロープに引っ掛かって、前へと態勢を崩した。


ドスン、と巨人が前のめりにスッ転ぶ。ロープが切れることはなかった。さすが、ミコトが強化した魔術特性のロープだ。


私は、まだまだだけど。

考えて、こうやって、一緒に行動してくれる仲間がいる。


前方に転んだ巨人は、そのままうつ伏せになった。そして、その頭上には。


「ヴォ・ズィ・ル・ヴァ・デ・ィラ」


大量の式紙を張り付けられた、大きな岩がぶら下がっていた。


ミコトの<呪文スペル>が発動すると共に、真上で今までにないくらいの爆音が轟いた。


私だけでは、こんなことはできない。


できないことは、仲間に頼る。


そうやって、あたしは強くなるんだ。いや。

強くならなければならない。


あのためにも。


巨大な岩と、数え切れないほどの瓦礫が、巨人の身体に降り注いだ。

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