第6話
中学には頑張って行くことにした。
入学式に仲良く手をつないで現れたアカリとマモルに、周囲からはどう見えているのだろうかとひどく不安にもなったが、どうやら性別などよりも、その人目もはばからぬ仲の良さとマモルの妙なテンションの方が目立っているらしく、夏休みを前にした今まで一度も誰にも何も言われていない。
だけど、それでも私には、乗り越えなければならない試練があった。
「ただいま」
「おじゃましまーす!」
今のところクラスで一番親しい友人のリリアを連れ、震えを隠しながら玄関のドアを開いた。
「あら!お友だち!?いらっしゃい!」
「お、かわいい子じゃないか、いつもミキが世話になってるな!」
「あ……いえ……あの、ありがとう……ございます……!」
アカリに続いてリビングのソファから声をかけたマモルに、一瞬戸惑いながら答えた様子のリリアに鼓動が高まるが、
「こっちこっち」
そそくさとリリアを自分の部屋へ通し、制服を脱いでいると、
「ねぇ、ミキ」
背後から声が掛けられた。
「何?」
小一のあの日の記憶が蘇り、目まいに襲われながらも平静を装って答えると、
「ミキのお父さん、超イケメンじゃん、めっちゃタイプなんだけど」
リリアが何やら下心ありげな妙な顔で近付いてきて、私の背中をこづいた。
子供過ぎて、何も考えずにひどいことばかり言って、全然仲良くできなかったけど、本当はナナの頃も大好きだったんだよ。
ずっと、ごめんね、マモル。
だけど……。
リビングから何か下らないことを言って笑うマモルの大声が届く。
「うん、まぁ、ちょっと変わってるけど……あたしもそう思うよ。
大好きな、お父さんなんだ」
まだ慣れない「お父さん」という呼び方に、言いながらなんだか鼻の奥がむず痒かった。
後でマモルにも言ってみよう。
ずっとずっといつもありがとう、お父さん、なんて急に言ったら、マモルは一体どんなリアクションをするだろうか。
再び聞こえたマモルの笑い声に、あれこれ想像してにやにやし始めた私を、
「ミキってもしかして、超ファザコン……?」
リリアが微妙な顔で見詰めていた。
終
私の、お父さん 遠矢九十九(トオヤツクモ) @108-99
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