第13話 オッサン、テンプレに従う

 

 

「大変でしたね。あの人、エンゾさんって言うんですけど、よく新人の冒険者さんたちに絡むんです。中には冒険者を辞めちゃう人も……あなたも手続きが終わっていた後だったらどうなってたか。基本職員はギルド会員同士の問題に口出しできないので……」


 受付カウンターに戻ると、ぬこ耳さんがにこやかに迎えてくれた。

 エンゾー、円蔵さんかな? 噺家には見えんな。


「いいさ。終わったことだ。さて、手続きお願いできるかな?」


「はいっ! お任せください!」


 テンプレ通りの騒ぎはあったが、幸いギルドマスターなんてものが出てくることもなく、無事登録手続きをしてもらうことができた。


「え? タケシ様、職業が『教師』って……」


 王宮でもやったステータス確認の段階でぬこ娘が困惑していた。


 しまった! シュレにクレームつけた時、レベル表示を変更しただけで他はそのままだった。忘れてた。てゆうか、どれが一般的か知らないんだよ。

 今から変更申請はできないよなあ。手遅れという意味で。急に変わったらもっと驚かれてしまう。

 でも、元勇者候補ってところは突っ込まれなかった。シュレが偽装してくれた? それとも有り触れてる?


「珍しい職業だったかな? さっきみたいに絡まれると面倒だから内緒で頼む」


「はい。勿論です」


 うん。いい子だ。マニュアル通りなんだろうけど。語尾も普通だし。

 そんなこんなで手続きは終了し、ついに私は冒険者になった。

 後は冒険者ギルドの説明を聞くだけなのだが、正直、お腹いっぱいって感じ。だって、ネット小説とほぼ同じ。言い換えると微妙に違うからどれがどれなのやら混乱の極みだ。


 まあ、緊急時にはアカシックさんに尋ねるつもりもあるし、大事なのは『説明を受けたことがある』というポーズなのだ。

 だから、私はカウンターでふんふん頷いていたよ。


 お約束の、謎ファンタジーテクノロジー製のギルドカードももらった。白くて『G』って書いてある。SS・S・A~Gの九段階がこの世界の表示方式だ。いつも思うんだが、何故英語のアルファベット? 『いろは』でも『甲乙丙』だっていいのに。もしかしたらそんな異世界も……いや、需要がないのか。翻訳スキルの影響だということにしておこう。ちなみに私は数字のパターンが一番好き。だって、たとえばCランクは下から何番目? とか考えると、いちいちABCD……と指折り数えなくてはならないからだ。それにAの上にあるSランク。なんだろ? いかにもインフレしましたよ的な特別感。作品によってSだけだったりSSSがあったり。それなら剣道や柔道みたいに下は六級から始まって一級になり、その上は初段、二段、三段とすればどんなにインフレしても管理が楽だ。この世界は現在SSが最高だが、将来SSSSSSSなんて出てくる可能性もゼロじゃない。面倒だな。


「ありがとう。何かわからないことがあったら教えてくれ」


「はい。タケシ様もがんばってください!」


 ぬこ娘とのコミュニケーションを続けられないのは残念だが、早速行動開始しよう。


 私は、これもお定まりの『掲示板』を見に行く。ネットじゃなくてリアルの方。


 ここも予想通りだった。

 採取依頼に護衛依頼。雑用仕事も王都だからなのかかなり多い。逆に魔物討伐は少なかった。時間帯のせいもあるのだろう。やはり『ヒャッハー!』な冒険者は討伐依頼が好きそうだし。その辺の雰囲気は追々慣れていけばいいだろう。焦る必要はどこにもない。


 異世界に来てまだ三日目だが、状況を改めて確認してみると、使命があって召喚されたのは確かだが、紆余曲折あってその使命は今別の人間のものだ。


 シュレも便乗して? 私に何かを求めているようだが、ハッキリ言わないし、アカシックさんも気にしなくていいと言ってくれているから事実上自由だ、フリーダムだ。

 出会いはアレだったが管理神とも知り合えた上、厳格なルールはなさそうである。積極的には人間に干渉はしないようだが、してはいけないということもなさそうだ。これは私の運がいいと言ってよい。気まぐれで我が侭という、それこそテンプレの神サマだ。口八丁手八丁で利用するに限る。常識的でささやかな願いなら神様なら手間とも思わないだろう。私は世界征服など望んでないし。まったり異世界ライフを安心して堪能できるぞ!


 今日は冒険者初日。

 無理はせず、情報収集と環境整備から始めるのがベストだ。


 まずは宿の確保。風呂付希望。なければ王宮に通うか?


 次は装備品の購入。新しく発生した世界といっても現実なのは確か。ゲームじゃないんだから安全係数は高めに。シャルさん(王様)に借りた(もらった?)資金があるし精々上等な装備を見繕うことにしよう。


 あ、資金といえばシャルさんには大銀貨二十枚もらったんだ。

 んで、ギルドでは手数料で銀貨三枚払った。大銀貨を一枚出して釣りが銀貨七枚だったから単純な十進法だな。


 物価については皆目わからない。それも追々でいいだろう。一応昨日の説明会で聞いたはずなのだが、王侯貴族から庶民生活の物価を説明されてもねえ? ネット小説と懸け離れていないことを願うだけである。

 日常品を揃えながら街を散策すればおおよそはわかるだろう。


 あ、貨幣の種類くらいは把握してるよ。

 六種類あって、大金貨、金貨、大銀貨、銀貨、大銅貨、銅貨、だって。銅貨一枚が1アースだそうだ。アースって、地球じゃん!

 まあいい。てなワケで、オッサンの所持金額は現在19700アース。シャルさん曰く、金貨一枚10000アースで二、三ヶ月は暮らせるそうだ。そりゃありがたい。


 金の心配がなくなったところで、さあ! 冒険の始まりだ! あ、買い物でした。








 はい。タケシです。

 ただいま異世界三日目の午後、王都郊外の東の森にいます。予定変更です。ほぼ一文無しです。


 私の装いは皮鎧に皮のブーツ。何とかっていう魔物製だそうで中級冒険者に人気だそうです。安全性を考え奮発しました。

 腰には日本刀。勿論こっちでは片刃の長剣という扱いでしたが、どう見てもKATANAでした。思わず購入。そそられました。日本にいたときは触ったこともなかったんですけどね。


 ギルドに紹介された比較的高級な宿に行く前に武具屋を覗いたのが運の尽き。

 仕入れてはみたが全く売れないカタナは安くしてやるとの店主(ドワーフではなかった)の言葉にも喜び勇んで飛びついたが、三点セット希望小売価格金貨二枚だった。


 え? この時点で足りないよ。

 武具屋のオヤジに頭下げました。見切り品なのに更に粘って銀貨五枚値切り、19500アースにしてもらいました。これで手持ちは銀貨二枚だけ。


 おかげで宿はお風呂付どころではなく、またギルドに舞い戻って素泊まり銀貨二枚という安宿を紹介してもらったのだ。


 それでも昼飯も食べられないのはマズイ。

 一番手っ取り早そうな薬草採取の依頼を受け付けてもらったよ。


 王都城門を出て人目がなくなってからケータイ取り出してシュレに電話しました。

 緊急事態と判断したんだ。金振り込め、じゃないぞ。


『そなたはアホか』


 もしかしなくても見てたんだろうな。第一声がこれかよ。

 だが、今の私には反論の仕様がない。


「仕方ないだろ! 刀はロマンなんだから! 子供にはわからんのですよ」


『子供じゃない! モン!』


「でだ、反則なのはわかっているが、緊急事態だ。手っ取り早く金になりそうな薬草の場所を教えてくれ」


『ワシがそう簡単に教えると思うか? なの』


「いいだろ? 俺たち、友達じゃないか。なあ」


『とっ、トモダチっ……しょ、しょんなこと言っても教えてあげにゃいんだから!」


「ちっ、つかえねえヤツだ。いいよ、自分で探すよ!」


『む~。そ、そんなにお金がないなら刀を買わなきゃいいじゃない』


「お前はどこぞのマリーか? コイツとの出会いは運命だったんだよ! あ、そうですか。アカシックさんならわかってくれると思いました」


『……ママが絡んだ時点ですべてが運命なんじゃがのう……』


 シュレには呆れられても、アカシックさんには慰められても、この刀との出会いは運命だと強がったんだよ。


 このあと、私の粘り強い交渉の結果、ケータイに新機能が追加されました。

 地図検索と鑑定です。便利すぎです、マジチートです。


 さて、さっさと金目のものを採取してメシでも食いに行こう。

 ケータイを出しっぱなしなので時折シュレから電話がかかってくるのがウザイが、BGMと思って数時間掛けて東の森まで歩く。うう、転移魔法がほしい……


「お、何か発見。カメラの鑑定によると……りんご? すごい翻訳機能だ。わかりやすくていいが、別物だろ……」


 グー○ルマップならぬアカシックマップでピンがついているところに向かうと果樹園のような場所に出た。低木に拳大の果実がなっていたが、これが目的地? そう思って鑑定したのだが、食用可と判定される。


「アカシックさんのやさしさってとこか。昼飯時だからな」


 まだ遭遇してはいないが、ここは魔物が闊歩する森の中。果樹園である可能性はないと判断し、遠慮なく『(りんご)狩だーっ! ヒャッハー!』しました。

 あ、ちゃんとカメラで完熟度調べましたよ。便利すぎ。


 時々『りんご』を食べながらどんどんアイテムボックスに果実を取り込んでいく。この機能もテンプレチートだよな。

 今後もロマンと現実の葛藤でメシに困ることもあるだろう。非常食の確保もお約束だ。


「しかし……味はリンゴなんだな。見た目はマンゴーっぽいが……」


 リンゴ味のマンゴーか、マンゴー形態のリンゴなのかという遣る瀬無い感想を抱きながら収穫を終える。

 これで数週間分の非常食は確保できた。異世界名物である黒パンと肉串が続いてもデザート一品加えられる。陸上でも航海病こと壊血病は怖いからね。


 さて、今度こそ当初の目的、薬草採取に向かうか。


 マップの新たなピンを目指して森の中を進む。推奨ルートまで表示できるんだから楽。道はないんだけどね。


「お、沼発見。ここが目印だな。で、薬草は周辺にコロニーを作ってると……」


 限界まで拡大した地図のピンに従って薬草を探す。

 見つけた。

 カメラを向けると鑑定で『薬草』と出る。


 根こそぎはマズイと聞いているので乱獲にならない程度に採取していく。


「しかし、『薬草』って、名前なのか? 一種類だけ?」


 ケータイの鑑定には『詳細』という項目があったので一応調べてみる。

 すると、『ケガナオル草』とふざけた表示が出たのでそれ以上調べるのをやめた私だった。



 ************************************************

 設定(変更あるかも)


 通貨・北大陸共通アース。貨幣は各国で造幣。大陸会議で協定が結ばれている。(タケシは説明を聞いたが覚えていないはず)


 銅貨 :1アース

 大銅貨:10アース

 銀貨 :100アース

 大銀貨:1000アース

 金貨 :10000アース

 大金貨:100000アース


 物価


 一般兵士の初任給:一ヶ月大銀貨五枚、5000アース(宿舎・毎食付き)

 王都住民の生活費:一ヶ月大銀貨二~五枚、2000~5000アース(衣食、光熱費のみ。住居含まず)

 定食:大銅貨三~八枚、30~80アース

 魔物の串焼き:一本大銅貨一枚、10アース

 ポーション類:下級一本銀貨三枚、300アース

      :中級一本大銀貨一枚、1000アース

      :上級一本金貨一枚、10000アース

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