第12話 オッサン、冒険者ギルドで無双する?
「ついに冒険者デビューか!」
つい言葉にしてしまうのも仕方がない。異世界といったら、ここに来なければ話が進まないのである。
まあ、私は主人公キャラではないのだが、最近はオッサンキャラも幅を利かせているようだし、ここは一つ彼らを見習って……
異世界に転移してから三日目。
私は王宮で優雅に朝食を取ったあと、出発することにした。
王様は忙しそうに書類と格闘していたので、挨拶だけにしておいた。なんせお金借りるんだし。もちろん返すよ、生産系チートが手に入ってウハウハに儲かったら。
王様は何か言いたそうだったが、お金を受け取ってさっさと城を出た。
じゃあな、シャルさん。また会う日まで。
あ、結局王女サマには会えなかった。やはり主人公キャラじゃないからかな。ちょっと残念。
王宮から出るとそこは賑やかな街が広がっていた。
王宮があるんだから、そこは王都。うん。わかりやすい。パーリィの街、とかいうんじゃなくてよかったよ。そのままフランシスカ王国王都フランシスだって。よくゴッチャにならないもんだ。ああ、だから王都ね。
その王都に冒険者ギルド・フランシスカ王国本部があるそうだ。つまり冒険者ギルド自体の本部はどこか他の国にあるのかな? それもわかりにくいこった。何て呼ぶんだろうね。
それはともかく、いざ行かん!
町の中は、やはり中世の文明レベルで、石造り、レンガ造りの建物ばかりだ。
まあ、オタクの妄想が反映しているんだから、なんちゃって文明なのだろう。王宮もトイレは謎の水洗式だったし。街も下水完備だったらすごいなあ。あ、でも、たしか地球のパリも下水道は発達していたような……いや、社会科教師といっても世界史ではなく、公民が専門だったのだ。それに、調べたかったら超ガラケーもあるし。
と、アカデミックな考察をしていたら目的地に到着した。聞いていた通り王宮から一本道。迷う要素が無かった。ちゃんとでっかい看板もあるし。
たのもう!
心の中で一声掛けて中に足を踏み入れる。
入り口は扉が開きっぱなし。
一枚縦三メートル、横も二メートルはありそうな分厚い木の扉が左右二枚内開きで入り口に垂直方向に開いたままになっている。ちょっとした通路のようだ。これは閉めてから閂をすれば強固に篭城できる。うむ。防犯意識は合格だ。
少し上から目線でギルド内を観察し、おもむろに正面カウンターに向かう。
うわ、酒場は併設されてないけど、休憩所か待合室のようなコーナーがあって人相の悪いのが屯しているな。中に敵がいたら篭城の意味は無いなこれ。減点一。
「すまない。登録はこちらでいいのかね?」
時間的に空いているのか、カウンターに空きが出来ていたので早速手続きをしてもらおう。
うおーっ! モフモフキターっ! 獣人キターっ! 異世界バンザーイ! 加点! 100点追加!
私は逸る気持ちを抑え、平然とした表情を保ちながら受付の猫系美少女に微笑みかける。
もちろん、思わず相手を撫でてしまわないように、力強く腕組みして。
なんか、受付のぬこ娘、若干怯えていたような……
「しょ、少々お待ちください……」
「うむ。いくらでも待とう」
「あ、ありがとう、ございます?」
「おいこら、オッサン! ここはテメーみてえなのが来るところじゃねえよ!」
これまたキターっ! 計ったようなタイミングだぜ! 異世界人ナイス!
といっても、実際彼は私を観察していたのだろう。ギルドには客も来るのだから。私が登録しに来たと知って喜んで絡んできたのだ。
私は、心のどこかで期待していたため、平静を装い、わざとらしく彼を一瞥した後、何事もなかったように登録の手続きを続けようとする。
うわー、何あのマッチョ。ゴリマッチョだよ。ナイス上腕二頭筋だよ。
うん、比べると私って貧相そのものだね。ジャージ着て竹刀持ってれば中学生くらいなら威嚇できるんだけど。
「おいっ! 聞いてんのか! てめえっ!」
痛い痛い! 肩掴まれましたよ。仕方ない。相手してやろう。
私は肩にかかった冒険者の手が外れるように振り向いた。
「何か用かね。今忙しいのだが」
「ちっ、見れば見るほど貧相なオッサンだな。わかってんのか? ここはオメーみたいのが来るところじゃねえんだよ。さっさと出ていきな」
はは、貧相だとハッキリ言われてしまった。わかっているが傷つくなあ。
しかし、そういうキサマはボキャブラリーが貧困だぞ。
「よくわからんが、その発言は、私が冒険者に向いていない、怪我をするから止めておいたほうがいい、と、私の身を案じての忠告と取ってよいのかね?」
「ああ! そうともよ! わかったんならさっさと帰りな!」
「忠告、痛み入るが、私にも考えるところがあってね。このまま手続きをさせてもらおう」
「何をゴチャゴチャ言ってやがる! 殺されてえのか!」
キレたよ。このゴリマッチョ。どうしよ? 殴られたら痛そうだ。おいおい、シュレよう、私のチート防御系とかあるんだろうな?
「私の怪我を案じていたはずではなかったかな? 殺すとはどういうことだ?」
「けっ! 俺はテメーが気に入らねえって言ってんだよ!」
誰か助けてくれるパターンはないようだ。遠巻きに見ているだけ。ちっ、根性のないやつらだ。
では、自分で対処しよう。ムカつくし、まだ登録していないから、いきなり殴られることもないだろう。テンプレどおりなら。
「ふむ。初対面のはずなのだがな。まあいい。話はわかった。では聞くが君はこのギルドのマスターかそれに準じる地位にあるのかね?」
「てめえにゃ関係ねえだろうが!」
「いやいや。違うというなら君こそ関係ないはずだが? 冒険者ギルドの登録に無関係の君の許可が必要なはずもない。ああ、ちなみに今の私はまだ一般市民だ。殴ったり、ましてや殺したりでもしたら君にはどんな制裁が待っていることやら」
ハッタリだがテンプレ設定だ。細かい違いはコイツにわかるはずもない。
「この野郎! いい気になりやがって! てめえこそ登録終わったらどうなるかわかってんだろうな!」
よし。とりあえず登録までの安全は確保できたみたいだ。
だが、これもテンプレどおり、登録後の決闘に発展するのだろうか。それは困る。チートはチートでもこの場でシュレたちが役に立つとは思えない。
追撃が必要だ。王様との話し合いが役に立つ。
「ふむ。もう一つ聞こう。君は魔族がここ最近攻勢を強めていることを知っているかね?」
「ああん? 魔族だ? 知ってりゃ何だ!」
「知っていればそれでいい。では、魔物を討伐するのが冒険者なら、魔族が攻めてきたときには君はどうする? 尻尾を巻いて逃げるのかね?」
「魔族が何だ! 俺様が倒してやるぜ」
おお、俺様出たよ。チョロいな。
「戦争だ。魔族も大群だろう。君一人ですべて倒せるのかね?」
「何言ってやがる! 冒険者ならここに大勢いるだろうが!」
「ふむ。私もその冒険者になって協力すべきだとは思わんかね?」
「テメーが? ハッ! テメーみてえな貧相なオヤジに何ができんだよ!」
「貧相なのは認めよう。だが、人は生まれたときは皆弱い存在なのだ。これから強くなればいい」
「テメーにゃ無理――」
「それとも何かね、君は生まれたときから強大な力を持っていたとでも言うのかね」
「だ、誰もそんなこ――」
言わせんぞ! ここで畳みかける!
「ほう! それは素晴らしい。生まれついての強者であるなら、現在の力は相当なものだろう。伝説の勇者よりも強いかも知れん」
「ぐ……」
ホラホラ、ゴリマッチョさんや。俺は弱いって言ってしまえよ。楽になるぞ。まあ、言わせてやらんけど。
「しかし、君がそれほど強いなら、何故今ここにいる?」
「ああん?」
「君が勇者以上の強者なら魔王も倒せるはず。違うかね?」
「うっ、うるせえっ! これ以上ゴチャゴチャ抜かすとブッ殺すぞ!」
またキレやがった。まあ、私が煽っているんだけどね。
「ふむ、これだけ言葉を尽くしても理解できないか。そうまでして私を冒険者にしたくないのかね?」
「あたりめえだ! テメーは気に入らねえ!」
「そればかりではないようだな。諸君! 聞いてくれ!」
既にギルド内で注目の的になってはいたが、ここで対象を変えて一発演説してみよう。何、ノリです。
「ここに、どうしても私を冒険者にしたくない輩がいる! それは、長期的にみて対魔族戦に不利になる! 例え私のような弱者でもだ!
人類が一丸となって対処しなければ未曾有の被害が出るというのに嘆かわしいことであるが、もし、これが魔族の陰謀だったら果たしてどうなるか!」
「い、陰謀だとお?」
「そうだ。これは利敵行為。すなわち人類に対する裏切りに等しい!」
「「「裏切りだとおっ!」」」
おっと、観客の皆さんもノッてきたね。
「そこのキサマ。見たところヒューマン種には違いないようだが、誰に頼まれて妨害をしている?」
「お、俺はそんなことしてねえ!」
「調べればわかる。私はこう見えても王宮に顔が利く。お嬢さん、警備隊に連絡を」
「え? 本当に呼ぶんですか?」
受付のぬこ娘は突然私に話しかけられて困惑気味のようだ。
「クソ獣人は引っ込んでろ!」
ムカッ。世界の宝であるケモ耳っ子になんという態度だ。お仕置き決定。
「キサマの態度はまともな冒険者のものではないな。確かに彼女は獣人だが、同じ人間だ。少なくとも冒険者ギルドの理念では平等のはず。
それをこうも悪し様に……怪しすぎる。魔族の手下に間違いはないようだ」
「ちっ、違う! くそ! この野郎があっ! は、放しやがれっ!」
とうとう殴りかかってきたよ。というか、今までよく持ったもんだ。
幸い私が殴られることはなかった。アカシックさんの加護に違いない。
マッチョは既に取り押さえられている。
あ、取り押さえたのは私ではありません。その他の冒険者ABCさんです。助けるんなら早くしてほしかったけどね。
「では、これから王宮に連絡して警備隊を呼んでもらいましょう」
「はなせっ!」
「うわっ! に、逃げたぞ!」
私が再び警備隊(そんなのがあるか知らんけど)の話をすると、ゴリマッチョは捕まえてた三人を振り払って建物の外に逃亡してしまった。
「どうする? 追うか?」
三人のうち一人が声を掛けてきた。先ほどのゴリマッチョよりは細いが、かなりいい体格をしている。
「まあ、よろしいでしょう。次に何かあったら、ということで。私もすることがありますし」
「そうか。あ、登録だったな。しかし、アンタ、いい度胸だ。あ、俺はマックス。これでもCランクだ」
「そうですか。私は……いや、俺はタケシ。見ての通り初心者のオッサンだが、よろしくな」
「ああ。アンタなら、別の意味でやりそうだ」
軽く冒険者たちと握手を交わした。これもお約束か?
おっと! 手続き手続きっと。
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