第11話 オッサン、王宮最後の夜を華麗に過ごす?

 

 

「くぉるぁあっ! 何しちゃってくれてんの! 何なの、あのステータスは!」


 今晩もう一晩だけ王宮に泊めてもらうことにしたオッサンです。

 長い白熱した会議の後、昼飯食って、メイド長さんに無理言って王宮観光をさせてもらい、今度こそちゃんとした晩餐を食べた後、昨日と同じ部屋で就寝しました。あ、ちゃんと風呂も借りて着替えましたよ、平民っぽい服を用意してもらって。肌着にズボン、チュニックとかいうボタン無しのポロシャツみたいなの、靴下まであったのはうれしい。


 ですが午後八時前です。眠れるわけもありません。

 で、予定通りシュレにクレームの電話を入れました。


『何がって、いいじゃろ。チートほしいと言ったのはお主ではないか! ニャン』


 今日もブレんヤツだ。基本『のじゃ』キャラだが、あざといまでに語尾を変えてくる。

 いや、感心している場合ではない。


「チートじゃねえよ! 嫌がらせだよ! 何でレベルが42もあって、HPとかが42なんだよ! 意味わかんねえよ!」


 王様との会談中や観光案内してくれたメイド長さんに聞いた話だが、この世界のステータスバランスについてわかったことがある。

 この国の成人年齢15歳前後のステータス平均は10くらい。それでレベル1だそうだ。その後レベルが1上がるごとにステータスは10くらい上がるらしい。ああ、逆か。たぶんステータスの平均値が10あがるとレベルが1上がるんだろう。赤ちゃんはレベル0? もちろん体力特化とか、魔力特化とか、才能によって変動するのだが、一般の所謂村人は概ねそうらしい。それで、冒険者でもない一般人は死ぬまでにレベル10になったら凄いレベルといわれるそうだ。レベル99でカンストの世界かな?


 つまり、私の場合、レベルを基準にするとステータス平均が420あるのが普通で、ステータス基準で言うとレベル4が適正なのだ。

 もう、どっちなの! って声を大にして言いたい。実際怒鳴ってるけど。


『もう、もう! なにさ! 折角人が親切でレベル上げてやったのに!』


「親切じゃねえよ! こっちは微妙な顔されて困ってんだよ!」


 逆切れされた。もう『のじゃ』キャラの欠片も無い。やっぱただのガキじゃないのか?


『うぅ~! ママーっ! タケシが意地悪するなのーっ!』


「あーっ! どっちが意地悪だ! すみませ~ん! アカシックさん、これは教育的指導の一環ですから~!」


 とんでもねえ! アカシックさんに泣きつくとは! PTA恐ろしや。


『えーっ! ママまであいつの味方するの! ……うえっ? ち、違うっちゃ。そ、そんなことナイもん……』


 お、声は聞こえないが、アカシックさんは私の味方のようだ。うん。勝訴確定。

 だが、『~ちゃ』はやめろ、『~ちゃ』は。古傷が疼くから。


「お~い。聞こえるか~? 反省したら許してやるから戻ってこ~い」


『だ、誰がアンタのためになんか反省してあげるんだからね!』


 とうとう文法までバグが出たみたいだ。結局反省するのかしないのかわからん。

 だが、私は良い大人。良い先生。


「わかった。反省したならそれでいい。で? 結局お前は何がしたかったんだ?」


『む、むぐ』


「むぐ、じゃねえよ。あのワケのわからんステータスは本気でチートだと思ってたってことで良いんだな?」


『そ、そうよ、だわさ。感謝してよね』


「わかった。感謝してやる。だからフツーのチートに替えてくれ」


『わ、わかってるのじゃ。ほれ』


 ふーっ。一時はどうなることかと思った。

 どれ? ステータスは、と。

 あ、この世界では鑑定道具を使わなくても自分のステータスは心の中で見れるらしい。便利設定だ。『ステータス・オープン』とか中二病的セリフを言わなくて済んだぜ。


 ・・・・・・


 名前:タケシ・ハンムラ

 人種:ヒューマン

 職業:教師(元勇者候補)

 年齢:42

 性別:男

 血液型:A


 レベル1

 HP:42 MP:42

 力:42

 素早さ:42

 器用さ:42

 知力:42


 スキル

 異世界言語 アイテム・ボックス 高速思考 毒


 ユニーク・スキル

 *** **** ご都合主義


 称号

 二度落ちた者 管理神の**


 ・・・・・・


「……おい。何だこれは? レベルが1になっただけじゃないか?」


『そうじゃが? お主、42は嫌だと言っておったじゃろ?』


「限界まで下がってどうする? チートは?」


『チート、チートうるさいわ! 勝手に魔法でも何でも覚えるがよいなの! そなたの身体はそうできているんじゃけんのう』


 シュレのいい加減な語尾はともかく、発言の内容を確かめてみる。

 いっそアカシックさんに聞いてしまえ。


 あ、本当ですか。


「それは助かるが、なら、どうしてステータスに反映されない? 経験値倍増とか、魔法全属性とか」


『ふん、ゲーム脳め。そんなこと決まっておる。ワシが面倒じゃからだワイ』


 カッチーン! 誰がゲーム脳だ! 偉そうにして結局ぶっちゃけやがった。

 だが、我慢だ、私。

 レベル42からレベル1に激減してもまったく実感が無かったということは、このステータス欄自体がフェイク。

 アカシックさんだけでなくシュレにとっても匙加減一つで書き換えられる。


 では、本当のチートは、あの読めないユニークスキルと中途半端な称号に関するものだろう。

 私にも隠すということは、単に経験値倍増とか、魔法全属性などではないはず。


 穏便に聞き出してみるか……


「わかった。納得してやろう。だが、もう一つ聞きたいのだが、この称号は何だ? 『二度落ちた者』ってどんな補正があるんだよ。ただのいやがらせだったら承知しないぞ。あとは管理神の……『加護』とかか? 称号なのに? まさか『使徒』じゃないだろうな。勘弁してくれよ。宗教関係は面倒なんだから」


『に、似たようなモンじゃ。ふっ不都合はありゃせんぞよ。オンシが面倒臭がると思って伏字にしたのじゃ』


「……怪しい態度だが、信じよう。じゃあ、ユニークスキルの二つは何だ? 『ご都合主義』ってスキルも胡散臭いが、お前の存在自体ご都合主義の塊だから仕方ないとしても、他二つは伏字にする必要があるのか?」


『そ、それも、しゅ、宗教関係者に目をつけられないようにするため、なのじゃ』


「……お前も神サマじゃなかったっけか。まあ、いい。アカシックさんが心配するなと言ってくれたから追求はしないでおこう」


『くっ、ママばっかりズルイのじゃあ』


 日頃の行いのせいだよ。


「で? 結局お前は俺に何をさせたいんだ?」


『は? な、何のこと、であるますか』


 何か、バグが原因の語尾と動揺したせいでの語尾の違いがわかる男になりそうだ。


「だから、単なるサービスのチートなら俺の希望通り生産職でいいだろ? 錬金術マックスとか。じゃなくてもわかりやすい強奪スキルでもいいじゃん。俺本人にまで秘密にするようなヤバイスキルつけて、俺に何をさせたいんだ?」


『はうーっ、しょ、しょれは……』


「はいはい。『はうー』はいいから、正直に言ってみなさい。先生、悪いようにはしないから」


『しょ、しょれは~、んと~、わ、わたしの~(友達になってほしいの)……』


「ん? 聞こえないぞ。都合の良い難聴スキル持ちじゃないんだから、俺は流したりしないぞ。もっと大きい声でな」


『だ、だから! わたしの! とっ、 友達になってほしいんじゃよ!』


「やっぱり聞こえん。ってゆうか、そんなに言いたくないわけ? アカシックさんに聞くか……」


『うるさい! うるさーい! ママに聞いたらダメっ! もう絶交!』


「お前がうるさいよ。夜中に大声を出すな。絶交ってガキか。あ、ガキだったな。しょうがない。アカシックさ~ん」


『ダメったらダメっ!』


「あたっ」


 突然顔面に何かぶつかった。

 ついでに、いつの間にか天国回線は切れている。


「何だよ。いきなり……」


 暗い室内を無限バッテリー内臓ガラケーのバックライトで調べる。


 おや、これは……

 私の顔にぶつかったと思しきものを拾ってみると、ハリセンだった。


 これって、シュレが白い空間で持ってたヤツか。流石バグってても神サマ、空間転移で私に投げつけるとは。

 空間魔法の使えない私は、(投げ)返すことができないため、仕方なく預かっておいてもらっといてやろうと決める。

 腐っても神サマの持ち物だ。もしかしたらすんごいチート武器かもしれない。などとは決して考えたりはしていない。


 私は、ベッドに戻ると、もう一度天国回線にアクセスし、アカシックさんにフォローを入れる。

 絶交だの何だの、子供の言うことはどうでも良いが、ラヴィアン・ローズ実現のためには最低アカシックさんとのコネを保持しておかなければならない。保護者への根回しは大切なのだ。


 幸い、アカシックさんは怒っている様子も無く、無論シュレが秘密にしたいことは教えてくれなかったが、末永くお付き合いくださいって言われました。


 はい、喜んで!

 バラ色の人生確定しますた!

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