第7話 王女サマよりもメイド長に会ってみたい年頃なんです。



 

 どうする? 雲突き抜けちゃうよ? 実際ここどこなの? 空島? 上空二万メートル?

 雲? で視界一面真っ白になってパニクった私は思わず目を瞑る。


 股間がヒュンとする感覚がいつまでも来なかったので、恐る恐る目を開けました。


 真っ暗でした。真っ白ではありません。


 何故か直立姿勢でした。召喚魔法の効果? アカシックさんのナイスアシスト?


 足元もしっかりとしているようなので、とりあえず一息つく。あ、腰が抜けた。


 全く、一日に二回も紐無しバンジーは勘弁してほしかった。

 私は座り込んで状況を確認する。


「全く、チートもそうだが、異世界に関して情報がまるでない。何いきなり突き落としてんだ、あの残念ぬこ耳幼女……」


 愚痴りながらケータイを取り出す。

 状況確認するにも、こう暗くては話にならない。


「うわー……石壁……うん、テンプレだな」


 バックライトに照らされたのは、結構広めの石壁の部屋。窓はなし。ドアが一つだけの伽藍堂だった。ちょっと安心。真っ白空間の次は暗黒空間で、邪神登場! なんてことにならなくて。


 足元を照らすと、魔法陣が。

 おそらく、間違いなく、数多くのラノベが採用している召喚部屋だ。


 では、テンプレ通りなら、王女はどこ? せめて宮廷魔導師の魔女っ子プリーズ!

 はい、おりません。私の我が侭? 贅沢は敵、ですか?


 いいえ。アカシックさんの説明どおりなら、ここは日本のオタクどもの夢の世界。いないはずがない。


 だが、現実は厳しいようだ。ヒロインどころか、モブすらいない。ゴーストタウンか。

 召喚者待たずして滅亡?


 いやいや。まだ慌てる時間じゃない。つーか、今何時よ。


「午後七時過ぎか……何時間捕まってたんだか……」


 時間の流れが、異世界・日本・真っ白空間で同一のものなら、かれこれ七時間近くになる。

 そうか。晩飯時か。

 異世界の皆さんも召喚儀式中止して食事に行ったんだな。


 よし。突撃! 異世界の晩ゴハンだ!


 あ、そういえば、ケータイだが、旗立ったとか言ってまだ未回収だったよ。何の旗かな?

 おや。立ってるのは旗じゃなくてアンテナ? ウソッ! マジで? ここ、異世界とか言って、実は地球? 日本のどっかの地下室?


 《おかけになった番号は――》


 適当に電話かけてみたらつながらない。電波来てるのに? 海外だからか?

 あれ? でもネットは見れるぞ。

 あるぅえ~? アドレス帳から番号消えてる! 二つ残して。つーか、その二つがありえねえ!


「アカシックさん! 何してくれちゃってるの! あの人? たち、ケータイ持ってんの?」


 アドレス帳に残ってた名前は、


 1、アカシック・レコード

 2、シュレ


 でした。


 とりあえずかけてみる。フツーにコール音が聞こえる。

 お、出た。


「あーもしもし。アカシックさんですか? 先ほどはどうも。え? 無言通話も可能?」


 ホントだ。どういう仕組みかさっぱりだが、ハンズフリーでアカシックさんとやり取りできる。


 ちょっとご挨拶してから、シュレに代わってもらった。幼女とは心の声通信を封鎖したままにしてもらうのも忘れない。一応試しておかないと。


『にゃ、にゃによ! いきなりどっか行っちゃって! 心配したんだからね!」


 おっと、いきなりの謎の責任転換とテンプレのツンデレ台詞です。ゴチです。では、オトナの対応をせねば。


「すまんすまん。俺も色々聞いておきたかったんだが、まあ、こうやって連絡取れるんなら大丈夫だろ。じゃあ、また連絡するからな」


 短かったが、こちらもすることは山ほどある。さっさと切り上げた。文句を言われたが。


「しかし……充電不要、ネット見放題、しかもアカシック・レコードにアクセス可って、もう最強じゃん! これがチート武器じゃん。聖剣なんて目じゃねえ!」


 ここまで規格外のサービスがあるなら、さらに自爆機能とか転移回収機能とかのセキュリティーもつけてもらおうじゃないか。チョー特殊進化! ガラパゴスだけに? 日本じゃもうすぐサービス終了なんて声もあるけど、異世界で生き残ったよ!

 私、大興奮。これもテンプレ通り? 脳内先生? 私の場合外部だけど。一応自分も先生だけど。


 これからの異世界生活に、一気に虹色の光が差し込んだ気がするよ。

 予定として白い部屋で72時間ほどキャラメイキング完璧にしてから異世界に来るつもりだったけど、これはこれで満足。


 あ、でも、私の外観、オッサンのままだ。

 チッ、十七歳くらいになってさらに細く長く暮らそうと思ってたのに。『ガキに冒険者ができるか!』っていうテンプレも経験できないか。

 まあ、『オッサンが冒険者って、冗談はよせ』とか絡んでくるヤツが必ずいるだろうな。

 どちらにせよテンプレなんだし。

 よし。ポジティブにいこう!


 ということで、探索を再開。

 朝まで待ってれば誰か来るかもだけど、これから十二時間暗闇の中ってのも発狂しそう。脱出せねば。


 あ、開いた。

 厳重に封印されているように見える扉も、見た目だけで鍵はかかってません。簡単に開きました。


 外はやはり石壁でしたが、地下通路のようです。中ほど暗くはありません。どこからか光が入ってきてます。

 私は明かりがある方を目指して足を進めます。


 石段発見。

 登ります。


 またドアが見えます。隙間から光が差し込んでます。

 開けます。

 一応、外の人の気配を探りました。スキルはありませんが、無人のようです。


 外に出ました。

 やはり通路です。回廊っていうのかな? テラス? 中庭みたいなところに面しています。おかげで月明かり? 星明り? があるため、地下の召喚部屋より余程見やすいです。


 さて、どうするか。

 ざっと見たところ、宮殿か神殿か。テンプレ通り中世ヨーロッパ風だと思います。

 歩いていれば、誰かに会うでしょう。

 時間的に王女サマは無理そうだ。警護の女騎士だったら捕まってもいいなあ。


 とか考えていたら、移動する光源発見。


 お、第一村人か!


 光はゆらゆらしてるから蝋燭かなんかだと思う。光の魔石とかないんかね?


 ここは堂々と。あ、私ジャージ姿だ。異様だ。えーい、今更後には退けん!


 ついに第一村人? の全貌が明らかに。

 おおーっ! メイドだ! ビクトリアンだかヨーロピアンだか知らんが、日本人のイメージするメイドさんだよ!

 この場合、衣服文化の発展過程が不自然とか考える必要はない。

 何故なら、アカシックさんのお墨付きがあるのだから。

 ここはオタクの妄想の世界。つまり仕様だ。


「失礼、お嬢さん」


「うひゃ!」


 意を決して声をかけると、メイドさんは残念幼女みたいな反応をした。なにこれ、これも仕様?

 言葉が通じているのは間違いなく異世界召喚仕様なのだろう。心配したこともない。


「ああ、驚かせてすまない。確かに怪しい者に見えるだろうが、怪しい者じゃない」


 身を竦ませ不審げな目で見つめてくるメイドさんに、精一杯大物ぶって言い訳を試みる。叫ばれないだけマシというもの。

 しかしこのしゃべり方、もう失敗した感がヒドイ。何? お嬢さんって……orz。いや、この場はしょうがない! ロープレを続けるんだタケシ!


「ここの城? の偉い人から招待された者だがね、見ての通り道に迷っているんだ」


 ここがどこで、誰が私を召喚したのかわからないので明言は避ける。うん。オトナのやり方。


「え、偉い人って、どなた様ですか?」


 ハイ、通じませんでした。

 だが、答えるわけにはいかない。


「はっはっは。ほら、見ての通り外国からの客デース。正式な呼び方はワカリマセーン。陛下? 殿下? 閣下?」


 ベタな外国人の振りをして誤魔化してみる。いや、実際外国人なんだろうけどね。

 だが、効果はあったようだ。

 メイドさんの緊張のベクトルが変わった。


「そ、そうでしたか。国王陛下のお客様でしたか。大変失礼いたしました!」


「いやいや。こちらこそ勝手に出歩いてしまって申し訳ない。できれば案内を頼みたいのだが……」


「は、はいっ。お任せください!」


 よっし! メイドのガイド、ゲット!


「あ、で、でも……お部屋はどちらに……」


 そんなものあるわけがない。


「ふむ……それじゃあ、こうしよう。キミの上司のところに案内してくれるかね? 彼女・・ならきっと知っているはずだ」


「はい。わかりました。メイド長のお部屋にご案内します。こちらです」


 メイドさんは私を先導するように歩き出した。


 よっしゃあっ! さりげなく誘導成功! メイド長だって! そこは侍女長じゃないのか、とも思ったが、大したことではない。上司だからって、ムサいオッサンの警備隊長とかだったらいやだもん。


 私は上機嫌で、メイドさんの後姿を堪能しながら歩き出すのだった。

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