第6話 プロローグ6 もうエピローグでいいんじゃない?



 

 現在ワタシ、orz中。しばらくお待ちください。




 私の凹む姿を見た幼女は鬼の首を取ったかのように上機嫌で一連の真相を説明し始める。


 アカシックさんの補足も加えた話によると、件の女子学生は演劇部所属で劇の稽古中だったそうだ。おい! 稽古って危険すぎるだろ! 何の稽古だ? 山○塾か?

 そういえば、私に屋上行きを押し付けたのは演劇部の顧問だったような……今考えるとニヤニヤしてたような……稽古だって知ってたんだ。そりゃそうか。そんな危ない稽古、顧問の許可なくする訳ない。

 それに、追加で転落の十数分前の画像も見せてもらった。


 演劇部の部員がたくさんいたよ! 顧問の先生だってちゃんといたよ! 


 そして、昼休みの時間が終わりに近づくにつれだんだんと人数が減っていき、あの生徒がもうちょっと残ると主張したため、あの状況が作られたようだ。


 100%安全だとはいえないが、何度も行われていただろう稽古の場面で奇跡的な偶然が作り出した密室? もし、私が屋上に着いたとき、他にもう一人でも部員が残っていたら笑い話で済んだということか……


「いやいや。落ち着いて観察すれば自殺じゃないとわかるであろうに」


 む。幼女め。どこまで私を凹ますつもりなのか。


 だが、これで心配事が減ったのも確かだ。後はしれっと学校に戻るだけでいいだろう。


「何を言っておる。問題だらけじゃ」


「どこが?」


「先ほど言ったように、時間は戻したくない。お主を安全に落としてやるのも騒ぎの元じゃろうし、それをすると無辜の娘に迷惑がかかるのではないかニャン?」


「あ……」


 そうだよな。死にたくはないといっても、屋上から転落して無傷というのも目立つのことこの上ないし、生徒を助けようとして転落したっていう事実は変わらないからな。あの生徒も気にするだろうし、顧問の責任問題ってのがまた厄介だよな。顧問の先生の行為だってほんのちょっとした悪戯心だろうし、仕返しにしては極悪すぎる。


 私の行為も間違いなく非難対象だ。


「というわけでお主はこのまま失踪した方が八方丸く治まると思うぞ。あの小娘も一瞬のことでそなたのことは覚えていない。お主を戻すより、小娘の記憶を書き換える方が簡単だったから風が吹いたくらいに思ってるわよ」


「うーん……」


 あれ? あの女子生徒が私のことに気づいてないとしたら、いくらか時間は経過してるだろうが、シレっと学校に戻ってしまえばいいのでは? 短時間の行方不明は笑って誤魔化せば……


「ちっ、気づいたか、ピヨ。じゃが、わらわが帰さん。決定事項、なの」


「おい!」


 なんてことだ。泣く子と地頭には勝てないと中学の日本史の教科書に書いてあるが、まさかこの幼女、地頭なのか!


「訳のわからん現実逃避はやめるポヨ」


 キサマこそ訳のわからん語尾はやめろ!


「うるさい! しつこいってば!」


 全く、優雅な恩給暮らし目指して細く長く生きようとしていた私の人生設計が破綻したのだぞ。いちいち心の声に突っ込まれていたら脱線してばかりで計画を練り直すゆとりがないじゃないか。よし、ここはひとつ……


「すみません、アカシックさん。娘さんのツッコミが私の思考の妨げになりますので、心の声はアカシックさんにだけ聞こえるようにできますでしょうか?」


「なっ! 何勝手なこと言ってゆのよ!」


「あ、大丈夫ですか。お手数をかけてすみません」


「ママ? は、母上、何故でござる?」


「もう、ママでいいんじゃないか? 歳もうちの生徒と似たようなものだし、語尾を除けばその方が似合ってるよ。可愛いしな」


「にゃ、にゃにを、言っとう!」


 もう面倒臭いから『ママ』発言はスルーに決めた。だいたい、私の年代では少数派の呼び方だったので最初はイラッときたが、歳がわかってみれば違和感はない。

 それで、考え事の邪魔をされるのも御免なので、褒めて気を逸らすスキルを使う。あらまあ、真っ赤になって。チョロい。


「さて、もう選択肢は異世界に行くしかなさそうなところまで追い詰められてる訳だが、まあ、転落死しなくて済んだだけ、お前には感謝してるよ。ありがとな」


「ふ、ふん! わっ、我の力見くびるでない、であります」


 あれ? そういや、私を召喚したのは異世界の人だったような……まあ、いいや。また蒸し返しても話が進まんし、煽てて気持ちよくチートでももらおうじゃないか。


 ということで、私は幼女と目線を合わせるように前屈みになる。歳は中高生並みらしいが、体格はホント幼女なんだよな。くそ、腰がいてえ。


「あう、あう……」


「おや、それもバグかな? ところで、異世界に突然飛ばされてしまったけど、どう見ても主人公属性のない哀れなオジサンに、偉大で可愛い管理神サマはどんなチートを授けてくれるのかな?」


 あ、幼女の目がいきなりジト目に変わったよ?

 煽ててたのがバレた? あれ? アカシックさんに幼女には心の声を聞かせないように頼んだのに。


 え? 聞こえてないが、顔に書いてある? 丸わかり? 


「ととと特に変なこと考えてナイヨ。ここに来た人たちだってチートもらったんじゃないの?」


「ここには発狂寸前まで閉じ込めただけヨ。特に降臨はしとらん」


 アレ? マズイ展開。


「で、でも、日本人に直で会ったようなこと、言ってたよな?」


「ああ、何人かはネ。集団転移とか、巻き込まれた連中の場合ダゾ? お主と違って戻した方が騒ぎになりにくい場合は記憶を消して戻しとる。その時にな」


「じゃ、じゃあ異世界行きのヤツらは?」


「クククク、我が日本人のオタクどもに便宜を図ると思うてか! 身包み剥いで送りつけてやったワイ!」


 ガーン! 何という嫌がらせ! 私、ピーンチ!


「ママ、何? ……どういうこと? なの!」


 おや? 私が再度絶望している時にどうやら母娘回線でお話中のようだ。


 そういえば、アカシックさんて意思のない宇宙の意思なんだよね。矛盾してるけど、会話はできるんだよな。性別もないはずだし何故パパではなくママなのか。確かに、ファザコンキャラよりは需要がありそうだからそういう仕様なんだろうけど、アカシックさんと話してて、何だか包容感とか安心感だとか、そんなオトナのオンナ、なイメージがあるんだよな。よし、決めた! アカシックさんの擬人化は是非そんな感じで。


「ま、ママ! どうしたの!」


 わ、空間が振動したよ! 魔人ブ○でも入って来たのかな?


「え? え、えーっ! うそ、でも、だって……」


 謎の振動について説明はなし。アカシックさんも大丈夫の一点張り。宇宙の意思のお墨付きなら安心か。

 それより、私の人生の問題が……

 おや、幼女が顔を赤らめて私を見つめている。


 何かアカシックさんに性教育でも受けたのだろうか。中学生が男女分かれて受けているようなヤツかな?


「そ、そなた反村タケシよ」


 急にフルネーム呼ばれちゃったよ。


「はいはい。何かな? 管理神サマ」


「ママがチートあげてもいいってサ」


 おおーっ! ツンデレ、キターっ! ……じゃないな。アカシックさんの御慈悲だ。だが、マジにうれしい! ありがとう!


「ありがとうな。先生は信じてたよ! で? どんなのくれるんだ? 先生は戦える生産系がいいと思うんだが……」


「ひ、秘密!」


「秘密って……それは仕様なのか? ただの嫌がらせなのか?」


「そ、そのうちわかるから! どうせママが教えちゃうから!」


 まあ、アカシックさん推薦なら絶対安心だな。それに、顔を真っ赤にした幼女に詰め寄る構図は絶対にイクない。


「そっか。でもまあ、ありがとな。日本人嫌いなのに」


「そ、そそんなことない。これからはやさしくする」


 え? 何? 急に良い子になっちゃった? アカシックさんの教育? スゲー。マジリスペクト。


「そっか。でも、バグがあるんだから、無理しない範囲でな」


「うん! わかった!」


「ははは。のじゃキャラじゃない方が歳相応で可愛いな。原因の一人である俺も悪かったと素直に思うよ」


「ふみゅー」


「ははは。またバグか? 早く解決するといいな」


「だから(あなたに手伝ってもらう)んだから……」


「うん? ところで、お前、何て名前だ? 今更だが……」


「ワタシ管理神! だから……名前は……」


 自慢げな表情になったかと思うと次第に顔を曇らせた。

 わかった。皆まで言うな。


「なら、先生が呼び名を考えてやろう。心配するな。名前を付けたら従属するなんてパターンも織り込み済みだ。ちゃんとアカシックさんに相談する」


「ほ、ホント?」


「ああ、実は候補がある。『シュレ』ってどうだ?」


「……ママもいいって。どういう意味? なの?」


「『シュレディンガーの猫』は、全知全能なら本人よりよく知ってるだろ? 俺は文系だからさっぱりだが、なんとなくな。語尾もだけど、髪の色もたまに変化するだろ? 『猫の瞳』っていうイメージだからな」


「うん……そうみたい……」


 そうなのだ。語尾ほど頻度は高くないし、混乱と絶望の渦中だったから今までスルーしてきたが、髪型や髪の色、髪質まで3,4パターンくらい変化する。あくまでも幼女キャラにお似合いのバージョンで、アフロとか奇抜なのはないらしい。縦ドリルも違うんだろう。あざとさマックスだ。


 何より私は『ぬこ派』! 実は、『タマ』とか『ミケ』が真っ先に頭に浮かんだのだが、口にしたらブチ切れられること間違い無しだ。よって猫繋がりでオサレそうなのをチョイスしたつもり。


「あ、猫耳……」


「え? 何これ! アンタ、何したのよ!」


 いきなり幼女が猫耳幼女にクラスアップした! すごいぞ異世界! すごいぞオタクの妄想によるバグ! このバグは是非生き残ってほしい。


「いや? 何も。バグのせいだろ? はっはっは。何だ、似合うじゃないかシュレ。よーしよーし」


 私は思わず幼女の頭、ぬこ耳を撫でてしまった。

 それがあんなことになるとは……


「くうーっ……さ、触るなーっ!」


 あーれー……


 顔をこれ以上ないほど真っ赤にした猫耳幼女に、オッサンは突き飛ばされた。

 そして、何故か今まで頑丈だった地面の雲を突き抜けて……

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