第3話 プロローグ3 オッサンの自己PRにツッコミを入れざるを得なかった管理神(笑)



 

 じゃあ、ここで自己紹介します。


 何でって、そりゃ暇だから? あと、これが夢じゃなかったら確実に神様が聞いてるし。一石二鳥。時間は有効に使わなきゃ。


 ワタクシ、生まれも育ちも……って、ネタはもういい!


 気を取り直して……

 都内で公立中学の社会科教諭をしております、反村武士、はんむらたけしです。村が町に、タケシの『け』が『か』になると、あら不思議。某有名俳優に……って、いつも微妙だって言われます。


 ビミョーって便利な言葉ですよね。つまらないって言われるよりダメージ少ないし。

 それに、きっとほとんどの人が名前に関して嫌な思い出があるはず。うん、ボクだけじゃない。仲間がいる。


 ハンムラビ法典とかはストレート。武士だからサムライって、もっと捻れよ。事実捻られました。『落ち武者』だとか現役学生なのに『浪人』とか。


 うん。虚しくなるから、名前ネタはもういいや。


 えーと。うちの学校は可もなく不可もなく? それはマズイか。

 えーと、お受験が集中する難関有名校でもなく、盗んだバイクで走り出したり夜の校舎窓ガラス割ったりするような底辺校でもありません。ほんと極フツーの公立中学です。


 おかげで生徒は良い子ばっかり。無気力でやる気がないお子様ばかりで手がかかりません。ほぼ100%塾通いだから授業もスムーズに進みます。わかんないところがあっても塾で聞くからいいんだって。


 え? 問題あり?

 それは主観の違いです。時代が違うんです。


 こちとら、日々陰になり日陰になりで生徒を教え導いているんです。


 え? 陰ばかり?


 そりゃそうでしょう。今時はアツいのは例外除いて嫌われます。クールビズです。スーツにネクタイなんて着ません。社会科教諭なのにジャージです。目立つと狙われちゃいます。金○先生とかテニスの人とか真似しちゃ駄目! 人真似じゃなくてオリジナル。そう! これは私のオリジナル!


 というわけで、定年退職まで細く長く勤める予定です。

 ……でした。

 もう! もらえるかどうか定かじゃない国民年金とスズメの涙の公務員の恩給が頼りだったんだから!


 唐突に終わったよ、人生設計。



 そうねえ、そのことに触れないとこれからの転生人生? 始められないよねえ。


 そう、今を遡ること三時間と三十分くらい前のこと。

 今ケータイ見たら午後四時だったし、昼休み終盤のことだったからそれくらい……何なの? 放置プ○イ?


 おや? 時計が進んでる? 時間静止の謎空間じゃなかったみたい。これフラグ?


 旗は後で回収するとして、昼休みのことだ。

 一生徒の通報で私は屋上に急いだ。ほかの教員に押し付けられたともいう。


 誰か飛び降りそう? 自殺?

 いやいや。勘弁してください。


 イジメが原因なの? 不祥事? 責任問題?


 ○八先生はいないんだよ? 私にどうしろってのよ。


 心の中で生徒を説得するためのセリフを推敲しながら私は屋上へと急いだ。うん、教育者の鑑だ。


 生徒を刺激しないようにそっと屋上に出る。

 通報どおり女子生徒が屋上のフェンスを越えて下を見ている。


 きっと躊躇っているんだ。そうに違いない。それなら説得が通じるかも。

 そう考えてた時期が私にもありました。


 フツー110番だろ! 119番だろ!

 ハイ。その通りでございます。


 一応申し開きすると、私のバラ色の人生に陰が差した気がしたので早いとこ解決したかったんでございますのよ。ラヴィアン・ローズですのよ。


 そんな心理状態で私はメンテナンス用の通路からフェンスの外に出た。フェンス越しとかフェンスに登ったりしちゃ危ないだろ?


 女子生徒はまだ私に気付いていない。

 さらに接近してみる。


 ここで、『わっ!』といったら大変なことになるなあ。などとは欠片も考えず、偏に生徒の安全だけを考えてこっそりと近づいた。


 あれ? こんなんじゃ何て声かけても同じじゃん。とは考えず、さらに近づく私。


 生徒の声が聞こえてきた。

 小声だが確かに聞こえる。


 え? なに? 私は小鳥? 自由になりたい?


 やべっ! 本気じゃねえか!


 ちょっと待った! あ、やべっ! つい声が出た。

 案の定、その女子生徒はビクンッってなった。


 ああ。これは私の責任だ。

 私も思わずダッシュした。


 反動。

 この物理法則を利用しようと思ったわけじゃない。

 結果的にそうなっただけだ。


 私は彼女の代わりに鳥になった。ただそれだけのこと。

 彼女は間違いなくフェンス側に移動したはずだ。


 何で『はず』なのかって?

 そりゃ、あなた。私の視界は地面しか見えなかったからさ。


 それも一瞬の記憶だけ。

 後はこの真っ白な風景ということ。


 後悔なんてしてないさ。

 こんなオッサンの命と若い女の子の命を交換できたんなら安いもんさ。


 具体的に計算すると、40歳くらいマイナス15歳ぐらい? で25歳儲かった。

 これからの人生を考えると、女性の平均年齢からして彼女は残り65年。男性の場合、つまり私は残り30年位か。差し引きなんと35年! いや~大儲けだな。


 ということで私って善行積んだよね。

 極楽行きは確実ですよね!


「アホかーいっ!」


「痛い!」


 おや。突然後頭部を引っ叩かれた。なにか、久方ぶりに肉声を聞いた気もするが。

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