第11話

それから数日の後、天真楼にて、杉田玄白は新たに届いた首の無い人間の死体を前にうなっていた。


昨日、玄白の元を神田甲斎が訪れ、医術の教えを受けた礼に近々死体を献上すると言う。


しかし罪になるようなものでは無いかと不安になった玄白が詳しいことを問いただすと、自分が介錯した旧友の死体であり、死体を玄白のもとに差し出すことを条件に介錯を引き受けたのだと言って、甲斎は去って行った。


やがて大きく息をつくと玄白は顔を上げて十人余りの門下生たちに向かい、


「よく見ておくがいい」


と切断された首の断面を指し示した。


「見事な切り口だ。四番頚椎と五番頚椎の間を一刀両断、途中でどこかに引っ掛かったような傷跡も無い、まるで元々このような形に作られていたかのような美しさだ。これならばこの者は切られたことにも気付かぬまま瞬時に絶命したことであろう。ほんのあと五分ごぶもずれていれば、刀は固い頚椎に当たってはじかれ、刃はこぼれ、この者も全身を激痛が襲い安らかになど死ねなかったであろうな」


言いながら横目に映った死体の腹には、わずかながらに刃物で斬り付けたような新しい傷が見受けられた。



























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介錯仕候 -かいしゃくつかまつりそうろう- 遠矢九十九(トオヤツクモ) @108-99

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