第20話 魔法少女たちは永遠に


それから4か月ほど経った後のことだ。

愛田一郎は、コンビニのレジに入り、客の買う商品をバーコードスキャンしていた。


「764円です。千円いだたきました。おつりは236円になります。」

そう言いながらおつりとレシートを渡す。


なぜか、何となく不満そうな顔をした客はそのまま自動ドアを出ていく。

「御買いあげありがとうございました。またお越しください。

一郎は声をかける。


客足がとぎれた。ちょっと一段落か、と思ったら、耳に着けているインカムが鳴る。」


「いっちー、レジなんかやってないでこっち手伝ってよ。二号店、お客が多くて品出しがまわらないのよ。」聞きなれた声だ。


「大丈夫だよ。あと10分で助っ人が二人そっちに行くから、それまでの辛抱だよ。

一郎は余裕で答える。


「「…わかったわ。もう少し頑張る。その代わり、発注はいっちーが全部やってよ。」


「それも折り込み済みだよ。大丈夫だよ。」


インカムを切ると、一郎は大きくため息をついた。


「ふう。この3か月以上、怒涛のよな毎日だったなあ。でも、まだ始まったばかりだな。」

そう独り言を言うと、一郎はちょっと回想モードに入った。





店長から、店を閉じるかも、と言われたとき、一郎は考えた。どうやったら、自分の雇用を守り、そして魔法少女たちを救えるんだろう。


職場を探す? うーん。そう簡単に見つかるとは限らない。ブラック企業の社員は嫌だし、それ以外はコンビニの店員くらいしかできないし…。そう簡単に自分を雇ってくれるコンビニがあるかどうか…。


ふと、突拍子もない考えが頭に浮かんだ。


「無いなら、作ればいいんだ!」


まるでラノベの生産職のような発想である。

そんなのは無理だって?いや、ヘレニアが居ればそうでもないかもしれない。

一郎はヘレニアに聞いてみた。


「ヘレニア、お前の組織の力で、アレ、売れるか?」


ヘレニアは笑って答えた。「簡単よ。」


「あと、権利関係に詳しい弁護士とかいるか?」

「あたり前でしょ。私たちはキャラクタービジネスの中にいるんだから。」



「システムを作れる人材はそろってるか?」


「前にも言ったでしょ。エンジニアはたくさんいるし、旅行予約システム、コンビニのPOSからバックヤード、発注から配送まで全部私たちだけで作れるわよ。」


それは心強い。



「それだけ聞けば十分だ。ありがとうヘレニア。


一郎はそう言うと、一晩考える。なんとななりそうだ。


それからの一郎の行動は素早かった。



まずは、身を売る寸前の魔法少女たちの救済だ。

まだ閉じていない店長のコンビニで、「いま、クリピュア3期と4期が熱い!」というフェアをやった。それに人が集まり、目立たなかった女の子たちの認知度が急上昇した。


「いっちー、ありがとね。あの子たちも当分大丈夫ね。」金髪の魔法少女、ヒーラーGこと美似が言う


「そうだな。プロモーション費用があれば、なんとでもなるからな。」一郎が答える。


貧乏な一郎がどうやったのか?それは、ヒーラーブームのくれた、幻のゴールドクリスタルをヘレニアに売ってもらったのだ。

ヘレニアに新しく作ってもらった会社に、いきなり20億円が振り込まれることになった。


「一週間あれば、手数料こみで、時価の二割引きくらいで換金してあげるわ。」

そういったヘレニアの言葉にウソはなかった。


「お金ちゃんと入れたよ。これは新しい会社のお金。出所は何重にも隠してあるから大丈夫。ケイマンのチャリタブルトラストからBVIのLPを作って、そこからもう一回LPをかませてSPCを作り、その日本の支店がまたLLPを持って、その下にGKTKをかませてあるから。これならAMLもFATCAも大丈夫。」


まったく意味がわからないが、とにかく大丈夫らしい。

そして、その新会社が何をやるか、というと、新しいコンビニの設立だ。


「コンビニMSJ」ちなみにMSJとは魔法少女のことだ。

システムは悪の組織の優秀なスタッフが3か月で作りあげた。 


「よくこの短時間で作れたなあ。」一郎は感心する。

「あら、当たり前よ。もともと優秀なうえに、自分たちのための仕事だもの。頑張るに決まってるわ。」ヘレニアが笑う。悪の組織の幹部として、大きな胸がよく目立つ。網タイツがなまめかしいんだが、時々目の毒だ。


「自分たちのため?働くのは魔法少女だよ。」一郎は不思議に思って聞く。


「愛田さん、そんなのちょっと考えればわかるでしょ。店員は魔法少女にやってもらうとしても、仕入れや配送とかシステムとか、警備とか夜勤とか、バイヤーとかマーケッターとか、いくれで人は必要よ。そんなの、おつむの軽い魔法少女たちにできるわけ無いでしょうが。」


ヘレニアに言われてみればその通りだ。あの脳筋のヒーラーグリーンに仕入れなんかやらせたら、アップルパイとハンバーグばかり何十日分も仕入れそうだ。


「問屋の口座開設と発注フローの確認のような営業から頭脳労働、配送の力仕事や清掃なんかの汚れ仕事だってある。きらきらした魔法少女だけでなくて、悪の組織も総動員するのよ。」


なるほど。これこそ、魔法少女と悪の組織の共同作業だな。



新しい会社の社長は、前のコンビニのオーナーに頼んだ。陰のオーナーが誰かわからないように、外部のヘッドハンターを使っている。まあこれも組織のメンバーなんだが。


新会社はオーナーが売ろうかと思っていた閉店するコンビニの店舗、家、アパートをすべて買い取った。家は社宅としてオーナーに提供したので、オーナーは引っ越す必要もなく、月3万円でこの家に住める。

不動産をオーナーから買い取った値段は4億円だ。まあ、悠々自適でもいいんだろうけど、社長をやってくれ、といったら喜んでOKしてくれた。これで関係者は陰で動けばよい。


俺も、新会社に雇われたという形で参加している。営業部長というタイトルだ。

会社の副社長は魔法少女連盟の副会長、ヒーラーGと悪の組織連合の副会長、ヘレニアだ。


二人はそれぞれ魔法少女、悪の組織を束ねている。まあ、表立っては、営業・接客をヒーラーGが、仕入れ、オペレーションをヘレニアが担当している。ちなみに、CFOと呼ばれる財務責任者もヘレニアだ。お金のことはプロに任せるのが一番だしね。新会社にはまだ10億円くらい現金が残っている。これもうまく使ってくれるだろう。まあ、お金がなくなったら、魔法少女たちの残した宝石とかもあるし、大丈夫だろうと一郎は考えている。ただ、まさかのパンツ引換券だけは使わないつもりのようだ。これを使ったら負けのような気がするからだという。


人事部長はまさか★まじかのナミがやっている。堅実な彼女にぴったりだ。配送とか倉庫のほうの担当は悪の組織の幹部、プリンスアマンドだ。イケメンだが、おっさんたちを束ねてよく働いている。


そして愛田一郎は営業部長として現場を仕切っている。ちなみに、有馬マリアちゃんは本部の店舗指導マネージャーとして、当初オープンする2つの店を回りながら改善活動をしている。うん。やっぱり一郎にはマリアが必要だった。マリアはなぜか微妙な顔をしていたが。


アパートはそのまま魔法少女たちの社宅になった。二階建てで8部屋くらいあるので、一郎の部屋以外に、魔法少女たちがたくさん住める。実は、同じシリーズの魔法少女たちはだいたい同じ部屋で寝ている。一人暮らしよりみんなで居るほうがいいらしい。二段ベッドをいくつか入れているが、布団や寝袋で寝ることも多いいらしい。


少女たちは小さめな子が多いので、ベッドは二人で、あるいは三人で寝ているようだ。

彼女たちは「どこで寝る」よりも「誰と寝る」というほうが重要らしく、人気のある子は毎晩ローテーションしているという、なんとも百合百合しいドラマが展開されているらしい。


魔法少女コンビニはすぐに軌道に乗り、1か月後にはあと2店舗開くことになった。3店舗めは特設ステージ付きだ。魔法少女たちが週に一回はショーをやる。


それによって認知度も高まるし、少女たちのモチベーションにもなる。


ちなみに人件費は実質かからないのでコンビニは儲かるのだ。少女たちは、実はあまり食べなくても暮らしていけるのだ。もちろん、食べることができないわけではないが、彼女たちの活動エネルギーのメインは人々の記憶と熱狂なのだ。



まあ、スイーツは大好きだし、魚を好む猫のアルケゴスなんかもいるのだが。



回想を中断し、一郎はバックヤードに入った。入荷した魔法少女ドリンクを棚に補充し、魔法少女スナックの段ボール箱を開ける。



それは新商品だから、まだその魔法少女たちはこのコンビニには居ない。


だが、確実に一年後にはここに来て、接客していることだろう。



ヒーラーGこと美似が店にやってきた。相変わらずさらさらのゴールドの髪が美しい。風邪もないのにゆらゆらとなまめかしく揺れている。


「いっちー、元気?向こうは一段落したっわよ。」美似が一郎に声をかける。


「おお、絶好調だよ。売上も順調だしね。」一郎は答える。


「いっちー、マリアちゃんとはどうなのよ?」美似が聞いてくるが、一郎には意味がわからない。


「どうなのって、どういうこと?マリアちゃんはしっかり働いてくれてるよ。」一郎は意味がわからなずに答える。


美似は(だめだ、こいつ。)というような顔をして手を額にあてて首を横に振る。

一郎にはさっぱり意味がわからない。



「たまにはマリアちゃんを誘って、お出かけしなさい!」美似が怒ったように言う。


一郎は意味がわからないままに「わかった。マリアちゃんを誘うよ。」と答えた。


その直後にマリアが店に入ってくる。「愛田さん、こんにちは。」


美似が一郎の横腹をつつく。

誘え、ということなんだろう。一郎は判断し、マリアに声をかけた。



「マリアちゃん、あさって休みだったよね。ちょっと出かけないか?」

一郎にしては気の利いた言葉だ。


マリアの顔がぱあっと明るくなる。

「え、あいてます。是非!どこ行こうかしら?」


一郎は答える。

「社宅のみんなに、座布団とゴミ箱とビニール袋が必要なんだよね。結構量がいるから、隣町のホームセンターがいいかな。中でホットドッグも売っているから腹ごしらえもできるしね。」


マリアはあからさまにがっかりしている。美似も頭をかかえている。 一郎とマリアの間柄は、まだまだ進展しそうにない。



このコンビニは当面朝の6時から夜10時までの営業とする。 あまり遅くなっても、治安が悪くなるだけだから。


マリアは近所のもっと大きなアパートを借りた。実は一部屋は一郎のためにあけてある。だが、一郎が気づくには、まだ当分かかりそうだ。



「いらっしゃいませ~コンビニMSJにようこそ!」女の子たちが唱和する。今日はクリピュアの四期メンバーが集まっている。


中には、身売りするはずだった子もいる。彼女を救ったのは、確かに一郎だ。

彼女たちは、イキイキと接客しながら、自分の名前もアピールしている。


「いらっしゃいませ~3番レジ担当は、クリピュア4期のピュアカシスで~す!」声がひびく。こうやっていれば、きっと彼女の名前も皆の記憶に残っていくだろう。




魔法少女コンビニはまだ始まったばかりだ。これからいくつも試練があるだろう。

それらを乗り切って行って初めて、一郎が魔法少女たちを救った、と言えるようになるのだ。


一郎はその日を目指して今日もコンビニでレジを打つ。


コンビニの自動ドアの前で、猫のアルケゴスが日向ぼっこをしながらあくびをした。




FIN



ーー

完結しました。個人的な事情で時間が開いてしまってすみませんでした。

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猫を助けたら俺の部屋が魔法少女のたまり場になってしまった件 愛田 猛 @takaida1

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