ちわーイセカイーツでーす

他山小石

第1話

 美しい剣士が二人、対峙する。

 軽装の騎士はふわりと流れる淡褐色の髪、優し気な眼差しに似合わぬ、潜んだ気迫。


「そろそろ落ちてもらいますよ」

 高めた緑色の闘気を全身に散らす武闘術を発動する。

「護剣天衣(ヘブンクロス」

 剣は無限の軌道を持ち、すべてをなかったことにする。攻めも守りも、すべてを衣のような柔軟な剣撃で包む。

 笑みを浮かべつつ、優雅なしぐさで。だが秘めた実力は最強を争える。

 赤い袴が特徴的な金髪の侍は答えた。

「お見せしよう星裂きの剣」

 喜びを隠そうともしない。これまで、苦戦をし全力を出すに至ったのはライバルは……他にいなかったのだ。

 刀が、喜んでいる。

 剣士としては細身ともいえる肢体からは、今、究極の剣閃が放たれようとしていた。

 怒涛ともいえる終わりなき刃の舞。始まってしまえばどちらかが倒れるしかない。

 いつか闘わなければいけない定め。

 無限の守護剣術と究極の閃撃。はたしてどちらが強いのか。


 王国最強の座をかけた戦いが

  -------今!


「そこまで」

 は?

「そーこーまーでー」

「「!!!????」」

 超高速移動で現れたのは背中に荷物を背負った少年だった。

「どーも、イセカイーツです」

 二人の間に割って入ったのは年若い少年だった。前髪が特徴的な笑顔の少年は、二人に問う。

「ちわ、タネーヌ・キ・ソバーヌさんですよね? おとどけです。そっちの方はドンウーノ・キツーネさん? 偶然ですね。ご利用ありがとうございまーす」


 意を殺す。

 どんな達人でも技を打つ前に意識が先にある。技の読みあいとは意の読みあい。

 互いに動けない、という状況は意の読みあいをしているのだ。

 よく創作では「先に動いた方が負ける」というが、これは外から観測した結果にすぎない。正確には「先に意識を誘導され動かされ、無駄な動きをした隙を攻撃されて負ける」のだ。

 さて、この少年。達人二人の意をすべて読み、事前にすべての攻撃予測地点をつぶして回っている。

「……いやいやいや、待てでござる」

 困惑で何を言っていいかわからない侍、キツーネさん。

「……注文はしましたよ、やっ、そうじゃなくてっ、えー?」

 気迫が抜けきってただの優しい顔のお姉さんに戻ってるソバーヌさん。

 実はこの世界では異世界通販もできる。食事はインスタント限定だが異世界から運んでくれる。それがイセカイーツだ。

「どうぞ、サインお願いします」

 流される最強の二人。

「もうお昼だったんですねー」

「う、うん、ござるなぁ?」

「では、ご利用ありがとうございま「お待ちになって」ん?」

 少年の腕をつかむ騎士。チップを用意した侍、完璧な連携だ。

「おぬし何者でござる? と今、お時間大丈夫でござるかな?」

「え、はい。あ、名前? マールリングっすけど」


 15歳の少年、時空を操り高速移動を得意とする。

「よしよし侍任用試験は来年からでござるよ」

「ん? 騎士めざそっか? 歓迎するよ」

 最強の侍と騎士に勧誘される、通称マルちゃん。

「お食事、先にどうっすか?」

 二人の注文は、赤いきつね、緑のたぬき12個入だ。名前が似てるからと買ってみたのだが。

「湯が必要でござるなぁ」

「僕、用意できますよ?」

 空中に指輪程度のリングがあらわれ湯が流れる。

「時空を操ればちょいちょいっすよ」

 5分と3分、時間差を考えて用意し始める。ニコニコ笑顔の少年に熱く勧誘する二人。

「できましたよ、はいお箸です」

 笑顔のマルちゃんが割りばしを差し出す。

 箸はかつて召喚された勇者にもたらされた文化だ。

「今日のところはコイツでとどめでござる」

「ふふっよろしくてよ」

 騎士と侍は互いの品を一つだけ交換する。

「ぬっ、テンプラというのが汁に散らばって、これはっござっ」

「アゲ、重厚でおわりが見えない美味しさ、大きくてこれもいいですわ」

 二人が満足しているのを見て、マルちゃんは去った。次にどの世界に笑顔をもたらすのか。


「「逃げーーー」」

 マルくおさまったようで何よりです。

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ちわーイセカイーツでーす 他山小石 @tayamasan-desu

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