10

「塩穴の弱みは金だ。やつはとにかく金に汚い。貧乏人の性ってやつが抜けねえんだ。かといって、舅の目の届くところであんまりみっともないことはできねえ。自然、やつの目は外へ向く」


 政治ってのはうまく使えばいい金になる、と日向野は云った。


「まっとうにやろうとすれば、政治ほど金を食う職もないんだがな。給料が出て、政務費が支給され、秘書がつけられ、ほかにも数多の特別待遇が与えられているのは、なにも先生方の虚栄心を満たしてやるためじゃない。それだけ負担が重い仕事だと、そういうことだよ」

「弱い人の立場を慮って活動するには、金がないことにはどうにもなりませんからね」

「だが、実際のところ、本当の意味で弱いもんの味方になってる政治家なんてのは、皆無だ。弱い連中は票にならないからな。そいつらの声を代弁する政治家なんているわけがねえ」


 政治家のいう地盤とは、つまりは票のことだ。当選しなければただの人であるところの政治家は、なによりもまず選挙で勝つこと、そこに直結する票を大事にする。有権者はひとりひとりが一票を持っているが、彼らは不特定多数などモノの数に入れたりしない。票とはつまり、確実に自分に投票してくれる支持団体のことなのだ。政治家はみな、己を支持してくれる団体――わかりやすく云うところのホニャララ協会であったり、ナンタラ組合であったり――のために、仕事をすることになる。


「塩穴の支持母体は建設業界。いわゆる建設族というやつだ」


 旧建設省に勤めていた塩穴の義父は、四十代半ばで地元に戻り、父親の支援を受けて政治家となる。もともと地元の名士として土地を束ねていた塩穴の家の息子が選挙に出るとあって、初出馬で当選。以降、塩穴雅憲を婿に迎えるまで二十年以上、議席を逃したことは一度もない。義父の後釜に納まった塩穴も当然、支持母体は建設業界である。


「塩穴と業界はずぶずぶだという噂は、おまえも聞いたことがあるだろう?」

「もちろんです」

「有形無形、さまざまな便宜を図ってやる一方で、票と金を集めさせる。政治家のほとんどはこの手法でがっぽり儲けてる。政治資金規正法なんてなんのそのってやつだ」


 政治家が図る便宜ひとつで業績の浮き沈みが決まり、そこに従業員の生活がかかっているとなれば、企業は当然政治家を敵にまわしたくないと考える。票の取りまとめや、規制の範囲内に収まる程度の献金など、安いものである。


「塩穴の秘書はこれまでに何人もいたが、やつは犬飼を可愛がっていた。ややおとなしすぎるきらいはあったが、頭がよく、地味な仕事も厭わない真面目さが気に入っていたんだろう。大雑把なところのある塩穴をよくフォローしていたようだしな」


 だからこそ塩穴は、犬飼が政治家となるための道を開いてやったのだろう。出馬にあたっては自身の支持母体に声をかけ、犬飼の当選を後押しした。そのおかげで犬飼は、新人としては異例ともいえるほどの票数を獲得することができたのだと云われている。


「それは、わかるんですが……」


 このあたりのことは日向野に教えられるまでもない。塩穴と彼の隠し子を追ううちに、柊も自然と知りえたことだ。


「犬飼は塩穴の元秘書だ。もともとは一介の公務員だった犬飼が、手堅い職を捨てて政治家になったのは、塩穴の影響が大きいと云われている。やつらは両想いだったというわけだ」


 日向野はマグカップを空にする。


「犬飼の政治手法は塩穴の模倣、いや、塩穴そのものだと云ってもいい。政治の手本が先生しかいないんだから、当然と云えば当然だ」


 そうでしょうね、と頷きながら、柊は北居に日向野のコーヒーのお代わりを持ってこさせる。自身と同じくニコチンとカフェインの中毒であるデスクには、せめて片方だけでも欲求を満たしておいてもらいたい、と彼女は思う。それがここで平和に仕事を続ける秘訣なのだ。


「だが、それだけじゃない」

「それだけ?」

「似てるだけじゃないってことだ」


 ちょうどコーヒーポットを持って歩み寄ってきた北居と目を合わせ、柊は首を傾げる。


「どういう意味です?」

「塩穴は犬飼を利用している」

「利用、とは?」


 北居と柊、ふたりの興味を掻きたてるに十分なだけの間を空けてから、日向野は云った。


「この先はあくまでも噂にすぎない。だが、あたらずとも遠からずだろうと、俺は思っている」

「どういうことです?」

「塩穴は犬飼に金を集めさせているんだ」


 仕組みはこうだ、と日向野は続けた。

 まずは塩穴が、自身と昵懇の建設業者を犬飼に繋ぐ。犬飼は建設業者に便宜を図ってやる代わりに、資金の提供を受ける。塩穴は、自身がすでに受け取っている紹介料とは別に、犬飼に渡った資金の一部をも受け取る、という絡繰りだ。

 ひとりの政治家がひとつの団体から受け取ることのできる支援には限度がある。塩穴は犬飼から秘密裏に金を受け取ることによって、その枠を無視して多額の金を手にすることができる、ということになる。


「仕組みはわかりました。でも、疑問は残ります」

「なんだ?」

「塩穴はなんで、そんなに多額の金が必要なんでしょう」


 選挙だろ、おまえが云ったんじゃねえか、小鳥遊、と日向野は答えた。


「ぎりぎりでどうにか踏ん張ったものの、与党の支持率はガタ落ちだ。次の選挙で野党がどこまで議席数を伸ばせるか、塩穴の頭はそのことでいっぱいのはずだ。いや、塩穴だけじゃない、野党の議員はみんな同じことを考えてる。ここがチャンスだと、正念場だと、選挙対策にはさぞ熱が入っていることだろう」


 そうなりゃ必要なのはなんだ、と日向野は北居に向かって顎をしゃくった。


「実弾、ですか」

「そうだ。金だ。もともとがめつくはあったが、いまの塩穴の意地汚さは生半可じゃないだろう。犬飼のことだって、徹底的に利用しようとしたはずだ」

「まさか、そのための談合、とか……」


 公共事業が減少傾向にあるいまの時勢において、喉から手が出るほど受注を欲している企業が、談合を仕切る犬飼による金銭の要求を撥ねつけられるとは思えない。金を出さないならジョイントベンチャーから外す、と云われるくらいならば、必要経費だと割り切ることも厭わないのかもしれない。

 談合はいまだに、明らかになりにくい犯罪だ。事前の話合いによって入札を骨抜きにし、仲間内だけで仕事を融通することは、それ自体が悪事であり、決して表に出すことはできない。だが一方で、確実に仕事を受注するための手段でもある。ともに悪に手を染めたという負の連帯感に加え、現実的な利益にも縛られる。一度かかわってしまえば、抜けることは難しいのだ。

 談合を取り締まる不正競争防止法には、談合の存在を最初に明らかにした告発者の罪を減じる規定がある。だが、その規定が適用されたとて、そもそも談合に参加したという社会的不名誉は消えてなくならないし、悪くすれば業界内で裏切者のレッテルを貼られることになる。その後の仕事に差し障りのあるだろうことは想像に難くない。


「塩穴は犬飼から、より多額の現金を引き出そうとした。犬飼は業者に大規模な談合を持ちかけ、金を集めようとした。いや、あるいは、塩穴自身が談合を計画したと、そういう可能性だってある。」

「仮にも野党三役の一角を占める塩穴が、そんな浅はかな真似をするでしょうか?」

「そのために犬飼を隠れ蓑に使ったんだろうが」


 それはそうなんでしょうが、と柊はなおも首を傾げた。


「それにな、小鳥遊。おまえが、今朝、怒り狂ってた息子の件もだ。おかしいと思わないか?」


 ライバル誌に記事を抜かれて怒り狂っていたのはデスクであってわたしではない、と柊は思ったが、口には出さなかった。唇を小さくへの字に曲げただけで、日向野の話におとなしく耳を傾ける。


「隠し子はスキャンダルには間違いない。だが、裏金と引き換えとなりゃ、話は別だ。次の選挙を見据え、金絡みの醜聞は絶対に避けたい塩穴は、自分と息子に集る俺たちが邪魔だった。そういう見方ができる」


 ええ、まあ、という部下たちの賛同に気をよくした日向野は、わかるよな、と云ったあとで、いよいよ本題に入る。


「あくまでもプライバシーを暴かれた気の毒な政治家、という体面は保ったまま、これまで否定し続けてきた息子の存在をマスコミの前で明らかにすれば、もちろん一時はいろいろと騒がれるだろうが、本当に隠しておきたいことからは世間の目を逸らすことができる」

「でも、塩穴が負う傷だって浅くはないですよね?」


 妻の実家へ婿養子に入った塩穴は、妻と義父をことのほか大事にしていると聞く。女絡みの派手な噂が絶えずとも、離婚の二文字を突き付けられたことがないのは、塩穴がなによりも誰よりも妻が大事だと、ことあるごとに公言しているせいだ。事実、塩穴と噂になったことのある女たちのなかには、醜聞の渦中にひとり取り残され、そのまま切り捨てられた者も少なからず存在する。


「女遊びの噂が絶えなかった塩穴が、それでも離婚することも議席を逃すこともなかったのは、決定的な証拠を誰にも掴ませなかったからでしょう。でも、今回は違います。塩穴慶太郎の存在がある。しかも、彼はまもなく二十歳です。長年の裏切りを、妻とその実家がどう受け止めるか、塩穴にだって読み切れないところはあるんじゃないですか」

「塩穴の妻の絵津子は政治家の娘だ。自身にも腹違いの姉だか妹だかがいることを承知しているし、愛人や隠し子のひとりふたりでガタガタ騒いだりはしないだろう。義理の父にいたっては同じ穴の貉だ。問題ないさ」


 塩穴が気にするとすれば、と日向野は続ける。


「慶太郎の存在を最初に抜くのが、醜聞専門誌だってことくらいだろう。脇の甘い印象がつくことを嫌うだろうからな。やつはおそらく、訴訟も辞さない構えでSに抗議するはずだ」

「じゃ、じゃあ、写真撮れなくてかえってよかったんじゃ……」


 自信の失態をなかったことにしたい北居の声に、莫迦かおまえは、と日向野は冷水を浴びせかけた。


「俺たちみたいなのはな、抗議されてナンボ、訴えられてナンボの商売なんだよ。ったく、千載一遇のチャンスを不意にしやがって、なにがよかっただ、死ねよ、このボケ!」

「……デスク」


 もはやパワハラなどといった生易しい言葉では足りないであろう恫喝を口にした日向野に向かって、柊は、いまのはまずいですよ、と顔を顰めた。怯えた北居は席へ戻らせる。


「編集長に聞かれたらえらいことになりますよ。あの人いま、そういうの過敏だから」


 ウィークリーゴシップの双璧が一、半井率いる班のひとりが先月末付で退職をした。激務による鬱病の悪化がその理由だった。

 目玉が上についている編集長の谷本は、そのことで半井をひどく責めた。曰く、オレの心証が悪くなるだろ、と。

 大丈夫だよ、あんたの心証なんてとうに底辺這ってるから、とは誰も云わなかった。不撓不屈が身上であろう醜聞誌記者たちも、わが身は可愛い。社内権力者には逆らえないのだ。


 威嚇するような視線でしばらく北居を見つめていた日向野は、やがてわざとらしい溜息をついて話を元に戻した。


「気の毒なのは息子だよな。香港で平和に暮らしていたのを日本へ呼び寄せて、挙句、自分のために利用し尽くそうとするんだから。どうあっても幸せな親子関係なんて望めねえな」


 嘆くように云った日向野のその声が、柊の思考に新たな閃きをもたらした。


「デスク」

「なんだ?」

「犬飼はなんで死んだんでしょうか」


 はあ、と日向野は大袈裟なほどに訝しげな顔をして部下を見据えた。


「なんでって、自殺なんだろ。おまえがそう聞いてきたんじゃねえのか。なんだ、藪から棒に」

「それはそうなんですけど……」

「ですけど、なんだ」

「自殺って、動機はなんです?」


 そりゃおまえ、さっきの話の続きだよ、と日向野はまたもや火のついていない煙草を咥えた。


「犬飼はゴミ焼却施設の建設をめぐって業者に談合を持ちかけていた。やつにとっちゃ慣れない大仕事で不手際もあったんだろう。そのことはとっくに噂になってて、すでに地検だか公取だかが動き出してたって話もある。先生に迷惑をかけたくなかった犬飼が自殺を選んだって、別に不思議なことじゃない」


 自分が目をつけられてることくらい、犬飼だって承知していたはずだからな、と日向野は云った。


「犬飼ってのは、そんなにも忠義者だったんですかね?」


 柊が云うと、日向野は厭そうに顔を歪めた。


「おまえ、なにが云いたい?」

「犬飼は本当に自殺だったんでしょうか」


 なんだと、と応じた日向野の唇から煙草がぽろりと転がり落ちる。


「地検と公取の件は裏を取らなきゃわかりませんが、犬飼がもし本当にそこまで追い詰められていたのなら、監視くらいはついていてもおかしくない。それが真昼間にホテルで死んだ。取締当局としてはあってはならないことです」


 柊は眉間に深い皺を刻む。順調に追い詰めていたいた獲物の死により、内部に動揺と狼狽と落胆を抱えることになったであろう東京地方検察庁あるいは公正取引委員会に同情したわけではない。


「おかしいと思いませんか。まだ当局の動きすら曖昧ないまのタイミングで、なぜ、死を選ぶ必要があるんですか」

「取調べに耐えられないと思ったのか、先生と家族に申し訳ないと思ったのか、って、だからさっきからそう云ってるだろうが」

「だけど、犬飼が死ぬことで、一番迷惑を被るのは、その大事な先生じゃないですか」


 なにかを確信したかのような柊の詰問に、日向野は眉をひそめながら、小鳥遊、おまえ、とこれまたあらかじめ答えがわかっているかのような口調で尋ねた。


「自殺じゃなけりゃ、なんだっていうんだ」

「その質問はなしですよ」


 否とも応とも云わず、日向野はますます表情を険しくする。


「なしってのはなんだ」


 柊は薄暗い笑みを浮かべて答えた。


「デスクだってわかってるくせに、ってことです」


 上司と先輩が鈍い刃をぶつけあうように交わしているやりとりを、北居は少し離れたところでなにも云わずに聞いている。よけいなところばかり賢いことだ、と柊は思った。


「わかってるって、なにをだよ?」


 日向野の反論はいかにも弱々しい。

 犬飼は自ら死を選んだのではない。殺されたのだ。正確に云えば、自殺を教唆された。柊が閃いたのはそういうことだ。

 唆したのは塩穴、いや、塩穴の意を受けた誰かだ。塩穴には不在証明アリバイがある。息子の存在を暴いてやろうと、彼を追いかけていた自分たちがその証人だ。

 もしかしたら塩穴はそこまで考えていたのかも、と柊は深読みする。複数の雑誌の記者があらゆる角度から自分を監視しているいまならば、誰がどういう形で死のうと、疑いをかけられることはありえない、と。


「小鳥遊、……おまえ、少し落ち着け」


 日向野が強い声を出した。

 彼が本気で柊を諌めようとすることは珍しい。本人は決して認めようとはしないだろうが、この国で最大の発行部数を誇る大手新聞の記者であった柊に対し、日向野はいつもどこか遠慮している。


「あんまり先走るな」


 警察の捜査を舐めるな、と溜息をつき、日向野は続けた。


「犬飼の自殺はほぼ決まりだろう。そこを疑ってかかるような余地はない。だいたい、ここしばらく塩穴先生の動きを押さえているのは俺たちなんだ。やつに妙な動きのなかったことは、明らかだろ」

「でも、誰とどんな話をしたかまで完璧に押さえているわけではありません」

「それはまあ、そうなんだが……」


 自分がなにを云っているのかわかってるんだろうな、と日向野は云う。


「現職の国会議員が殺人に関与していると、そう云ってるんだぞ、おまえは」

「あるいは自殺教唆」

「んなものどっちだっておんなじだ。俺たちにかかれば、犬飼は塩穴に殺されたようなもんだと、そうなるだろうが」


 じゃあなんで、塩穴は息子の写真をSに撮らせたんですか、と柊は攻め方を変えた。


「ひた隠しにしていた息子の存在を公にしてまで、塩穴先生には隠したいことがあるんだろうと、そう云ったのはデスクですよ」

「それはおまえ、カネの話だろ」

「カネの絡んだ人殺しの話かもしれませんよ」


 日向野はぐったりと倒れ込むように椅子に腰を下ろした。扉でもノックするように指の関節で机を叩きながら、なにかを思案している。

 柊にだって確信があるわけではない。確信もなしにとんでもないことを口にしているという自覚だってある。


 けれど犬飼は、公務員を経て市議会議員になったようなお堅い男だ。

 見合いで結婚した妻とのあいだには、小学生のこどもがひとりいる。遅くに授かったその子を、彼はとても可愛がっていたという。愛犬はゴールデン・レトリーバーが一頭、住まいは両親から相続した郊外の一戸建て。趣味は実益を兼ねたゴルフと読書、特技は書道。

 いまどき、こんな四角四面にクソ真面目な男も珍しい、と柊は思う。

 あの塩穴に政治的な意味で心酔していた割には、女も博打も嗜まず、むろんほかに変わった趣味があるでもない。どこまでもまっとう、どこまでも健全。職場や自宅に近いわけでもない、繁華街のシティホテルなどという胡乱な場所で、遺書も残さずに自殺するなど、およそ考えられない。

 犬飼が自殺の場所を選ぶとしたら、山奥で首を吊るか、目張りした自家用車で一酸化炭素を吸い込むかといったところだろう。方々に迷惑のかかりそうなホテルでの自死など、およそ彼のセンスではない。ましてや、死後にあらぬ不名誉な疑いまでかけられそうなラブホテルまがいのシティホテルなど、論外だ。


「おまえの云いたいことは理解した。だが、理解しただけだ。納得はできない」


 日向野はようようのことで口を開いた。コツコツ、とまるでリズムを取るように机を叩き続けている。


「俺は、犬飼はあくまでも自殺だと思っている。その動機がなんであれ、やつ自身が考え実行したことだ。塩穴の関与する余地はない」


 ただ、と彼は机を叩くのをやめて柊を見上げた。


「おまえの云うこともわからなくはない。グレーゾーンを渡り歩いていたとはいえ、塩穴雅憲という大きなバックを持ち、おまけに家族を大事にしていた犬飼に、ホテルなんぞで死を選ぶような動機が見当たらないことはたしかだ。談合の件で地検やら公取やらに揺さぶりをかけられたとしても、塩穴の名を出さずに火の粉を払うことはまだ十分に可能だったはずだからな」


 調べてみたいか、と日向野は尋ねた。柊は迷うことなく頷いた。


「もちろんです」

「市原も俺も手助けはしない。それでもいいか」

「かまいません」


 ならやってみればいい、と日向野は答えた。


「だが、くれぐれも編集長にだけは嗅ぎつけられるんじゃねえぞ。でないと、厄介なことになるからな」

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