第3場 穴の中

それは正しく穴だった。

杖の灯りで照らしても、先が全く見えない。足元の階段らしきものが、暗闇に溶けるように続いている


「おい、本当にここで間違いないんだろうな?」


ザドは不機嫌に、エルフに問いただした


「ええ、ここですね」


緊張感のない声が帰ってくる。


まるで、悪夢だ。

繰り返されるやり取りに、ザドは嫌気がさしていた。

いくら右も左も分からない迷宮だからと言って、合って間もないエルフの指示に、従って良かったのか。

松明代わりの光る杖に照らされた、エルフの横顔を見つめ、己の判断の甘さに苛立ちが増していく。

さも当たり前の様に、階段を下りていくエルフに続いて、ザド達も奈落の底に誘うような穴を下る。

下に行くにしたがい、薄ら寒くなって来た、どこまで続くのか、検討もつかない、延々と続く穴。


どれ位下りたのだろうか、サドが沈黙に耐えかね、エルフに質問する


「そもそもお前、魔法使いだろ?だったら、迷宮から脱出する魔法とか使えないのか?」

「前にも説明しましたが、私は魔道士ではなく精霊使いです。それに、もし私が魔道士だとしても、そんな高度な魔術は、相当の実力者かさもなくば、数人がかりでしか、発動しませんよ」


深いため息の後、前を行くエルフは相変わらずの口調で、そう答えた。


「ただ、ここではそれも、無理かも知れませんけどね」

「なんでだ?」


相変わらずしんがりを、恐る恐るついてくるクムが、珍しく質問する


「ここ、エレが圧倒的に少ないんですよ。普通こういった所では、通常より多く、エレが集まるものなんですが、この量だと大量のマナを使う術式は、安定しないかも知れません」


壁に手を付き、崩れそうな足元を確かめるように、穴を下りながら説明する。


「へぇ、でもマナとかエレとか、関係があるんだか?」

「はい、特殊な場合を除いては、エレを媒介にマナを使う術式が殆どですから。クムさんは魔道に興味があるんですか?」

「へへ、だけどおれは無理だ、おれ学がないから」

「大丈夫ですよ、それに簡単な呪法なら、少し学べば使えるはずですよ」

「ほんとか?」

「ええ」


「チッ」


呑気に話す二人に、ザドのイライラは益々募っていた。

相変わらず、どこまで下りても、暗闇が広がるばかりの穴が、3人を飲み込んでいく。


「私も詳しくはないんですけど、例えば火を点けるとか、水を動かすとか」

「へぇ〜。どうやるんだ?」

「えぇと、確か、」

「おい!お前達いい加減に…」


どこまでも緊張感のない二人に、いい加減に飽き飽きしていたザドが、会話に割り込もうとした時、エルフが右手を上げて、止まるように合図を出す


「着いたようですよ」


そう言い前に向けた杖が、階段の終着点を照らし出した。

そこは、開けた広場のような場所で、天井の高さは、杖の灯りでは暗く分からない、そして…


「おい、どういうつもりだ?」


サドは腰の短刀を抜いて、エルフへと突き付けた


「おかしいですね?声は確かに、こっちらから聞こえて来たんですが…」


あいも変わらずひょうひょうとした喋りで、ザドが突き付けた短刀など意にも返さず、杖の灯りで先を照らし、辺りの様子を確認するが、先が無い。完全な行き止まりなのだ


「返答次第では…」


そう言うと、突きつけた短刀が妖しく光る


「おかしいですね?」

「おい!待て!」


先を確かめるように、広場の中央付近まで歩み出るエルフ、慌てて後を追うザド。


ドサッ


不意に、二人の背後で大きな音がする。

反射的に振り返ると、天井が崩れ落ちていた。


「に、兄ちゃん…」


階段の出口付近から動かずいたクムが、怯えた声を上げる


「心配するな、だいじょ…」


そう言いかけて、クムが何を言わんとしているか理解した。

天井が崩落したように見えたが、その天井が立ち上がっのだ。

天井ではない、蛇に似たなにかが、首をもたげたのだ。その高さは背丈の有に2倍はある


キッシャーーー


甲高い音を出し威嚇して、ザド達にもたげた首で突っ込んでくる。

間一髪、左右に飛んで躱す、と同時にエルフは何かを呟いた。

すると、そいつの顔付近が弾け切れる。


キッシャーーーーー


叫び声をけたたましく上げるが、致命傷には程遠い。

その間にと、ザドは階段へと走り出すが、エルフを追い詰める頭とは別の頭が、尾を的確に操り、サドの行く手を阻む。


「くそ!クム、目を狙え!目を!」

「だ、ダメだ兄ちゃん、ダメだ」


そう情けない声を出すクム。

だが仕方なかった、何故なら狙うべき目が無いのだ。


2頭の頭がある大蛇の魔物、ヒュドラの亜種


(化け物め…)


ザドは懐に手を入れ、ロントで手に入れた、取って置きを確認した。

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剣と竜[つるぎとりゅう] 三夏ふみ @BUNZI

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