王女様の心残り
蕪 リタ
王女様は食べたい
「・・・・・・あぁ!もう!!アレが食べたい!!」
なんで転生したのか、恨みたくなる。間違いなく、私のせいではない。あの駄目神のせいだ。今度会ったら、一発殴っていいかな!?
***
申し訳ありませんと土下座する物体・・・・・・いや、人?か、みさ、ま?の所為(多分)で知らない空間にいる。どこよ、ここ。
何でもこの神様(仮)によると、ここは地球とは別世界の天界になるらしい。
で、何で私がここに居るのかというと、この神様(仮)が居眠りで仕事サボってたら、寝ぼけて時空に穴開けちゃったらしく、私は運悪くそこに落ちてここに居るという。いや、仕事サボりたくなるのわかるけど、寝ぼけてバカやらかしたのはダメでしょ!?
思うのが早いか、行動が早いか、こちとら仕事でもある程度の地位にはなったアラフォーおばちゃん。居眠りサボり云々よりも寝ぼけてやらかすのをやめなさいと、説教に入ってしまった。こんな事するから、職場の若手たちに陰で『お局さま』とか言われるんだろうなーと思う。でも、やめられない。
思わず私の少ない正義感から神様(仮)に説教してしまったけど、私ってこれからどうなるんだろうという想いの方が強くなって、説教は終わった。
ずっと「すみませんでした!!」「申し訳ありません!」と土下座で謝ってた神様(仮)も沈んだ顔のまま立ち上がり、やっと自己紹介してくれた。
「改めまして。この世界『アス』を創った、君たちの言葉を借りると『アスの神』のアシュトンと申します。君には本当に申し訳ないことをしたと思っていますが・・・・・・この際です!是非ともご協力願いたいのです!」
「はぁ。何かするのですか?」
「君を元の世界に帰すのは、神界の掟によってちょーっと難しいので、この『アス』に転生していただきたいのです」
この駄目神、協力って言ったよな!?なんか面倒なこと押し付けられそうな予感・・・・・・。でも、転生しなければ帰れないときた。結局、生きたいならこの駄目神の話に乗るしか無い。仕方がない。アラフォーおばちゃんだもの。多少は酢いも甘いも知っているから、何とかなるだろう!
「では、転生に了承するので、何の協力が必要なのか伺ってもいいですか?」
沈んだ顔から一気に晴れやかな顔になった駄目神は、とある国の王女として生まれたら、その国を私の持つ知識によって豊かにしてほしいと早口でいい切り、そのまま転生させた。いやいやいや!もっと他に説明よこせ!!
あれから十数年。結局『アス』に放り出される形で王女に転生した私は、年齢に無理のない範囲で少しずつ国を変えようと努力した。
まず初めにしたのは、何も知らない現状を把握するためにただただ国の歴史、王城内外の状況、市井の現状を王女としての勉強範囲を広げて教えてもらった。
この国、当時五歳の私以外の王位継承者はいない為、範囲を多少広げたところで何も問題なかった。勉強量が増えただけ。久し振りに徹夜で勉強したわ。
十歳前には市井に変装して降りたり、王女として訪問したりしながら表と裏事情をある程度把握した。
この国は隣国と良好で、何か悪いところがあるかと言われれば、ない。寧ろ、良いところもない。国民も苦労も無ければ、貧しくもなく、良くも悪くも住みやすい。ただ、何も特徴がない国であった。勉強すればするほど、この国をどうすればあの駄目神の協力になるのか分からなくなっていく。そんな国。本当になさすぎる・・・・・・なさすぎる?それだ!主産業がイマイチ目立つものが無く、どれも平均的。特産がない。何か特産品になるものを探さないと!
ようやく決まった方向だが、お腹が空いては戦は出来ぬ。最近は夜更かしを「肌によろしくありません!!」と侍女たちから鬼の形相で止められているので、早起きして考えに耽っていた。十代の王女の私。そろそろ婚約者も決めなければいけないので、お肌は綺麗にしないといけないらしい。
おかげで、陽の光が昇り始めるとともにお腹が空いた。特産品をと考えが食の方へ向かい始めたのも、いけなかったのかもしれない。
そういえば、こうラノベとかでよく異世界で和食が恋しくなるというけれど、留学や出張で海外によくいた私にとって、和食よりも・・・・・・いや、和食といえば和食?だよね。日本発祥だよね、カップ麺って。その中でもお気に入りだった・・・・・・というよりもこれから食べようとコンビニで買った直後にこの世界に落とされたせいか、赤いきつねが恋しかった。
だって、手軽にうどん食べれるんだよ?一人暮らし、出張も多く自炊しない。帰って寝るだけのアラフォーにとっては、ありがたくも簡単にうどんが食べられる。最高でしょ?
それが目の前でお預け転生。しかもこの世界、ご飯は不味くない。寧ろ美味しいのに、麺類が一切無い!麺、食べたくなるじゃん!!私の赤いきつねさん・・・・・・しっかり握りしめときゃよかったな。やっぱりあの駄目神、殴るか。
『これは、一生懸命この国をよくしようと頑張る君へ。ささやかなプレゼントです』
そう頭に響いた。振り返ると、枕元に置いてあったのは、念願の赤いきつね。ご丁寧に割り箸まである。え・・・・・・えぇえええ!!ありがとう!神様!初めて感謝したかもしれない。というか見てたの?いや、心の声を聞いたのか?まあ、心残りが食べれるならいいか。
さらっと聞こえた声の事は忘れて、侍女に目覚めのお茶の代わりに白湯を少し多めに頼む。持ってきてもらった白湯を、お馴染みの少し開けた蓋の内側に淹れる。
頭上にはてなマークが見える侍女と共に五分待ち、蓋を開ける。待ち焦がれた出汁の匂いがふわっと香る。あー、匂いだけでお腹空く。幸せの匂い。
侍女を側に寄せ、「内緒ね」と共にこっそりお出汁に浸る麺を啜り、心の底から思った。神様ありがとう!もっと頑張るよ!あ、麺が無いんだから、作っちゃえばいいのか!
後に、この世界初の麺『うどん』がブームになるのは、今はまだ知らない話。
王女様の心残り 蕪 リタ @kaburand0
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