「私」が幸せになる方法

@tatsumaki1834

「私」が幸せになる方法

懐かしい夢を見ている。とても悲しくなる夢。


「ねぇ,サトリって知ってる?」

「何それ……えっと妖怪?」

「そうだよ,お前の事だよ,バケモノ」

「え」


……とても悲しい夢を見ていた気がする。

まだ1人じゃなかった時の夢

私はいつまでこの世界で1人なんだろう



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


僕の名前は悟。今日から新しくこの学校に転校してきた。

あまり目立ってはいけない,僕には心の聲が聴こえる力があって,昔いじめられたことがある。

同じことが起こらないようにしないと。


「坂上悟です。前は山形の田舎にいました。よろしくお願いします。」


簡単な挨拶、自分は身長は高いが見た目は前髪を伸ばし、少し猫背にして顔が見られないようにしているから、あまり、目立ちはしないだろう。


「よろしくね、坂上君」


隣の席の女の子、なんでだろう、聲が聴こえない


「君は?」

「わたしは成瀬紬、つむぎでいいよ」


紬さんは不思議な女の子だった。

誰からも好かれ、頭も良く、そして何より、彼女の聲は聴こえなかった。

初めての経験だった。どうして聲が聴こえないんだろう?彼女は僕のことをどう思っているんだろう。

初めて不安になった。


彼女と関われば関わるほど、彼女のことを考えることが多くなった。


「悟君は優しいね」


彼女はなぜか僕の事を名前で呼ぶ

名前を呼ばれるたびにドキッとしてしまう。

もしかして、彼女となら僕は普通の人間として生きていけるのではないか?

彼女こそが僕の運命の人なのではないか?

それでも周りの聲を聴くと、僕は彼女に相応しくないと考えてしまう。


(また紬ちゃん、あのインキャと一緒にいるよ)

(ほんと物好きだよね)


そんな聲をよく聴くようになった。

僕は彼女と一緒にいられる人間になりたい。

僕は一代決心して、初めて美容室に行った。歩き方も、今までは目立たないように背中を丸めて歩いてたけど、胸を張って堂々と歩くように意識した。

効果は分かりやすかった。


(え⁉︎誰⁉︎あのイケメン⁉︎)

(うわっカッコイイ……)


次の日学校に行くとクラスに行くまでにいろんな聲が聴こえてきた。

紬さんは驚いてくれるかな?


ガラッ


教室の扉を開けるとみんなが一斉にこっちを振り向いた。

そして一瞬の間


「……」

(……)


「え⁉︎もしかして悟くん?」

「おはよう。紬さん」


「「「「ええええええええええええええ⁉︎」」」」



その日から周囲の僕への態度が変わった


「おはよう!悟くん!」

「おはよう!悟!」


みんなが急に僕と仲良くするようになってきた。どうも聴く限り、僕の顔は結構イケてるらしい


「ほんとにビックリだよね。どうして急に髪切ったの?」

「ちょっと決心してね。その表れかな」

「ふーん、私は前の髪型も好きだったけどね。」

「はは、ありがとう」


そこからは紬さんと一緒に歩いていても、不評はあまり聴こえてこなかった。

むしろお似合いの聲も聴こえてくるようになった。嬉しかった。

そしてあっという間に半年が過ぎ。


「ねえ、聞いた?隣のクラスに転校生が来たんだって」

「あぁ、聞いた聞いた。なんでも凄い美人なんだって?」


「悟くんも興味ある?」


この頃にはすでに、周りの聲では僕と紬さんが付き合っていると思われていた。


「いや、今のところ特に興味ないかな。」

「そう、良かった」



僕たちの関係が動き出したのは彼女が転校して来てからだった。





「サトル?」

「え?」


次が移動教室だった為、紬さんと移動していると、急に名前を呼ばれた。

活発そうなショートカットにすらっと伸びた足、少しつり目な女の子がそこには立っていた。


「ほんとに、サトルなの?」

「君は……ミノちゃん?」

「! サトル!」


急に彼女は僕に抱きついて来た。


「え⁉︎」

「会いたかった……サトル」

「えっと……私、先に行ってるね」


そう言って紬さんは走っていってしまう。

とても戸惑ってるように見えた。

初めて彼女のあんな悲しそうな顔を見た気がした。


「と、とりあえず落ち着こうよ、ミノちゃん」

「うん、ごめんねサトル。サトルにまた会えたのが嬉しくて」

「あ、ありがとう。僕もまた会えて嬉しいよ」


そうだった。ミノちゃんはこういう人だった。

昔から心の聲と話す声が全く一緒だった。


そして


家族を除いて、唯一、僕の秘密を知る幼馴染。



その後、僕らは連絡先を交換して、放課後一緒に遊びに行く約束をして別れた。

少し授業に遅れてしまって、先生には申し訳ないことをした。


「ねえ、悟くん」

「どうしたの?紬さん」

「凄い話題になってるパフェ食べたいんだけど、放課後一緒にパフェ食べに行かない?」

「え⁉︎」

「だめ?」

「えーと、行きたいんだけど。ごめん今日はちょっと用事があって、また今度でもいい?」

「用事ってどんなの?」

「さっき会ったの幼馴染なんだ。それで、街を回ることになって」

「そう、わかった」


どうしよう。なんか紬さんが怖い。


「えっと、何か怒ってる?」

「別に怒ってないよ」


とてもいい笑顔で言われる。

ヤバい、聲が聴こえないからわからないけど。

なんかヤバい


「じゃあ、また週明けだね。バイバイ」

「日曜日!」

「え?」

「えっと、に、日曜日とか空いてる?」

「うん、空いてるよ」

「その、日曜日一緒に出かけない?そのパフェも気になるし……だめかな?」

「ダメじゃないよ!わかった、じゃあ日曜日ね!」

「うん、あ、そろそろ行かないと。また後で連絡するね」

「またね」


良かった。最後には怖い雰囲気が無くなってたと思う。

聲が聴こえないってこういう感じなのか。

大変だな。


急いで約束の場所に向かうと、そこにはすでにミノちゃんが待っていた。


「ごめんミノちゃん!遅くなった。」

「大丈夫だよ、私も今来たとこだし。正確には5分前に着いた」

「それでも、待たせちゃってごめん」

「じゃあ美味しいものでも奢ってもらおうかな〜」

「もちろんいいよ。何がいい?」

「じゃあ久しぶりにタピオカ飲みたいかも。行こ」


そういうと彼女は手を繋いできた


「み、ミノちゃん。さすがに恥ずかしいんだけど……」

「だ〜め、離さない。私だって恥ずかしいけど、勇気出してるんだから」

「そんなこと言われると、もっと恥ずかしいんだけど」

「いいの!サトルと会えなくなってから、寂しかったんだから。その罰よ」


彼女の声はとてもまっすぐで、聲が聞こえる僕にはとても心地よくて、そんな彼女の手を振り解けるわけもなく、手を繋いだまま、僕たちは目的地へと向かった。


「ん〜美味しい!」


彼女と一緒にいるのはとても楽しい。

彼女の言葉は常に聲と一緒で、彼女の聲を聴くのは昔から心地良い。


「サトルも一口飲む?」

「じゃあ一口貰おうかな。」

「いいよ〜はい」


一口もらうと少し僕には甘くて、少し間接キスだと思った自分が恥ずかしくてドキドキした。


「間接キスだね」


彼女は少し照れながらも、また口をつける。

そんなまっすぐに言葉を伝えてくれる彼女がとても輝いて見えた。


彼女を自宅の近くまで送ったあと、僕は家に帰り、日曜日のことを考えた。

着ていく服がない。

僕は急いで妹に相談し、服をコーディネートして貰った。

その後、デートの事について細かく聞かれることになってしまった。


デート当日、妹からのOKも貰い、僕は急いで紬さんと待ち合わせをしている駅前に急いだ。


(うわ、あの子かわいい〜)

(モデルさんかな?凄い綺麗)


駅前に着くとそんな聲ばかりが聴こえてくるようになった。


「あ、おはよう悟くん」

「おはよう、紬さん」


そんな挨拶を交わすも内心はドキドキだった。

白いワンピースに上から羽織った空色のカーディガン

彼女の長い黒髪がとても映えていた。


「えっと、服似合ってるね」

「え、あ、ありがとう。悟くんもいつもと雰囲気が違くて、びっくりした。カッコいいよ。」

「あ、ありがとう……」


僕らは互いに少し顔を赤らめながら、2人で歩き出した。



目的のカフェに向かって歩いて10分ほど。

少し進むと、駅近なのに大きな公園と、公園の中に佇むオシャレなお店が見えた。


「ここが今日の目的地です!」

「おお!いい雰囲気のお店だね」


急に元気な紬さんにつられて、とりあえず僕のテンションも上がる。

こんな感想でいいのか、正直言った後に不安になった。


「いらっしゃいませ、二名様でよろしいでしょうか?」

「はい」

「それでは、席へご案内いたします。」


2階のテラス席に通された僕たちは、2人で向かい合って座る。


「ご注文がお決まりになりましたら、お声がけください」


そういうとスタッフのお姉さんは離れていった。


「悟くんは甘いもの大丈夫?」

「うん、むしろ好きなほうだよ、紬さんは?」

「私は大好きなんだ、1日に一個は甘いの食べたいかな」


彼女の大好きと言った言葉に一瞬ドキッとさせられる。

聲が聴こえればこんなに焦ることないんだけど、これが普通の感覚なんだろうな


その後僕たちはそれぞれ特製パフェと特製ケーキを注文した。


「ねぇ、悟くん。一口交換しない?」

「いいよ」

「じゃあ、はい、あーん」

「え⁉︎」

「早く食べてよ、私も少し恥ずかしいんだから」


僕は彼女の手から一口食べさせてもらい、代わりに彼女からも同じことを求められた。

死ぬかと思うほど、心臓が高鳴った。

聲が聴こえないから紬さんがどんな気持ちで僕に接してくれているのかがわからない。

でも

分からないからこそ、一喜一憂出来ているのかもしれない。


彼女とパフェを食べ終わった後、2人で服を買いに行くことになった。

「まるで、デートみたいだね」

そんな彼女の一言に終始ドキドキしっぱなしだった。


「今日は楽しかったよ、またね、悟くん」


紬さんと別れて家に着くと、妹が待ち構えていた。

内容を報告するようにとのことだ。

紬さんと言った場所や食べたもの、どう思ったのかについて、根掘り葉掘り聞かれた。

そして,すごく緊張したからか,全然寝ることができない,

そうなってくると変な事ばかり考えてしまう。

僕は紬さんじゃなくて,聲が聴こえてこない人に惹かれてるのかもと。


「サトル!おはよ!」

「おはよう、ミノちゃん」


眠い目を擦りながら、登校していると、ミノちゃんが後ろから声をかけてきた。


「どうしたの?凄く眠そうだけど?」

「いや、昨日考え事してたらあまり寝れなくて」

「大丈夫?いっそのこと休んじゃったら?」

「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう」


彼女の言葉はいつも心地良い。心の聲と言葉が重なって、とても綺麗な音になって聴こえる。

2人で他愛もない会話をしながら、学校へと向かっていると、


「なんか変な感じするわね」

「ん?どうしたの?」

「なんか誰かに見られてる感じするのよね、サトルは感じない?」

「いや、特には感じないけど」

「そう、サトルがそう言うなら気のせいよね。サトルなら近くに誰かいたら分かるし」

「そうだね、変な聲は聴こえないかな。あとミノちゃん、あんまり大きい声でそのこと言わないでね。」

「分かってるわよ。サトルと私だけの秘密でしょ。」


2人の秘密みたいでちょっと嬉しいけど、少し恥ずかしい


「いや、家族も知ってるけどね」

「それはそれ、これはこれ」


照れ臭くてごまかしながら学校へと向かう。


いつも通り学校が終わり、放課後になると


「悟くん、良かったら……その……」

「サトル!帰るわよ!」

「あ、うん。えっと紬さんどうかした?」

「ううん、なんでもないの。また明日ね悟くん」

「うん、また明日」

「ほら!早く帰るわよ!」

「わかったから引っ張らないでよ」


ミノちゃんに手を引かれながら学校をあとにする。


「そういえばさっきの子」

「え?紬さんの事?」

「……名前で呼んでるのね」

「いや、なんか流れで」


どうしようミノちゃんが怖い


「はぁ……良くないけどいいわ」

「ありがとうございます?」

「それであの子なんだけど、なんか不思議な子じゃない?ちょっとミステリアスというか」

「そうかな?」

「まぁサトルからすれば、あの子の聲が聴こえるから、特にミステリアスには感じないのかもしれないけどね」

「いや、そういう点ではミステリアスかも」

「ん?どういうこと?」

「今まで無かったんだけど、紬さんの聲だけ聴こえないんだよね」


ミノちゃんは急に立ち止まると、声のトーンを落として僕に再度聞いてくる


「……今なんて言ったの?」

「いや、だから、紬さんの聲は聴いたことないんだって」

「なるほど……」(もしかして、それで……)

「どうしたのミノちゃん?」

「ごめん、先に帰るわ」

「え」

「じゃあね、サトル!また明日!」


彼女は僕に手を振ると聲が聞こえる前にダッシュで帰っていってしまった。

僕は呆気に取られたまま、彼女を見送ることしか出来なかった。



翌日、ミノちゃんと会うこともなく、学校が終わり、あとは帰るだけだったんだけど……


「すまん!坂上、恩に着る!」

「良いって良いって、またね」

「ありがとう!」


日直の彼が(妹の迎えに行かなきゃと)内心焦ってたからそれっぽい理由をつけて、代わりに日直の仕事を行い、職員室に向かう


(もう、サトルと帰りたかったのに、どうせ知らない人からの告白でしょうから、さっさと断って追いかけよう)


「ん?」


この聲はミノちゃん?人が少なくなった学校でミノちゃんの聲がどこからか聴こえてくる。

告白されるみたいだけど、断るの決まってるんだ。

一応待っててあげようかな。



職員室から出てすぐのところで聲が聴こえた。

(どういうこと?)

ミノちゃん?

空き教室からミノちゃんの聲が聴こえる。

僕はイケナイと思いながらもその空き教室に聞き耳を立てる


「確か、成瀬さんだよね?」

「こんにちは、木下さん」

「もしかして私を呼び出したのって成瀬さん?」

「はい、木下さんに伝えておきたいことがあったので……」

「何かしら」

「悟くんのことは諦めた方が良いですよ」

「…………」(なにを言って……)

「悟くんのことは諦めた方が良いですよって、言ったんですよ」

「……なんであんたにそんな事言われなきゃいけないのよ」

「薄々気づいているんじゃないですか?私のこと」

「……」(もしかして、悟と同じ)

「そうですよ、私は悟くんと同じ、サトリです。」

「ッ…………」


今、紬さんは何って言った?


「少し私の話をしますね」

「…………」

「あるところに何の変哲もない家族がいました。父、母、そして娘。娘はスクスクと育ち、ある時気がついたのです。周りの人は心の聲が聴こえないのかな?と。その家族は全員がサトリ、心の聲を聴くことが出来たのでした。しかし、少女は父と母の聲を聴いたことがありません。どうしてなのか母に尋ねると、サトリ同士では聲が聴こえないのだと、父は母にとっての運命の相手だったのだと。私たちが幸せになるにはパートナーが必要なのだと」

「それがサトルってわけ?」

「ええ、しかも父と母は私が中学生の頃に事故で亡くなりました。」

「…………」

「分かりますか?木下実さん。私がどれほど絶望していたか、そして、悟くんに出会った時にどれほど心臓が高鳴っていたか。」

「そんな大事な話を私にして良かったの?」

「大丈夫ですよ、サトリは相手のイメージも聲で大体わかります。あなたは人の秘密を誰にも言わない」

「…………」

「なのでお願いです。木下実さん、私から悟くんを奪わないでください。あの人しかいないんです。」

「私は……」


気が動転して、立ち聞きしてしまった。ど、どうしよう

あ、やばい


「坂上ー」


先生が追いかけてくる


「坂上、これ職員室で落としてたぞ。」

「あ、ありがとうございます、それではまた。」


僕は走って下校した。


息を切らして家に着く。

どういうことだ?

紬さんが僕と同じサトリ?

だから彼女の聲だけ聴こえない?

僕は混乱していたのかもしれない


ということは僕はサトリに惹かれたってこと?

さっきの話だと、紬さんも僕に好意?を持ってくれているとは思う。

でもそれって僕がサトリだからじゃないのか?

サトリ同士だと聲が聴こえないって言ってたし、

僕も彼女のことが気になっていた

でも僕も彼女もサトリといった能力に惹きつけられているだけなんじゃないか?




次の日、僕は眠い目を擦りつつ学校に向かった。


「お、おはよう」

「おはよう、悟くん」


紬さんは何事も無かったかのように平然としている。

昨日僕がいたことに気付いてないのかな?

昨日ミノちゃんはどう答えたんだろう。紬さんはどう思っているんだろう。

授業中もずっとモヤモヤしていた。


「どうしたの悟くん?体調悪い?」

「大丈夫だよ紬さん」


そんな空返事ばかりを繰り返すうちに、放課後になった。

最近だとミノちゃんが教室に来て一緒に帰ろうと誘ってくれるんだけど

今日はこない


「ねえ、悟くん」

「ん?」

「今日は一緒に帰らない?」

「……えっと」

「多分だけど、木下さんは来ないと思うよ」

「えっ……うん。わかった。一緒に帰ろうか」


紬さんと一緒にいるのは楽しい

正直緊張するし、聲が聴こえないから楽しんでくれているのか分からないけど、

とてもドキドキする。運命。

本当にそうなのかもしれない。


ミノちゃんと一緒にいるのは落ち着く

聲も聴こえるし、それを隠さないから

とても安心する。恋愛ってドキドキするもんだと思ってたけど、こんな形も恋愛なのかもと思ったくらいだ。


恋愛ってなんなんだろう。

僕はミノちゃんと紬さん、どっちが好きなんだろう。



次の日学校に登校するとミノちゃんから放課後に呼び出された。


「どうしたの?ミノちゃん」

「悟」


凄い思い詰めた顔で僕を待っていたミノちゃん。

僕は聞かれることが分かっていながら、それでもミノちゃんに尋ねた。


「悟は誰が好きなの?」

「僕は……」

「私は悟が好き。子供の頃からずっと好き。大好き。」

「ミノちゃん……」

「教えて、悟。あなたは誰が好きなの?」


ミノちゃんの気持ちが痛いほど伝わってくる。

僕はどうするのが正解なのか分からない。

それでも必死に自分の言葉を、自分の心の聲を声に出す。


「分からないんだ、ミノちゃんの事はもちろん好きだけど」

「悟は成瀬さんのことはどう思ってるの?」

「紬さんは不思議な人で、初めて会った、心の聲が聴こえない人だったから。気になってはいたんだ、でもこれが同じサトリだから気になっていたのか、紬さんの事が好きだから気になっていたのか、今では分からないんだ。ごめん」

「やっぱり、あの時の話聞こえてたのね」

「あ……ごめん」

「謝らなくていいわ。わざとじゃないって分かってるから」


その後、僕は色々考えていたことを口にした。

正直、情けない答えだと自分でも思っている。

これでミノちゃんに呆れられても仕方がないとも思っている。ごめんミノちゃん


「分かったわ。本当はこんなこと言いたくないんだけれど、分かった。」

「え、それってどういう……」

「とりあえず私は、悟を諦めるつもりはないわ。誰にも取られたくない」


ミノちゃんの真っ直ぐな言葉を聞いて、悪いとは思いつつも嬉しくなってしまう。


「だから、悟が決めて。私は選ばれても、選ばれなかったとしても、後悔しないようにするから。だから最後は悟から、悟の聲を聞かせて。」


ミノちゃんの真っ直ぐな目が、真っ直ぐな言葉が突き刺さる。痛いくらいに心が打たれる。


「分かったよ、ミノちゃん。ありがとう」




翌日の登校中


「おはよ!悟!」

「おはよミノちゃん」

「えへへ、なんか昨日の今日だと少し恥ずかしいわね」

「うっ」

「ん?どうしたの悟?」

「いや、何でもないよ」


聲と同時に照れながら話すのはやめて欲しい、凄い可愛く思えてしまった。

その後はいつも通り、他愛無い話をして学校に向かった。


「またね!悟!」


そう言って走り去ってしまった彼女。

(流石に昨日の今日はドキドキだったわね)

ギリギリ聴こえる距離で、急にそんな聲が聴こえて来て、内心ドキドキした。


彼女を見送り、階段のところでドキドキしていると


「わっ!」

「うおっ」

「えへへ、びっくりした?おはよ悟くん」

「びっくりしたよ、おはよう紬さん」

「なにぼーっとしてたの?」

「えっと、何でもないよ。」

「ふーん、まぁいいか、教室行こ、悟くん」

「うん」


彼女に名前を呼ばれるといちいちドキッとする。

これは彼女が好きだからなんだろうか

そんな事を考えながら、教室の前まで2人でやってくると


「そういえば悟くん」

「ん?」

「放課後、少し時間ちょうだい。」

「え……分かった。」


一言そう言うと彼女は教室に入っていってしまった。

正直、とうとう来たかと思っている。

あの日、彼女たちの会話を聞いてしまった日から、いずれ呼び出されると思っていた。


そして、授業中も一切身が入らないまま、放課後を迎えた。


「悟帰ろー!」

「ごめん、ミノちゃん、ちょっと用事があるから今日は先に帰っててくれる」

「え、」


その後彼女はチラッと紬さんを見ると


「なるほどね〜本当は分かりたくないけど、分かったわ。またね悟!」

「うん……またねミノちゃん」


隣でじっと僕達のやりとりを見ていた紬さんは、ミノちゃんが教室を出ていくのを見ると


「じゃあ行こうか悟くん」

「うん」


紬さんの後を追うと昨日ミノちゃんと話した場所で立ち止まった。


「ありがとうね、悟くん。それで早速なんだけど……木下さんから私の事聞いた?」


少し重い雰囲気、相手の聲が聴こえない環境に慣れてないからそう感じるのか、紬さんの気持ちが落ち込んでいるのか分からない。


「いや、ミノちゃんからは何も聞いてないよ」

「そうだよね、木下さんはそういう人じゃないもんね」

「一つだけ聞いていい?」

「悟くんの質問なら何個でもいいよ」

「ありがと、紬さんは……その、僕と同じ……」

「……そうだよ、サトリだよ」

「いつ、僕がサトリだって気付いたの?」

「悟くんが転校して来た日に分かったよ。だって心の聲が聴こえない人は私の両親を除いて初めてだったもの、そしてその瞬間に、運命だと思ったの」

「……」

「聞こえていたと思うから、知ってるかもしれないけど、私の両親はサトリ。そしてサトリ同士が出会うことは本当に稀なの、父と母は35年かかったわ。それがこんなにも早く、絶望している私の前にあなたが転校してきた。そのことが、どれほど嬉しかったか。」

「僕も初めて聲が聴こえない人に出会って、正直驚いた。」

「悟くん、好きです。」

「えっ」

「好きです。」

「そんな、急に……」

「急なんかじゃないよ、運命だと思って、話して、遊んで更に好きになった。」

「……ありがとう」

「急でごめんなさい。でも木下さんに負けるわけにはいかないの」

「やっぱり知ってるよね」

「木下さんから直接言われたわ。あの子どれだけ真っ直ぐなのよって思った。」

「ふふっ、その気持ちはわかるよ」

「だからね、悟くん。これが私の聲。私の気持ち。私と、付き合ってください。」

「……」

「木下さんからも言われたと思うけど、最後は悟くんが決めてほしい、私も、選ばれても、選ばれなかったとしても、後悔しないから」

「ありがとう、紬さん」


その後、僕と紬さんは一緒に帰った。互いに少し緊張してなのか、少しぎこちなかったけど。

紬さんを送ってから、僕は考え始める。

どうしたら良いのか、僕の本当の気持ちは何なのか。




………………………………………………………



月日が流れ

高校最後の日



「悟……その顔を見ると、決めたのね」

「うん、ミノちゃんに僕の聲を聴いて欲しくて。わざわざありがとうね」

「いいわ、ただ、」

「ただ?」

「ちょっと深呼吸させて、緊張するから」

「もちろん、落ち着いたら教えて」

「……」(大丈夫、大丈夫。どんな結果になろうとも、私は強い、私は強い)




「よし、いいわ、聴かせてサトルの聲を……」

「うん、僕もミノちゃんのことが気になってたんだ、ミノちゃんはいつも真っ直ぐで、聲と言動が一致してて、素敵な女の子だっていつも思っていたから。だから告白された時、とっても嬉しかったんだ。」

「……」

「でも、ごめん。僕はもっと紬さんのことを好きになったんだ。ごめんね、ミノちゃん。こんな僕を好きになってくれて、ありがとう。」

「……っつぅ、はぁ。なかなかくるものがあるわね。」(まだよ)

「傷つけちゃって、ごめんね」

「謝らないの。私は後悔なんてしていないわ。それよりも、これから紬さんのところに行くんでしょ。早く行ってあげなさい」(まだ、まだ大丈夫)

「うん、ありがとうミノちゃん。じゃあまたね。」

「ええ、また会いましょ」(まだよ、まだ)



彼女の聲は気丈だった。

ずっと悟くんに気付かせまいと、悟くんに聲が聴こえなくなるまでひたすら耐え忍んでいた。


そして、悟くんの姿が見えなくなると



みのりさんは両手で顔を覆い、大粒の涙を流していた。



(いかないで……サトル。サトル……)



その姿は、いつも見ている活発な彼女とは違い、夕日に照らされ、儚げに涙する、一人の恋に敗れた女の子だった。



見惚れてしまうほどに綺麗だった。



ごめんね。



それでも、誰かを傷つけたとしても、私には彼しかいないの。



私が普通の人として、幸せを掴むために



彼女に心の中で語り掛けながら、私は悟くんの待つ場所へ向かう。



私が、サトリが幸せになるために。

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