第5部 打ち明け話
第1話 ローブの男
朝日が昇り始めたばかりのスベーニュの街、教会の鐘が一日の始まりを告げる少し前のこと。
漆黒のローブで頭から全身をすっぽりと包んだ男が、異質なオーラを纏いながら街を歩いていた。足取りはどこか軽快であった。
男は細い路地に面した店の扉を開けると、開口一番に大絶賛した。
「実に素晴らしかった!」
「なんだい? 朝から騒々しいね……。こっちは寝不足なんだ。何さ? 護衛もつけず、ほっつき歩いているのかい?」
「今はプライベートにつき、護衛など不要。そんなもの邪魔だ。朝からそんなお小言はよしていただきたいものだ」
「……それで? どう素晴らしかったのさ?」
「そうそれだ、あの某楽器店の子息。あなたの紹介のとおりの腕前だ」
「そうだろう? 私の自慢なんだ」
「そこで、もう一つ教えてほしいことがある」
「……今度は何だい?」
男性は頭を少し傾けると、口元を引きつらせただけの冷徹な笑みをフードから覗かせた。
「行方不明中の花売り娘のことだ。どうやら、珍しい髪色をしていて、没落貴族の令嬢という噂もあるらしい。居場所を知らないだろうか?」
「馬鹿言うんじゃない。長いこと一般庶民の私が、そんなこと知ってると思ったのかい?」
「うむ。その職人と一緒にいるところを見たと聞いたのだ。最近の孤児院はどうだ? 設備に不足はないか? 資金は足りているか?」
「知らないものは知らないよ。あんたも意地汚いねぇ」
「真面目に何でも安請合いする人間よりは信用できるだろう? 姉上はよく優しい嘘を吐いてくれるが、私は人を傷つけるような嘘は大嫌いなのだ。……本当に何も知らないのか?」
「だから、知らないと言っているだろう。あんた、意地汚さを信用と繋げるのは少しばかり無理があると思うがね。……少しぐらい人の情を持ったらどうだい?」
「情ならあるぞ。今は娘のティフェーナが可愛くて仕方がないのだ」
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