第3話

 そして翌朝。僕は小鳥の囀りで目を覚ました。「ふぁ~。んー。よく寝た。」そう呟きながら目をこする。「ソフィはまだ寝ているのか。」僕はソフィの方へ一目やった後、ベットから起き上がった。


それから中央にある、こじんまりとした窓辺へ向かった。窓辺に近づくにつれ、太陽光は段々と強くなっていく。僕はそれを手で遮りながら進んだ。そして窓辺に着くと、外の様子を見た。外は辺り一面松の木で埋まっていて、それが地平線の彼方まで続いていた。


「うぁー。周りは辺り一面松の木だらけ。ここは森のど真ん中なのか。それともこの世界にはこんななのか…。」僕はそう思案をめぐらせながら、ぼんやりと眺めていた。


「あらぁ。起きていたんですか。お早いですわね。」ソフィのぼんやりとした声が後ろから聞こえてきた。僕はその声を聞いて、すぐさま後ろを振り向いた。


 そこにはくせ毛によって髪が縮れたソフィが億劫な表情をしていた。「やぁ、ソフィ。おはよう。」「おはようございますわ。昨夜は、よく眠れましたか。」「あぁ、良く眠れた。そのおかげで疲れも取れた。」僕はそう自信満々に答えた。


「そうですか。それは良かったです。もし疲れが取れていないって言ったら、私、退屈でしたわ。」そうソフィは安堵のため息をついた。「そうだな。僕もよかったよ。それで話が変わるが、朝ごはんとかはあるのかな。」「朝ごはん?朝ごはんなら昨日と同じ食堂ですわ。」「けれど、もうその食堂には入っていいのかな。」「別に大丈夫ですわ。」「そうか分かった。それじゃ、行ってくる。」


僕はそう言うと、足がもるれたかのような歩き方をしながら、部屋を出ていった。「私も身支度をしたら、すぐ行きますわ。」僕がドアを閉めた瞬間、ソフィの叫び声が内から響いてきた。「そういえば、僕も身支度していなかったな。」僕はそう思いだしたかのように、軽く身支度をした。そして終わると気分が変わったかのように、足をぴんとしながら食堂へ向かった。


 そして食堂へ着くと、テーブルには昨日までなかった茶色のテーブルマットが敷かれていた。その上には一口サイズに切られたパンやゆで卵、湯気が立った紅茶が置かれていた。「ほぉー。美味しそうだな。」僕は皿の上にある食べ物を優雅に謎着こんでいた。


その時、後ろからさっきのようにソフィの声が聞こえてきた。「あら、何をしているんですか。そんな所に突っ立って。」僕は後ろを振り返る。「いや、ちょっと見とれていただけさ。」「ふーん。おかしなものですわね。」


ソフィはそう愛嬌のある笑顔を見せながら、椅子に座った。僕は少し恥ずかしがりながら、椅子の方へ向かい、座った。


ソフィはそのことを確認すると、パンを一切れ口に入れた。僕も彼女の様子を一目確認すると、両手を物音立てずに合わせた。そしてパンを一切れ口に入れた。


 それから僕とソフィは朝食を一切れ口に入れ、口を動かすことを続けていた。その間、食堂は深い沈黙を保った。それはお互いに元気がないように。そして僕とソフィは朝食を終えた。


そのころには二人とも元気が出てきたのか、食後に楽しくしゃべりあった。「今日はどこに行くんだい。ソフィ。」「うーんとね。今日は砂漠へ行くの。」「砂漠!あそこって何かあったか。」僕は目ん玉が飛びてるくらい驚いた。


「あるよ。オアシスが。そこで水遊びするの。」「なんだあるのか。てっきりあんな暑苦しい場所で追いかけっこでもするのかと。」僕は胸をそっと撫で下ろした。「そんなことは致しませんわ。私だってあそこで追いかけっこでもしたら死んでしまいますわ。」「それもそうだな。よし、それじゃ行くか。」「そうですわね。行きましょう。」


そう言うと、お互い席を立った。そして食堂のドアの前に立った。その時、昨夜のあいつが急に現れた。おそらく僕たちを見送りに来たのだろう。


「それじゃ、行きますわ。ぐるぐるドーーン。」ソフィはいつものように叫びながらが、真正面の壁に突っ込んだ。僕も彼女の手をつなぎ、一緒に突っ込んでいった。


その瞬間、僕はあいつの姿をちらっと見た。そいつは何か笑っているような感じに見えた。だが嘲笑っているようにも見えた。けれど僕はそんなことは気にせずソフィと突っ走った。そして眩い光が一気に射した。そして気が付くと、いつもと同じあの一本道を歩いていた。


「楽しみだなぁ。二人で水遊び。」ソフィは喜々としていた。「そこまで楽しみなのか?」「そうですわ。だって初めてですもの。」「へぇ、そうなんだ。てっきりさっきの奴もいるから。そいつと遊んでいるのかと…。」「あぁ。あの子はさっきの蝶と同じで私の幻想からできたものなの。だからあんまり楽しくないの。自分自身と遊んでいるみたいで…。」「そうか…。それじゃ、楽しく遊ぼうじゃないか。付き合うよ。」僕は意気揚々と答える。


「そうですか。それはとても楽しみです。」ソフィは余りの嬉しさに目を輝かせた。僕はその様子を見てほっこりする気持ちになった。


「あっ、もうすぐ着きますわ。早く行きましょ。」ソフィは、そう甲高い声を上げながら、僕を連れて走り出す。するとまた、いつものように眩い光が射した。その中を僕たちは駆け抜けていく。それはまるで楽園へ続く道を進んでいくかのように…。


 そして気が付くと、僕とソフィは砂漠のど真ん中に、まるで棒のように立っていた。「ここが砂漠か…。ネットとか写真では見たことがあったが行くのは初めてだな。」僕は初めて見る景色を興味深く見渡していた。


「へぇ、始めてなのですか。それはよいですね。より楽しみが増えます。」ソフィはより一層の笑顔を見せた。「そうだね。で、オアシスは何処にあるんだ?」「あそこ側にあります。」ソフィはそう言いながら指を指す。


そして指した方向はソフィから見て北北西の辺りだった。「行きましょうか。」「ああ。行こう。」僕はそううなずくと、ソフィに連れられながらオアシスへと向かった。


 それからというもの、僕とソフィは汗だくになりなが、、無限に続く砂漠の中をとぼとぼと歩いていた。「はぁ、はぁ。まだつかないのか。」「もうちょっとですわ。だからそれまで頑張ってください。」ソフィはそう言いながら、まるで重たい荷物を引っ張っているかのように僕を連れていた。その時の僕はさっきの探検家のような気分は消え失せており、ただ広大に広がる砂漠に迷う放浪者のような気分になっていた。


「はぁ、はぁ、はぁ。うわっ。」その時何か硬い物につまずき、そのまま顔ごと砂の床に突っ込んだ。「だ、大丈夫ですか!」ソフィはその光景を見て口をあんぐりと開けた表情を現した。


そして僕の方に鼠のような急ぎ足で向かった。「大丈夫ですか。ねぇ、大丈夫ですか。」ソフィは僕の顔を上げ、頬っぺたをぴちぴちと叩き続けた。それが功を制したのか、僕は目を覚ました。


「んぅ。あぁ、ソフィ。」「よかった。死んでいなくて。」ソフィは胸を撫でおろした。僕はそのまま上半身を起こし、口に入った砂をぺっと吐き出した。そして今さっきこけた所を見つめた。そこにあったのは四角く出っ張ったコンクリートのようなものだった。それはまるでビルの屋上の一角のようにも見えた。


「なんなんだ。あれは…。」僕はあれについて茫然と見つめていた。するとその時、ソフィは僕の肩を軽く叩いた。


「何をそんなぼんやりとしているのですか。さぁ、行きましょう。もうすぐですよ。ほら。」ソフィはそう言いながら、向こうの方に指を指した。


そこにはヤシの木々たちが堂々と生えている場所があった。そこがオアシスであった。「さぁ、もうすぐです。行きましょう。」ソフィは手を差し伸べた。僕はその手を力強く握り、立った。そして僕とソフィはオアシスと言う楽園へと入っていった。


 それからはヤシの木の中を通り抜けた。そこには6メートルくらいある湖が光輝いていた。「よーく見て。とても綺麗でしょ。」ソフィは笑顔で僕の顔を覗き込んだ。「あぁ、そうだね。とても綺麗だ。」僕は心奪われた。それはこの光景を初めて見たからだ。


「よし、それじゃ泳ぎましょう。」そうソフィは嬉々しながら、いきなりドレスを脱ぎ始めた。


「えっ、うわっ、ちょっ。」僕は頬を赤くし、急いでソフィから目をそらした。そしてそのころにはもう彼女は裸体になっていた。「ん?どうしたのですか。目なんかそらして。ほら泳ぎましょ。」ソフィは僕の服をぐいと引っ張った。「いやっ。先に入ってて。僕は後に行くから。」僕は声が裏返った。「そうですか。それじゃ先に行ってますわね。」ソフィはそう納得すると、そのまま湖へ駆け出した。


その時僕はソフィの姿を横目で見た。それはとても美しかった。まるで純白の天使かのように。だが僕はすぐさま目をそらした。「あまり女の子の体をじろじろ見てはいけないな。うん。そうだ。」僕は自分自身に納得させながら、服を脱いでいった。


そして僕は服を全て脱ぎ終えた。だが僕は顔が赤くなり、その場でうずくまってしまった。「だめだ。恥ずかしすぎる。裸一本で歩くのは。」しかしこんな所でうずくまっていては、ソフィを待たせてしまう…。僕は決心した。そうすると立ち上がり、湖の畔まで歩いた。その雄姿はまるで勇ましい騎士のようだった。


「よし、とりあえずここまで着いた。…。」僕は湖の畔に着いたことを確認した。その瞬間、すぐさま湖の中に入った。その速度は人の目では目視できぬくらいだった。「ふぅー、良かった。ほんとに良かった。」僕は水中の中で一安心し、水面へ上がった。そしてソフィがどこにいるか、辺りを見渡した。すると湖の真ん中辺りで泳いでいた。「あそこかぁー。よし、行くぞ。」僕はそう呟くと、ソフィがいる所まで泳いでいった。その泳ぎ方はまるで生き生きとした魚のようだった。


そして僕が付いた頃、ソフィは優雅に泳ぎまわっていた。その姿はまるで人魚のようにも見えた。「おーい、ソフィ。着いたよ。」僕はソフィから3メートル離れた所から呼びかけた。さすがにこんな姿で近づくわけにはいかない。だから離れていた。


「そうですか。分かりましたー。」ソフィは元気が良い返事を返した。すると彼女は急に僕の方に近づいてきた。「えっ、ちょっと。ま…。」僕はすぐさま逃げようとした。しかしその前に阻止されてしまった。「逃がしませんわ。」ソフィはそう甘えた声を出しながら、僕に抱き着いた。


「…。」僕は口一つ開けることができなかった。沈黙が続いた。ただソフィの生暖かく柔らかい感触と、僕の心臓の鼓動だけが沈黙を破っていた。「ふふ。どうしたのですか。そんな顔を赤くして。」「…。いや、その。初めてだから。女の子に抱かれるの。」「そうですか。いい経験ですね。」ソフィが優しく呟いた。


するとその時、ソフィが急に離れて僕に水をかけてきた。「うわっ。」僕は不意打ちを食らった。それまで暖かった体が急に冷たい水で冷やされた。「ふふふ。どうですか。冷たいですか。」ソフィが嬉しそうにニヤニヤと笑った。「やったなぁ。ソフィ。それ。」僕はソフィに目掛けて水をかけた。だがソフィはそれを察知したかの如く、一瞬で水中に隠れた。そして数秒後、水の中から勢いよく出てきた。


「ふぁー。どうですか。私、ここでもとでもすばしっこいでしょ。」「あぁ、そうだな。それっ。」僕はその瞬間、一息つく間もなく水を掛けた。「きゃっ。やりますわね。それっ。」ソフィはとても愉しげな様子を見せた。そして水面から水をすくい、素早く掛けた。「うぉ。やるなぁ。それ。」僕は負けじと水を掛けた。「きゃっ。それ。」「ほれぇ。」「それぇ。」「はぁ。」「たぁ。」


それから僕とソフィは無我夢中に水を掛け合った。それは痛快無比に、そして呵々大笑だった。その様子を見て太陽が喜んでいるのか、さっきより一層に水面を輝かせた。だが僕たちはそんなことには気づかずに、ただじゃれあっていた…。


 そして太陽が東へ傾いた頃。僕とソフィは湖から出て、服を着用した。それが終わると僕たちは畔で休息していた。「はぁ、疲れた。まるでさっきの追いかけっこと一緒だな。」「そうですわね。それくらい楽しかったってことです。」ソフィはそう悠々としながら、湖を見つめていた。


湖は橙色に輝く太陽の光を反射し、一面に染まっていた。その光景は昼の景色とはまた別の様相を醸し出していた。「綺麗ですわね。まるで宝石のように輝いている。」「そうだね。僕もそう見える。」僕とソフィはうっとりとしながらその景色を眺めていた。


 するとソフィが急に僕の前に顔を出した。「ねぇ。私と一緒にいてくれますか…。」ソフィは少し照れながら、そう僕に聞いてきた。それはまるで初めて好きな人に告白するかのようだった。


「えっ…。そう急に言われても。」僕は戸惑った。それは余りに唐突すぎたからだ。「あぁ。別に今すぐとは言いません。けれども…。早く返答を頂きたいです。」ソフィは躊躇う様子を見せた。


「そうか…。分かった。それじゃもう少し考えさせてくれ。」僕は余韻が残るような返答をした。「はい。分かりましたわ。…。できれば永遠に一緒にいたいんですけれども。」ソフィは僕の返答に承諾した後、目線をそらしてそう小声でつぶやいた。「ん。何か言ったかい?」「いいえ。なんでもありませんわ。」ソフィはそう濁しながら、さっき座っていた所に戻った。


それから僕たちは少しばかり景色を見た後、またソフィの呪文を使って食堂へ向かった。そして軽めの食事をとって、また冒険に出かけた。


種々雑多に生えているお花畑に行ったり、はたまた澄んだ空気が漂う森林の中を歩き回った。それはとても楽しくて、辛さも忘れくらいだった。


そして僕とソフィはその楽しさに包まれながら、最初の塔に戻ってきた。


するとソフィは僕の方を向いてこう呟いた。「それでは…。返答を聞かせてもらえますか。」「…。」その瞬間、周りの空気はしんとした。そこにはさっきまでの楽しかった雰囲気はなく、ただ寂しさだけがあった。


それから僕は数分間、沈黙する。そして重い口を開いた。






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